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婚姻後

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 愛する人から毎年貰う青薔薇が飾られた部屋で、カチッと時計の音が静かに鳴る。
 日付が変わった瞬間に、私は自身の腕の中で眠るリュセに、そっと口付けを落とした。


 「リュセ、誕生日おめでとう」


 こっそりと愛妻の誕生日を祝う私は、リュセを強く抱きしめた。

 リュセがミラジュー王国に来た日を誕生日としていたのだが、本当の誕生日は七月七日だ。
 リュセが自身のことを思い出した時には話そうと思っているが、そんな兆しは見られなかった。
 そのことに、私は日々安堵している。
 今、幸せな日常を送っているリュセに、過去の記憶は必要ないと思うから。

 「二度と、離れたくない……」

 ずっと傍にいて欲しいと願っていると、ふるりと黒い睫毛が揺れる。
 すやすやと眠りについていたリュセが、薄らと目を開けた。
 
 「ん……シュヴァリエさま……? 眠れないんですか?」
 「いや、もう寝るよ。リュセの愛らしい寝顔を堪能していたところだ」
 「……恥ずかしぃから見ないでっ」

 すりすりと私の胸元に顔を押し付けるリュセは、とにかく愛らしくて仕方がない。
 それなのに『僕はシュヴァリエ様と違って、エルフじゃないんですよ? 確実に老けてますっ』と、気落ちしている。

 「リュセ、可愛い顔を見せて」
 「っ……可愛くなんて、ないのに……」

 そう言いつつも、私のお願いは必ず聞いてくれるリュセが、照れた顔を見せてくれる。
 私は年々醜くなっているのだが、リュセからしてみれば、眩しいくらいの美丈夫らしい。
 だからリュセはまったく老けてなどいないのに、肌艶を気にしている。

 世間では、今でも私たちは釣り合っていないと言われているというのに、リュセは逆の意味で不釣り合いだと漏らす。
 リュセの呟きのおかげで、周囲の悪意ある言葉は私の耳には届かなかった。

 「エルフって本当にいたんですね……」

 リュセがしみじみと呟く。
 私の顔を見ながらうっとりとしている表情を眺めて、何年経っても慣れないなと思いながらも、くつくつと笑いが溢れた。

 「ククッ。私のことか?」
 「他に誰がいるんです? 歳を重ねてさらに美しくなるだなんて、狡いですよっ!」

 むにむにと頬を摘まれるのだが、私の顔はだらしなく緩むばかりだ。
 愛を確かめ合う私たちは、本日も熱い夜を過ごしていた。





 月日は流れ、シオンが十五を迎えた。

 隣国の王族からもアプローチされていたシオンだが、今も一途にルドルフを想っていた。
 リュセと同じように婚活パーティーを開き、どんな障害があろうとも、ルドルフを伴侶にすると宣言したシオンは、リュセに似て男前だった。

 ルドルフとカップルが成立したものの、ふたりはまだ婚約には至っていない。
 年齢差を気にするルドルフだが、こちらもシオンを溺愛しているため、ふたりが結ばれるのは時間の問題だろう。

 「ルドルフくんは既に家族みたいな関係ですけど、早くシオンと結ばれて欲しいですね」
 「ああ。そうだな」

 今までは誰が相手でも反対していた私だが、シオンの相手はルドルフしかいないと思っている。
 男爵家出身だが、真面目な男はこの度副団長に就任している。
 それも全て、シオンの隣に並んでも恥じない男になるためだと私は気付いているからだ。

 「ルドルフくんだけじゃなく、第二騎士団のみんなも幸せになって欲しいですね……。今日は、みんなでぱあっと騒ぎましょうかっ!」

 今も独り身の友人たちを気遣うリュセに、私も笑顔で同意していた。
 そんな私たちの願いが叶うのは、すぐ先のことだった。











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