悪虐氷姫の幸せな結婚

nao

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討伐依頼-5

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竜討伐が思ったより早く終わり、夜には討伐完了を祝う宴が用意されました。

族長達は上機嫌で、次々とリオにお酒を注ぎにやって来て、私の事を物凄く褒めてくれます。

私の事をまるで女神の様に崇める族長達の言葉に、満更でもない顔をしてお酒を酌み交わしているリオは、ほんの少し酔っている様です。

それにさっきから物凄い嫌な視線を感じます。
その視線は殺意を持ってリオを睨みつけていました。
あれは確か第二族長の息子ムリカ=エンカント。
手に持っているお酒が小刻みに震えています。
私は小さな頃から悪意に曝されてきたのでよく分かるんです。
理由までは分かりませんが、あの男はリオを憎んでいる、殺したいほどに…
リオは気づいていない様ですが、私はリオを守りたくて、リオの腕に自分の腕を絡めて、リオにピッタリとくっつきました。
そして、(リオには何もさせない)そんな気持ちを込めて、ムリカを睨みつけてやりました。

私の視線に気付いたムリカは慌てて目をそらしました。
後ろ暗い気持ちを持っている者の典型的な行動です。

「やっぱり怪しい…」

宴も1時間が過ぎ、リオは族長達に囲まれてちょっとお疲れの様です。
私も、皆の言葉が頭の上を滑っていくようで、ちょっぴり眠くなって来ました。
その事に気付いたリオが、エリオ様を呼んで私を部屋に帰すように言いました。

「私なら大丈夫です、まだリオと一緒にいます」

そう言いましたが

「ダメ、子供は寝る時間です」

そう言って私を帰そうとします。

「子供じゃありません、リオのパートナーです」

私もそう言ってリオの腕にしがみつきましたが

「ああ、シルビアが可愛すぎる」

などと言って相手にしてくれません。

「リオ!」

「頼むよシルビア、私もすぐに切り上げて戻るから、先に帰って休んでいてくれ、エリオ、シルビアを頼む」

「お任せ下さい、さぁ姫様行きましょう」

仕方なく後ろ髪を引かれる思いでリオの側を離れました。

「リオ、早く戻って下さいね」

リオの耳に顔を寄せて

「ムリカに気を付けて」

誰にも聞かれないように、小さな声でリオに耳打ちしました。

「分かった、すぐ戻るよシルビア」

そう言って、私の頬にキスして下さいました。

会場から出る前にそっとムリカを窺います。
嫌な目をして、リオを見ています。
あ…今、確かに笑いました。
やっぱり何か良からぬ事を考えているような気がします。

会場を出て、部屋に向かう途中ローナ様が現れました。
彼女はムリカの妹です。

「何か御用でしょうか?」

シンディとビビアンがローナ様から私を守る様に私の前に立ちます。

よく見ると、ローナ様の顔は青白く、唇が小刻みに震えています。
手に付けているのは魔導具?

中指にリングを通すフィンガーリングブレスレットを着けています。
それを私達に向けると、キーーーンと不快な音が辺りに響いてシンディ達が頭を押さえてその場にうずくまりました。

「シンディ!ビビアン!」

私の後ろを警戒していたエリオ様は耳から血を流しています。

私も頭の中を掻き回される様な不快感に顔をしかめます。

「貴女、一体何をしたの?!」

ローナ様は一歩下がって

「来ないで!来たら3人を殺すわ!!」

真っ青な顔をして叫びます。

「何が目的ですか?」

するとローナ様がガチャンと、こちらに首輪を投げて寄越しました。
「それを首に付けなさい」

私はそれを拾い上げ首に付けました。カチャンと鍵のかかる音がして、これが、奴隷用の拘束具の首輪だと気付きました。
魔力を少し流してみると反発する様な反動が返って来ました。
ローナ様の使用人達が何処からともなく現れて、シンディ達を何処かに運ぼうとします。

「シンディ達をどうするつもり?」

「少しの間隠しておくだけよ、貴女がおとなしくしていてくれれば何もしないわ。付いて来て。」

仕方なく私はローナ様の後に続きました。

宮殿を出て、麻袋を頭から被されて、馬に乗せられてどこかに連れて行かれます。馬が蹴り上げる砂の音しか聞こえません、方向も良く分かりません。
20分程走ったでしょうか?
どうやらここが目的地の様です。
砂漠の中にポツンと一軒屋敷が建っていました。
馬から降りて屋敷の中に入ると、意外と中は涼しくて、平凡な外観に比べて中は豪華に飾りたてられ、ちょっとした離宮のようになっていました。

大きな天蓋付きの寝台がある部屋に通されると、

「もうすぐ兄が戻ると思うわ、ここから逃げようなんて思わないで、もし逃げたとしても、砂漠に慣れていないあなたでは一人で元の場所に帰るなんて出来ないから、死にたくなければここにいてちょうだい」

