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その後
47 愉快なグレンジャー家
しおりを挟む結局、朝までイチャイチャしていた僕達は、結ばれる日は結婚初夜にしようと話をしていた。
「先にナポレオンが結婚してからになるだろうから、まだ最低でも一年は先だろう。だから、焦る必要はないからな?」
初めての性交渉に僕が及び腰であることに気付いている様子のユーリは、安心させるように髪を愛でながら優しく話しかけてくれる。
今日はユーリがお休みだから、昼まで寝ようとぴったりと寄り添って微睡む僕は、自分のことより僕の気持ちを優先してくれるユーリの優しさに甘えていた。
「ごめんね、ユーリ。僕、ちょっとだけ怖くて」
「大丈夫。ヴィーを怖がらせるようなことは絶対にしないから」
「うん、ありがとう……。も、もう少し……小さかったら、良かったんだけど……ユーリの……」
ユーリの胸元に顔を埋めてボソボソと話す僕は、顔に熱が集まっている。
性交渉の詳細を聞けば聞くほど恐ろしくなる僕。
なぜならユーリの大きいモノを、僕の後蕾に挿入するらしいのだ。
無理だ、普通に考えて無理だ。
だって大きすぎる。
他人と比べたことがないからわからないけど、確実に大きいと思う。
幼い頃の僕の手首くらいはあるもん。
「なんだか、複雑な気分だ……」
ゴホゴホとわざとらしい咳払いをするユーリは、ちょっと照れているらしい。
本当かわいい。
でも危険なブツを所持しているのだから、そこはあまり可愛くはない。
愛おしいけれども。
そんなことを話しながら二人で仮眠を取り、昼過ぎに目覚めた僕達は、デートに出かけようと馬車に乗り込んだ。
だがしかし。
デートに行きたいと言った張本人のユーリが、街に着いた途端、人が多くてやっぱり危険だと難色を示し始める。
そして現在。
僕はグレンジャー侯爵家で、夕飯をご馳走になっている。
急な訪問だったのに、ユーリのお母様のジュエル様は大喜びで出迎えてくれた。
鎖骨でくるんと内側にカールする茶髪が可愛らしく、清潔感溢れるジュエル様。
アーモンドのような瞳で、ユーリとは容姿が全く似ていないけど、優しい性格がそっくりだった。
仕事終わりの騎士団長であるユリウスお父様、弟のチャーリーくんも揃って、五人で卓を囲んだ。
ユーリの子供の頃の話をたくさん聞かせてもらって、すごく楽しい時間を過ごしていたのだが。
結婚することを報告すると、機嫌良く食後のお酒を嗜んでいたユリウスお父様に、二人きりで話がしたいと真剣な表情で呼び出された。
口を開けば優しいけど、黙っているとユーリより体格も大きいし、鋭い目つきがめちゃくちゃ怖い。
名門グレンジャー侯爵家嫡男の伴侶として相応しいかを見定められているのだと判断した僕は、すぐさま頷いた。
心配そうにするユーリに大丈夫、と微笑んで、ユリウスお父様の後について行き、執務室で二人きりになる。
そしてソファーに座るよう促された僕は、お父様の対面に座ろうとしたのだけど、なぜかお膝の上に抱っこされた。
「はぁ~! 癒されるぅ~! 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いッ!」
何を言われるのだろうとカチカチに固まっていた僕は、急に抱きしめられて頬擦りをされまくって間抜け面を晒していた。
「ユーリのお父様、あの……」
「ヴィーちゃん! そんな呼び方しないで。家族になるのだから、私のことは、ユリパパと」
「は、はい! ユリパパ!」
「くぅぅ~っ! 可愛すぎるぅ!」
家族にと認めてくれたユリウスお父様のお言葉が嬉しくて、僕はむぎゅっと抱きしめ返す。
なぜか、ヴィーちゃんと呼ばれているけど、すごくご機嫌なので、そこは触れないことにした。
「ヴィーちゃんが産まれたときに、護衛を任せて欲しいと頼んだのだが、立場があるからと断られてな……。だが、愚息のおかげで、ヴィーちゃんを傍で見守ることができると思うと、嬉しくて仕方がないっ!」
「そうだったんですか?! 初耳です」
「ヴィーちゃんは昔から天使のように愛らしかったからな。やはり、隔離するより、国一番の騎士に守られた方が良かったんだ! こうしてお役目を全うできる日が来るとは……」
なぜか号泣し始めたユリウスお父様は、お酒を飲んでいたから、酔っ払っているのかもしれない。
泣き止んで欲しくてよしよしと頭を撫でながら、お仕事お疲れ様です、と労いの言葉をかけ続けた。
なぜか、より泣かせてしまったのだけど。
「ヴィー!」
「あなたっ!」
「クソ親父ッ!」
心配して迎えに来てくれた三人が、泣いているユリウスお父様の膝の上に乗る僕が、頭をなでなでして慰めているという、よくわからない状況に顔色を悪くして絶叫する。
僕はすぐにユーリに抱き上げられて、爽やかな笑顔のジュエル様は、ポキポキと指を鳴らしている。
そして、夕飯中に一言も言葉を発しなかったチャーリーくんが、鬼の形相でユリウスお父様を足蹴にしていた。
「俺達のアイドルに手を出しやがって、クソがっ! 恥さらしっ! ぶっ殺すっ!」
三人が大暴れする様をおろおろと見つめることしかできない僕を抱き抱えるユーリは、無表情でお父様を睨み続けるのだった。
ちなみに、グレンジャー家で一番強いのは細身のジュエルお母様だった。
お母様にだけは絶対に逆らってはいけないと察した僕は、お見送りの際に「エルママと呼んで欲しい」とお願いされて、一も二もなく頷くのだった。
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