59 / 65
その後
59 初めての外出
しおりを挟む護衛をぞろぞろと引き連れて、フードを被る僕は、お出かけ前なのにすでに疲れきっていた。
なぜなら、どこから嗅ぎつけたのか、出かける際にナポレオン兄様に捕まったのだ。
外出する経緯を話すと、すぐさま店を貸し切りにしろと指示を出すナポレオン兄様に「お店の雰囲気も知りたいので!」と説得するのにかなり時間がかかってしまった。
お待たせした三人と合流して謝罪した僕は、さっそくチョコケーキが有名なお店にやってきた。
初めての外出はユーリと一緒だろうと思っていたけど、こんな形で外出することになるとは。
でも全てはユーリの笑顔を見る為だ。
護衛の皆さんには申し訳ないけど外で待ってもらって、三人に隠れるようについていく僕は、店内にふわりと香る甘い匂いに、すでに幸せな気分になっていた。
きょろきょろと賑わう店内を見渡しながら、奥の個室に案内してもらう。
メニューを手渡されて見てみれば、お勧めはチョコケーキ。
そして、気になったのが透明なグラスに芸術品のように美しく盛り付けられた、大きめのパフェ。
「恋人同士で食べると幸せになれる……」
「ふふっ、ヴィヴィたんはケーキじゃなくて、パフェが気になりますか?」
「はいっ。僕、ユーリと来たら、これを頼みたいですっ! ユーリ、すごく喜びそうっ」
ユーリの笑顔を想像してぱぁっと顔を綻ばせると、隣に座っていたユメルさんが、足をジタバタとさせて「可愛い」を連呼する。
……ユーリ二世だ。
「んじゃあ、チョコケーキは食べたことあるんで、俺とパールでパフェを頼みますよ!」
「やぁん、なんでレンジとなのよぉ~! あたしはヴィヴィたんと食べたいぃ~!」
「そんなの、俺だってヴィヴィたんとが良いに決まってるだろっ! 馬鹿なのか?」
「あーあー、口煩い男は嫌われるわよぉ~?」
「お前の方がうるせぇだろ、ボケッ!」
罵り合いながら、なんだかんだで仲の良いレンジさんとパールさんは、結局二人でパフェを食べることになったらしい。
僕はお勧めのチョコケーキで、ユメルさんは二番目に人気のチーズケーキを注文した。
もし美味しかったらお持ち帰りも出来るかな?
あ、でも外出したことがバレちゃうか。
仲良くなった四人でわいわいお喋りをしながらケーキを待つ時間も、すごく楽しい。
甘さ控えめの紅茶と丸い形のチョコケーキが運ばれてきて、表面の光沢に贅沢感が感じられる。
さっそく食べてみると、中の生地はふんわり食感だけど、しっとりもしているし、外側のチョコレートは苦すぎず甘すぎず、濃厚な味わい。
ほうっと感嘆の声を上げる僕を、ユメルさんが羨ましそうに見つめていた。
僕のためにケーキを被らないように注文してくれたであろうユメルさんに、少しお行儀が悪いけど、ケーキを一口サイズにカットして、お裾分けする。
「ユメルさん、あーん」
「っっ! あああああ、あーんっ! あむ、んっ、お、おいしぃ、すごくっ、カハッ……」
口許を両手で押さえるユメルさんは、相当美味しかったみたいで、激しく咳き込んでいた。
「あーん! あたしもぉ!」
「そんなことしたら、ヴィヴィたんの分がなくなるだろうが! パールは俺とパフェを食べろ」
「やーだぁー、っ、むぐっ」
「ほら、食え食え。幸せになれるぞっ!」
嫌がるパールさんの口にどんどんフルーツを突っ込むレンジさんは、いきなり意地悪スイッチが入ったのか、悪魔的な笑みを浮かべて「あひゃひゃ」と笑っている。
三人の中で一番まともだと思っていたけど、どうやらレンジさんも少しおかしいようだ。
それから僕もユメルさんに濃厚なチーズケーキを食べさせてもらって、美味しすぎて大満足だった。
パフェも味見してみたかったけど、恋人同士で食べたいから、ユーリと来た時のお楽しみだ。
一時間ほどまったりした僕は、お土産にチョコチップクッキーを購入した。
帰り際に店員さんに「美味しかったです」と感想を伝えると、あのケーキは『ザッハトルテ』という種類で、チョコレートケーキの王様と言われているというちょっとした豆知識を教えてもらった。
顔を隠す僕にも親切に接客してくれる店員さんの態度に、デートはここで決まりだな、と決定付けた。
席を立って帰る際、ガシャン! と大きな音がして目を向ければ、何やら言い争う集団が。
群青色の髪の美青年に胸ぐらを掴まれている、茶髪に鋭いつり目のユーリの弟だった。
「ふざけるな!」
「別にふざけてねーし。俺は事実を述べただけだぜ?」
「なんでお前みたいな平凡なやつが、」
「兄貴のおかげ」
「っ、俺の兄上を馬鹿にしてるのか?!」
「……なんでそーなるんだよ」
「俺も、俺の兄上も、グレンジャー兄弟より美形なのにっ!」
グレンジャー兄弟より美形って、自分で言っちゃうんだ。と傍観していた僕は、すごい自信だなと群青色の髪の美青年を見つめる。
確かに顔立ちは整っているけど、ユーリとチャーリー君のことを馬鹿にしてるよね?
大切な人を馬鹿にされて、幸せな気分が台無しになった僕は、ちょっぴりカチンときてしまった。
43
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる