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しおりを挟む愛するユージーン様に、永遠の別れとも取れる言葉を送られたけれど、ヴァイオレット様は謝罪することもなく、本心を伝えることもしなかった──。
その行動が、自分の首を絞めていることに気付いているのだろうか……。
その後、『ユージーン』と名乗る青年が、ヴァイオレット様を迎えに来た。
金髪にエメラルドグリーンのぱっちりとした大きな目が、子犬のようで可愛らしい子だ。
背もそこまで高くないから、まだ成人していないと思う。
「ヴァイオレット様になにをしたんですかっ!」
放心状態になっている彼女を支える青年は、ユージーン様を威嚇している。
僕の中のユージーン様は、色気のある大人って印象だから、現状ではどう頑張っても身代わりにはなれないと思った。
「次はお前が選ばれたのか。テイト」
「っ、僕はテイトじゃない!」
「…………そうか。自らの意思で、お母様の傍にいることにしたんだな」
「はいっ」
力強い返事をしたテイトくんは、ヴァイオレット様を抱き締めている。
でも漆黒色の瞳は、複雑そうな表情を浮かべるユージーン様に向けられていた。
「もう帰りましょうっ」
「…………そうね。私を心配して、わざわざ来てくれたのね」
「当たり前ですっ! 僕の一番大切な人ですからっ!」
「ふふっ、ありがとう。テイト……」
穏やかに微笑んだヴァイオレット様が、テイトくんの名前を呼んだ。
テイトくんは、少しだけ悔しそうに口許を歪めていたけど、元気に頷いていた。
今はユージーンと呼ばれたいと思っているのかもしれないけど、本当の自分を捨てた時、彼はどうなってしまうのだろう……。
余計なことを考えている僕は、ユージーン様にそっと抱き寄せられていた。
僕たちから目を逸らすヴァイオレット様が、扉に向かって歩き出す。
「テイトは孤児なんだ。私と違って、心からあの人と共にいたいと思っている」
「……そうなんですね」
「ああ。ユージーンの身代わりではなく、本当の息子として……愛されてほしいな……」
ユージーン様の呟きが聞こえていたのか、僕たちに背を向けていたヴァイオレット様の体が小さく反応した。
振り返ることはなかったけど、ヴァイオレット様はテイトくんに支えられてギルドを後にした。
◆
ラスボスが去ったというのに、ギルド内が騒ぎになっている。
なぜなら、いつも変装をしてギルドを訪れていたユージーン様が、今はなんの装備もしていないからだ。
僕たちのことを聞きつけて、すぐさま駆けつけてくれたのだと思う。
よって、女性冒険者の方々の目がユージーン様に釘付けである。
目が合うだけで、きゃーきゃー言われているユージーン様だけど、慣れているのか全く気にしていなかった。
……さすがだ。
感心していたけど、このままでは会話もできないから、僕が借りている部屋に案内することにした。
どうしてか、僕の部屋の前にイグニスさんたちの気配がするのだけど……。
ユージーン様は僕の借りている部屋を見回して、快適そうで安心したと頬を緩ませた。
「でもね、ノエル。私がいないところで危ないことはしないでほしい。寿命が縮まったよ」
「っ、ごめんなさい……。でも、僕にはコレがあったので、大丈夫かなって……」
ポケットに入れていたエリクサーを取り出してユージーン様を見上げるけど、心配そうな表情のままだ。
「ギルド内なら、きっと僕に危害を加えないと思っていました。ただ、その逆はあるかもって……」
「……逆?」
「はい。最初は、僕とユージーン様が愛し合っていると伝えるつもりでした」
僕の言葉に目を瞬かせたユージーン様は、美しいオブジェのように固まっていた。
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