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84 カーター
しおりを挟む主役だけを練習するエドワードと、全ての役をこなせるように準備しているユージーン。
ユージーンに引っ張られるように、エドワードの演技も格段と良くなっている。
迫真の演技をする二人を見守る劇団員の士気も上がっていた。
数日前には、流行りの衣装を良心的な値段でおろしてくれている店の御曹子がやって来て、エドワードに飛び蹴りを食らわせていた。
エドワードは休憩の度に正座で説教をされていたが、泣きながら怒っているアルバート君を見て、私は止めに入らなかった。
今でもノエル君の隣にいたいと願うエドワードだが、懇々と説教されたことで、なにがいけなかったのかを少しずつ気付けているようだった。
ノエル君とのことに関しては、正直もう手遅れだとは思うが……。
今は誰もそのことには触れず、エドワードが稽古に専念出来る環境作りに努めていた。
そして、運命の日を迎えた。
稽古場の中央に立つ私の前には、緊張した面持ちの劇団員が座っている。
私の左隣では、既に結果を予想しているのか、一人余裕のある態度のユージーン。
ヴァイオレットから賄賂を受け取っている者がいたとしても、関係ないとばかりに前を向いていた。
「エドワードの主役が観たいと思った者は、挙手を」
ぱっと一番にレオンが手を上げる。
続いてパラパラと手が上がり、数を数える私の右隣では、天井を見上げるエドワードが泣き始めた。
そんなエドワードを一瞥したユージーンは、気怠げに金髪を掻き上げ、『才能があるって辛いな』とぼやく。
「っ、いちいち腹が立つ!!」
すぐに噛み付いたエドワードだったが、二人ともやり切った表情だ。
配役が決まり、納得している様子の皆の顔を見回した私は、ユージーンの肩を叩いた。
「今まで引っ張ってくれたユージーンの、最後の舞台となる。皆、ベストを尽くして、最高の舞台にしよう」
「「「はいっ」」」
「ちなみに、チケットは完売している」
にたりと笑って見せると、皆が仰天して大騒ぎになっていた。
多くの人に観てもらいたいのだが、ユージーンに頼まれて、公演期間は三週間と普段より短い。
そして初日には、ノエル君を招待している。
もちろん、招待したのはユージーンだ。
エドワードがチケットを送ろうとした頃には、既にノエル君の手元に届いていたらしい。
戻って来たチケットを破り捨てたエドワードは、闘志を燃やしている。
ライバルが、限界まで自身のやる気を引き出してくれていることに、未だに気付いていないようだ。
カリスマ性があるわけではないが、コツコツと努力する真面目なタイプだ。
何年後になるかはわからないが、いつかユージーンのように劇団を引っ張っていく存在になってほしいと思う。
その前に、エドワードが失恋を乗り越えられるのかが疑問だが……。
落ちぶれてしまったとしても、彼はまだ若いのだから、また見習いから始めればいい。
その時は、きっと仲間が支えてくれるだろう。
いよいよ明日が初日ということで、景気付けに差し入れを持って来てくれたアルバート君。
一人一人に声をかけ、丁寧にラッピングされた焼き菓子を配っていく。
ちょうど小腹も空いていたので、有り難くいただくことにした。
レオンと話していたエドワードがクッキーを食べた瞬間、叫んだ。
「っ……この味はっ」
「ふふん、ありがたく思いなよ?」
親友と二人で作ったんだと、胸を張るアルバート君に皆が詰め寄り、ノエル君の近況を聞いている。
ユージーンも知りたいはずなのに、そんな彼らの輪に入ろうとはしない男は、クッキーを懐にしまった。
私に目礼し、静かに稽古場を後にした男は、なにか堪えているかのように口を引き結んでいた。
(まだお別れじゃないんだがな? 一体どうしたんだ?)
若干、早足で去ったユージーンの背を見送り、差し入れのクッキーを手にした私は、首を捻る。
「あれ……? 猫の肉球模様が……ない……」
そういえば、誰かの袋にだけは、桃色のリボンが結ばれていた気がしたのだが……。
私の見間違いだったのかもしれない。
涼やかな顔をして、内心悶えていた男の顔を思い出してしまった私は、我慢出来ずに小さく吹き出していた。
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