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36 パクリだ

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 ──翌朝。

 ハロルド兄様から贈られた立派な羽根ペンに興奮した俺は、さっそくコロッケのレシピ登録に必要な書類を記入しようと手に取った。
 ……ここまでは良かったのだが、まずはお金の価値を覚えるようにと、鬼畜リュカ先生による授業が行われている。

 「もう覚えたのに……」
 「では、昨日リオン殿下が例の五人組に渡した金額はいくらでしたか?」
 「百万フラン?」
 「不正解です」
 
 やれやれと溜息を吐くリュカが、俺の金貨の入った袋の中身を机の上に出した。
 コロリと転がる大型金貨に、目を見開く。

 「六百四十万フランです」
 「っ、なんだと!? ていうか、俺はなんでこんな大金を持ち歩いているんだ!」
 「それは、リオン殿下がキラキラしたものがお好きだからでは?」
 「……なんだその、馬鹿みたいな理由は」

 そんな大金を常日頃持ち歩いていたとは気付かずに、頭を抱える。

 確かにお金は好きだが、金貨のような金ピカな物が好きって、俺はカラスかなにかか?

 「大型金貨の裏面を見ながら、ニタニタしていらしたじゃないですか。いずれ自分もリオネル・クロフォードのようなイケメンになるのだと」
 「黒歴史だ……」

 リュカの話によると、俺は金貨を持ち歩いているだけで、使用することはなかったらしい。
 むしろ金ピカのものを集めて、コレクションしていたようだ。
 全く覚えていないが、無駄遣いしていなかっただけ、良かったのかもしれない。

 「もうお金の勉強は終わりっ!」
 「リオン殿下……。それでは、閨のお勉強をなさいますか?」
 「…………スミマセン」

 続きをお願いしますと羽根ペンを握ると、リュカは声を押し殺して笑っていた。
 失礼な野郎だ。

 もう覚えていることを午前中にみっちりと指導され、リュカの中での俺は、幼稚園児レベルの脳味噌だと思われていることがわかった。



 昼食を挟んで、ようやくレシピ登録だ。
 見本を見せてもらったのだが、文字ばかりでわかりづらい。
 前世では小説を読むことが好きだった俺なら、まあ読めないこともない。

 だが、俺も最初から活字を読むことが得意だったわけではない。
 ハマっていた面白い漫画の続きをいち早く知りたくて、原作となる小説を読み始めたことで、苦もなく読めるようになったんだ。
 だから、活字を読むことが苦手な人からすると、目眩がしそうな見本だ。

 日本のように電子機器があれば、動画配信が出来るのだが、そんな高度なものはない。
 それなら、写真付きのレシピを作れば良いと思ったのだか、スマートフォンはもちろん、デジタルカメラもない。
 くわえて、俺にそういったものを作る技術は皆無だ。
 
 「絵を描くしかないのか……」
 
 ただ、俺は絵を描くことだけは本気で苦手だ。
 でも日本でよく売れていたレシピ本は、完成写真だけでなく、作る工程でも写真が載っていたし、すごくわかりやすかったのを覚えている。
 
 苦戦しながらコツも書き込んで、なんとか完成させた。
 それを試しにリュカに見せてみると、度肝を抜かれたかのように、新緑色の瞳を揺らした。
 
 「っ……素晴らしい。とても読みやすいです。リオン殿下には、このような文章をまとめる才能があったのですね……」
 「ふふんっ。難しい言い回しがわからないから簡単な言葉を並べてみたけど、逆にその方がわかりやすくなっただろ? 馬鹿が役に立った」
 「ええ、これなら子供でも作れそうです。でも、この落書きはなんですか? ……病原菌?」
 「それは芋だっ!」

 こてりと首を傾げるリュカは「芋?」と、まるで初めて聞いた言葉のように呟く。
 それから俺の顔と絵を見比べて、吹き出した。

 「オイッ!」
 「ふふふっ、すみません。絵は壊滅的に下手くそだったのですね」
 「っ、もっとオブラートに包んだ言い方をしてくれ!」
 「ふふっ、とても可愛らしいです」
 「……褒めてないだろう」

 頬を膨らます俺に、リュカは蕾が綻ぶような笑みを浮かべる。
 リオンの記憶が薄らとあるから、新緑色の髪と瞳に対しては違和感を持たないが、リュカはすごく美人だと思う。

 「実は、リオン殿下に別人が乗り移ったのかと思っていたのです。ですが、リオン殿下はリオン殿下でした」

 嬉しそうに笑うリュカだが、俺はギクリと体が硬直していた。
 乗り移ったわけではないのだが、あながち間違いでもない発言に、頬が引き攣った。

 「絵は他の人に任せるとして。さっそくファーガス殿下に見てもらいましょうか」
 「えっ、ファギー兄様に?」
 「はい。著作権に関する長は、ファーガス殿下です。本日から、ですが」
 「っ……それって」
 「ふふっ。ファーガス殿下も、リオン殿下のお力になりたいと思っておられるようですね?」

 ファーガス兄様の気持ちが嬉しくて、頬がゆるゆるになってしまう。
 昨日は気まずい感じになってしまったから、差し入れでも持っていこう。

 「時間がないし、お昼ご飯も食べてるから、フライドポテトにしよう!」
 「また新作を思いついたのですか?」
 「…………盗作だ」
 「おや。別にそれでもよろしいのでは? リオン殿下らしいかと」
 
 ……俺の専属侍従は、なんでこんなに意地悪な野郎なんだ。

 俺の爆弾発言にも、特に気にした様子のないリュカは、俺の手を引いて立たせる。
 じっとりとした目を向けるが、俺の料理が楽しみだと、わくわくを隠しきれない二十歳のお兄様。
 子供みたいだと言い合いながら、厨房に向かう。

 「そういえば、ラピスラズリの件はどうするおつもりなんです?」
 「……やべ、忘れてた」
 
 フッと鼻で笑われて、今度こそ生意気な侍従を睨みつけた。
 リュカには、フライドポテトを一本しかあげないという、究極の仕返しをしてやろうと心に決めた。









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