そう言いながらローナ様が
私の手首に手錠の様な魔力を吸い取る魔導具をガチャリと着けました。魔力を流そうとするとそれを吸い上げるようです。

「本当にごめんなさい…」

そう言ってローナ様は部屋から出て行きました。

「早く戻らないとリオが心配するわ、シンディ達は大丈夫かしら?」

独り言を言いながら手錠を見つめました。
その手で首輪に触れます。
奴隷用の首輪
主に逆らうと首を絞めて言う事を聞かす魔導具…
奴隷扱いですか…碌でもないわね

「リオの元へ帰りたい…」

口に出すと余計に悲しくなりました。

「ムリカ…許さない…」

なんだか外が騒がしくなってどうやらムリカが帰って来たようです。
扉を開けるなり私を見つめ、何やらブツブツと呟いています。
私の傍にふらふら寄ってきてその手を私に伸ばそうとした時、

ムリカの指先が凍りました。
次に手、腕、二の腕、肩、胸…
徐々に凍り付いていきます。私の首と手首に着けていた魔導具は私の魔力に耐えきれず粉々に砕けて足元に落ちました。

ムリカの瞳が暗く、絶望に翳ります。

ムリカを凍らせ
部屋を凍らせ
廊下、階段、エントランス
屋敷中がどんどん凍っていきます。
使用人は恐ろしさに先を争って屋敷から出ようとしています。

屋敷に囲われていた他の女達も我先にと外へ出て行きました。
私の他にも女を囲っていたんですね。

私はそのまま、溢れる魔力を抑えることはしませんでした。

「リオ、私はここよ…」

屋敷は全て氷で覆われ、更に膨らんで、氷山のようになろうとしています。
砂漠から熱が奪われ、辺りは氷点下の寒さになっています。
屋敷から放り出された者達は、あまりの恐ろしさに我を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。

屋敷の中には私とムリカの氷漬けの死体が一つ…
ムリカの顔は恐怖に目を見開き、口は馬鹿みたいに開いたままです。

しばらくすると温かい魔力を感じました。

「リオ?」

リオが来てくれた。
屋敷の外からリオの魔力を感じます。
炎が扉を焼き、愛しい赤金色の瞳が私を見つけて泣きそうになっています。

「シルビア!」

私はあっという間にリオに抱き締められました。
リオの温かい腕が、胸が、魔力が私の冷え切った心と身体を優しく温めてくれます。

「リオ、心配かけてごめんなさい」

リオに隙間が無いくらいピッタリと抱き締められて、私の声が上手く出ません。

「シルビア、一人にしてすまない。私が悪かった」

「リオ、私なら大丈夫です。でもちょっとやり過ぎたかもしれません…久しぶりにすごく腹が立ったので…」

「気にするな、こいつが悪い」

氷漬けのムリカを、チラリと横目で見て、リオが言いました。

「第二族長が黙っているでしょうか?」

「おそらく何も言えないだろう、もし、抗議してきたら族長の座から引きずり降ろすだけだ、他にも族長候補はいる。」

「そうですか…リオに迷惑がかからないなら良かったです。」

「シンディ達が心配している。早く帰ろう、アスラン!」

リオが呼ぶとアスラン様が現れました。周りにいた砂漠の民が突然現れた聖獣火の鳥に頭を垂れます。

「リオ、アスラン様に乗って来たんですか?」

「アスランが一番早い」

確かに…

「さぁ、帰ろう!」

「あの…私が乗っても大丈夫なのですか?」

「もちろんだ」

「私…こげちゃいませんか?」

「あはは…炎に見えているのは魔力だから別に熱くは無いぞ?ただ魔力の弱い者は乗れないと言うだけだ。シルビアは大丈夫、私よりも強いからな。」

そうなんですね

「あのアスラン様、よろしくお願い致します。」

『遠慮せずに乗るが良い』

私とリオはアスラン様の背に乗せてもらい無事に宮殿に戻ってきました。

宮殿では急にアスラン様に乗って行ってしまったリオを追いかけようと大騒ぎになっていました。
私達が空から舞い降りると、シンディとビビアン、エリオ様まで涙を流して喜んでくれました。
3人とも魔導具の影響は残っていないのでしょうか?
ちょっと心配です。
私の事を心配したリオはこれ以上ここにはいられないと言ってアスラン様に頼んで一足先に王都へ飛んで帰る事になりました。
シンディ達も明日の朝ここを発つそうです。
族長達は私に謝罪したいとリオに縋りつきましたがリオはそれを許しませんでした。

「ムリカとローナの事はお前達で何とかしろ!」

そう言って、族長達に後始末を丸投げしていました。
それと

「次も討伐に来て欲しかったら二度とこの様な事が起こらぬよう肝に命じておけ!」

そう言って釘を刺すことも忘れませんでした。
そして、行き2日、討伐3日、帰り2時間の私の初めての討伐依頼は終わったのでした。






















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