尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 『あなた、本当にノエルくんの恋人なの?』


 冒険者ギルドで調査報告をしてもらっている際、ツインテールの少女に言われた一言に、俺は胸を抉られる思いだった。

 
 「ちょっと待ちなさいよ! まだ報告は終わっていないわよ! 最後まで聞けっ!!!!」
 「マリン、やめるんだ」


 ギルド長の娘が大暴れしているが、俺はなにも言えずにその場から逃げ出していた。
 




 前回の夜会で、ノエルが寂しい想いをしていたことを知り、これからは俺の気持ちを包み隠さず話すと伝えた。
 今日は後援者との予定をキャンセルして、ノエルと過ごそう。
 ノエルに話したいことがたくさんあるんだ。
 そう思っていたのに、メルヴィンがありもしないことをノエルに吹き込み、いつのまにか恋人をユージーンさんに掻っ攫われていた。


 俺が後援者と浮気をしていると勘違いしたまま、ノエルが療養することになってしまった。


 何度もユージーンさんの屋敷に足を運んだが、ノエルとは会えずじまい。
 今はそっとしておいて欲しいと初老の医師から言われたが、俺がメルヴィンの話は嘘だと伝えれば、ノエルは元気になるはずだ。
 だから何度も会わせてほしいとお願いしているのに、誰も俺の話を聞いてくれない。
 そして、ユージーンさんの使用人たちからは『本当にノエル様の恋人なんですか?』と言われて、迷惑がられる始末だった。

 ユージーンさんは基本的にみんなに優しいが、ノエルにだけは周囲も驚くほど特別に優しい。
 ノエルのことを信じているが、もしかしたら心変わりするかもしれない……。
 焦る俺は、ユージーンさんの屋敷を訪問することをやめなかった。
 なりふりかまっていられなくて、門の前で待ち続けるという迷惑行為をしたおかげか、もう一度医師と話をすることができた。

 その時に、ノエルを療養させることにした理由の一つは、過労だと報告を受けた。
 俺はその話を医師から聞いた時に、初めてノエルが職場で辛い思いをしていることを知った。
 ノエルは仕事が辛いだなんて、一度も言ったことはなかったから、驚きを隠せなかった。
 
 ノエルは宿屋と喫茶店の仕事を掛け持ちしているが、魔法を使えるんだ。
 ノエルの話によると、魔法を使うには体内エネルギーも使うらしい。
 だから、ついお客さんのために魔法を使いすぎて、たくさん食べても痩せてしまうと話していた。

 俺は、『ノエルらしいな』と思った。

 実家の宿屋で働いている時もそうだった。
 両親を手助けしたい。
 宿屋に来てくれたお客さんに、最高のおもてなしをしたい。
 そんな風に思いながら働くノエルを、俺は心から尊敬していた。

 昔より痩せていることに気付いていたけど、ノエルは触れて欲しくなさそうだったし、俺は『食事はきちんと取るんだぞ』としか言わなかった。

 それが、間違いだったんだ……。

 情けない俺を頼ることができなかったのもあるだろうけど、きっとノエルは俺に心配をかけまいと、気丈に振る舞っていたのだと思う。
 俺たちは同じ家で暮らしていたにもかかわらず、お互いのことをなにもわかっていなかった。

 誰もいない部屋でぼんやりと過ごしてみて、ノエルが寂しい想いをしていたことを、ようやく実感した。
 俺が好きだと伝えても、何度も『本当に?』と、不安そうな表情を浮かべていた顔が、今も脳裏に焼き付いている。


 「ノエルに会いたい……」


 会わなくても、俺たちは想いあっているのだから大丈夫だと過信していた俺は、どれだけノエルを傷付けていたのだろう。

 心から反省していると、玄関の扉を叩く音がした。
 ノエルかもしれないと、慌てて扉を開けると、背の低い白髪の婆さんが立っていた。
 俺の背後を覗く婆さんは、困った顔で言った。


 「あんた、来月分の家賃は払えるのかい?」








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