尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 俺を訪ねて来たのは、ノエルではなく、怪訝な表情の大家だった。


 「最近、ノエルちゃんを見かけないから、心配になってねぇ~。ノエルちゃんなら信用出来るけど……。あんたは、無職みたいなもんだろう?」
 「…………」
 「もし、支払いが滞るなら、家を出て行ってもらいたいんだがねぇ~」
 「っ、払えます、大丈夫です」


 ノエルが帰って来る場所がなくなるのだけは避けたい。
 急いで財布を取りに行った俺は、その場で支払いを済ませる。
 俺から金を受け取った大家は、信用ならない目をしたまま去っていった。


 「家賃って、こんなに高かったんだな……」


 俺は、初めて自分の給金で家賃を支払ったことに気が付いた。

 空っぽになった財布を見て、虚しいようななんとも言えない感情が込み上げて来る。
 ノエルはいつも、こんな気持ちを味わっていたのだろうか……。
 今更気付くだなんて、俺は今まで一体なにをやっていたんだろう。


 『あなた、本当にノエルくんの恋人なの?』


 周囲の人間から言われ続けた言葉が、俺の胸に重くのしかかる。
 その場でずるずるとしゃがみこんだ俺は、しばらく立ち上がることが出来なかった。





 ノエルがいないだけで、俺の世界は色褪せて、このまま夢を追うことが正しいのかすら、わからなくなっていた。
 
 だが、ヴァイオレット様との約束がある。

 『ユージーンを超える舞台俳優になること』

 これが、彼女が俺を応援する代わりに出された課題だった。
 準主役の座を射止め、あと一歩のところで逃げるわけにはいかないんだ。
 ノエルは、きっと今でも俺が主役の王子様を演じる舞台を楽しみにしている。
 それだけを心の支えに、俺は周囲に笑顔を振りまいた。



 ヴァイオレット様から金を借りることなく生活出来るようになった俺は、働くことの大変さをしみじみと感じていた。

 臨時の仕事しかしたことがなかった俺は、気付いていなかった。
 ノエルのためだと思えば、働くことはまったく苦じゃなかったんだ。

 でも今思えば、職場の上司はレオンの友人だったし、俺は凡人だから最初から期待されていない。
 仕事内容も荷物を運ぶだけで、一緒に働く周りの人間もみんな優しかった。
 三ヶ月の予定を半年に延ばしただけで、俺は自分が頑張っていると思い込んでいた。
 それに俺の場合は臨時の仕事だから、ゴールが見えていた。

 でも、ノエルは違う。
 俺の夢が叶う日は、いつになるかわからない。
 いつまでも底辺にいた俺を見ていたノエルは、きっと不安だったと思う……。



 ノエルは誰にでも好かれる性格だから、実家の宿屋で働いていた時のように、みんなに囲まれて楽しく働いているとばかり思っていた。

 田舎町では大半の人が生活魔法を使えたから、魔法を使える人間が貴重な存在だったなんて、初めて知った。

 でもそれなら、ノエルは職場で重宝されるはず。
 それなのに、どうしてノエルは劣悪な環境で働くことになったのか。
 その理由を知りたくて、ヴァイオレット様に相談して、冒険者ギルドに依頼をすることにした。


 そして、真実に辿り着いた。


 ノエルを追い込んだのは、ノエルを虎視眈々と狙っていたユージーンさんだったことに……。

 ユージーンさんは、莫大な契約金のためにノエルを利用していたんだ。
 二店舗とも既に退職しているし、証拠までは掴めなかったが、俺が話せばノエルは信じてくれる。
 すぐに俺の元に戻って来てくれるはずだ。


 そう確信していた俺は、ノエルの気持ちをなにひとつ理解出来ていなかったことを、思い知らされることになった。









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