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婚約編
18
しおりを挟む三ヶ月間の添い寝のおかげで、少しずつリュセとの距離に慣れてきていた私は、誕生日に愛する人と結ばれた。
ミラジュー王国では、婚約中でも情を交わす者が多く、性関係に奔放な者ばかりだ。
だが、リュセは違った。
初夜までは、絶対に私に手を出すことはないと告げられていたのだ。
……私は生殺し状態だったが。
リュセの貞操観念が固く、とにかく私の中での好感度が上がり続けていた。
それでも、青い薔薇を貰った瞬間に、リュセともっと深く繋がりたい気持ちが溢れた。
私のことだけを想って作ってくれたのだと伝わった贈り物は、この世に一つしかない私の宝だ。
そして私の腕の中には、かけがえのない存在が、愛らしい顔ですやすやと寝息を立てている。
私は閨事の経験がないため、リュセに幻滅されないかと不安でたまらなかったが、思い切って誘って、本当によかった……。
「リュセ……」
赤くなってしまった目元を癒すように、優しく口付けを落とす。
ふるっと黒い睫毛が揺れて、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
「んっ、シュヴァリエさま……」
「悪い。起こしたか? 今日は、ゆっくり過ごしていいからな?」
ぼんやりとしながら小さく頷いたリュセは、大好きだと言わんばかりに、私にぎゅうっと抱きつく。
「シュヴァリエさまも、今日はおやすみ?」
「ああ」
「やったぁ。ひさしぶりに、お昼までゴロゴロしたい……」
甘えるように頬擦りをするリュセは、ただただ愛らしかったのだが、今は蠱惑的な雰囲気だ。
元々飛び抜けて美しかったが、さらに魅力が増した気がしてならない。
また周囲の人間が騒いでしまうことだろう。
その光景が容易に想像出来て、頭が痛くなる。
……が。
耳元で名を囁かれる。
熱の孕む黒い瞳は、今も昔も、変わらず私しか見ていない。
どれだけ不安な気持ちが芽生えても、リュセは真っ直ぐに私だけを見つめてくれている。
私が愛を囁けば、同じ熱量を……いや、それ以上の愛情を返してくれる。
そんなリュセのそばにいると、自分に自信がなかった過去を、忘れてしまうこともある。
「いつもかっこよかったけど、今日は一段とかっこいい……っ。もう、大好きすぎて、胸が痛いっ」
上掛けで口元を隠すリュセは、恥ずかしそうにしながらも、きらきらとした瞳で私を見ていた。
「噂は真実になりましたね? シュヴァリエ様? 有言実行でした」
「ん゛。改めて言われると……恥ずかしいな」
「ふふっ。みんなに、僕の勘違い発言を撤回する必要がなくなって、安心しましたっ」
色々と思い出してしまう私は、顔に熱が集まってしまう。
表情を取り繕うことには慣れているはずなのに、リュセを前にすると仮面なんてすぐに剥がれる。
「かわいい……っ」
「ずっと勘違いしている時のリュセも、愛らしかったぞ?」
「もうっ。教えてくれたらよかったのに……」
「その件に関しては、本当にすまなかった。いくら身内とはいえ、リュセとのことは誰にも教えたくなかった……。私だけの秘密にしたかったんだ。次からは気を付ける」
謝るようなことじゃないと言ってくれたが、勝手に勘違いをしていた身内を、放置していた私も悪かったと心から思う。
生涯、孫を抱けることなどないと思っていた父はもちろん大喜びで、その顔を見ていると、なかなか言い出せなかった。
私の周囲の人間が、後継者に期待するのは当たり前のことなのだが、リュセは元々子を産む体質ではなかったのだ。
異世界に来て、神から子を宿す器官を授かったわけだから、不安に思うこともあっただろう。
我が子が欲しくないわけではないのだが、私が一番大切なのは、リュセだ。
早く子をと口にはしていないが、周りから期待されていることは伝わっていたはず。
もしかしたら、プレッシャーを感じていたかもしれない。
もっとリュセの気持ちを配慮すべきだったと、後悔していた。
そんな私を他所に、にこっと微笑むリュセは、『シュヴァリエ様と同じ、きらきらの碧眼の子が産まれると思いますっ!』と、確信しているように話していた。
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