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188 疑われる俺

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 王宮料理人たちの指導のもと、ピザ作りは順調そのものだった。
 まずは、定番のマルゲリータだ。

 最後に焼き加減を教え、厨房内はこんがりと焼けたチーズの香りが充満している。
 たまらなく腹が減り、お行儀が悪いのだが、その場で出来立てのピザを試食することにしたのだ。

 そして現在──。

 腕に自信のあるパン職人たちが、自分たちが初めて作ったピザを食し、揃って昇天していた。

 「っ……あ、う……」
 「どうです?」
 「お、美味しすぎて、言葉が出てきませんでした……っ。サク……トロォ~」

 ピザに感動しすぎたのか、語彙力を失っているリカルド殿は、涙目になっている。
 俺の隣でゆっくりと咀嚼したリリベルク殿も、ほうっと声を上げた。

 「ああ……。こんなに美味しいものを毎日食べていたなら、リュカが我が家での食事が喉を通らない理由がわかったな……」
 「まあ、リュカの場合は、リオン殿下に会いたかっただけだと思うけど……。それにしても、こんなに美味しいものを、俺たちの領から世に広めることができるだなんて……っ!」
 「そうだな、領民も大喜びだろう。少し前までは死にかけていたのに、今は長生きしたいと心から思うよ……」

 しみじみと話したリリベルク殿に、ピザに舌鼓を打っていたパン職人たちも涙ぐむ。
 領民から好かれる領主の姿に、俺も感動してもらい泣きしそうになっていた。


 「まずは、ノワール領の方々に食べてもらいましょう! みんなには特別に、ピザ食べ放題っ!」
 「っ……はうっ!」


 余程食べ放題が嬉しかったのか、リュカのお兄様二人がおかしな声を出して胸を押さえる。
 体調は回復したらしいが、リリベルク殿が心配な俺は、慌てて背中を撫でてあげた。

 なぜか細い体はめちゃくちゃ震えていたが……。
 本当に大丈夫か?

 リュカやお兄様たちにいいところを見せるつもりだったが、活気に溢れるノワール領を想像しただけで、俺は自然と笑顔になっていた。


 「具材を変えて作れば、もっと楽しめると思います。マルゲリータの他にあと十種類は考えているので、それも販売しましょう! ワクワクッ」
 「ぶふぉっ……! か、可愛すぎるっ!」


 急に膝をついたリカルド殿が、咽せ始める。

 ピザに興奮した二人を介抱する俺は、ピザ祭りをして町興しをしようと提案していた。

 感激するリュカのお兄様ふたりに企画書を見せ、さくさくと話を進めていると、なにやら内緒話が聞こえてきた。


 「でもよぉ。謎のL様は、六十をこえているって噂だぜ?」
 「ああ。王子様の使用人だって話だろう?」
 「使用人を辞して、趣味で料理を始めて才能を発揮しているとも聞いたぞ?」
 「そうだ。利益も全額、寄付しているとも……」
 「……いいとこ取りをしているんじゃ……?」

 人伝に聞いた話をまとめたパン職人たちが、結論を述べる。

 おい。
 いつから俺は、六十歳になったんだ!?
 噂が一人歩きしているじゃないかっ!
 
 俺が謎のLだと信用してもらうには、やはり新作料理を作るしか道はないようだ……。

 パンッと手を叩く俺に、皆の視線が集中する。


 「ピザに合うデザートを作ろうと思う」
 「っ、新作ですかっ!!」


 作業を放り出して、ずらりと俺の前に整列する料理人たちを見たパン職人たち。
 『師匠! お早くっ!』と、ティルソンがぐいぐい俺に迫る姿に、皆があんぐりと口を開けている。

 毎日暑苦しいと思っていたティルソンだが、今日はその暑苦しさに心から感謝するっ!

 「食後にさっぱりとしたデザートだ。すぐに食べたいから、今日はオレンジにしよう」

 本当なら俺の好物であるメロンでシャーベットを作りたいが、販売するならメロンよりオレンジの方が安価だからいいだろう。

 まずはオレンジを半分に切り、中の果肉を取り出す。
 オレンジの皮は捨てないようにお願いしておくことも忘れない。
 それからザルを用意し、果汁を絞った。
 そこにオレンジジュースを注ぎ、砂糖を加えて混ぜ合わせる。

 大きめのボウルに氷を用意し、塩を入れると、見学していたティルソンたちが騒ぎ始める。
 黙ってろと目で訴える俺は、氷の上にシャーベットとなるオレンジ色の汁の入るボウルを乗せた。

 少しずつ入れてまぜまぜする。
 固まってきたら、残りの液体を入れてさらに混ぜ合わせていく。

 冷凍庫を使用していないのに、徐々に固まっていく液体を見ている職人たちも、その場でカチカチに固まっていた。

 固まったら、先ほどのオレンジの皮を器にして盛り付け、最後に緑の葉っぱを飾って完成だ!


 「超簡単。オレンジシャーベットだ!」
 「…………あのお方は、魔術師だったのか?」


 作り方が斬新すぎたのか、皆が目を白黒させている。
 そんな中、「シャリシャリッ。うまっ!」と声が聞こえて来る。
 料理人に混ざってデザートを奪い合うセオドル兄様が、オレンジシャーベットを爆食いしていた。

 「セオドル殿下だっ」
 「お、お美しい……」

 乱入してきたセオドル兄様が「おかわりっ!」と可愛らしくおねだりをして来る。

 兄様のために作ったわけじゃないのにっ!
 ぷりぷりする俺だが、今度はみんなも食べれるように大量に作ることにした。

 「すぐに出来ますけど、待ちきれないならピザでも食べて待っていてください」
 「さすが俺の可愛いリオンっ! 天才っ!」

 懸命にシャーベットを作る俺にセオドル兄様が抱きつくと、なぜか厨房内に緊張が走った。













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