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しおりを挟む「い、いや、その、これ以上、ユージーン様を苦しめてほしくなかったから、ヴァイオレット様の本心を聞くために……ですよ?」
「…………ああ」
挙動不審になる僕は、ユージーン様に椅子に座ってもらい、紅茶を用意する。
ぼんやりと僕を見つめているエメラルドグリーンの瞳に、熱がこもっていることに気付かない僕は、ささっと温かな紅茶を差し出した。
「でもそうすると、ヴァイオレット様が自殺するかもしれない。そんな雰囲気だったので……。その時はエリクサーを使うつもりでした。でも、誰もそんな結末を望んでいない……。だから、母親として見守ってほしいとお願いすることにしたんです」
ユージーン様はヴァイオレット様を嫌悪しているけど、死んでほしいとまでは思っていないと思う。
他の被害を受けた人たちもそうだ。
もしそう思っていたのなら、今頃みんなの手でヴァイオレット様を消していると思う。
ただ、彼女から解放された人たちは、もう関わりたくないと思っているには違いないと思うけど。
「そんなことまで考えてくれていたの……?」
「ユージーン様は優しい人だから……」
「ふふっ、ありがとう。……でも、ノエルに手を出すなら、埋めるつもりだったよ」
「…………え? 今、なんて?」
美しい所作で紅茶を口にしたユージーン様は、おいしいと僕に笑いかけた。
王子様スマイルで恐ろしいことを言った気がしたけど、きっと僕の気のせいだと思う。
「なんでもないよ。ノエルが無事でよかったって言ったんだ」
「……違う気がする」
「ふふっ、ごめん。埋めるって言った」
頬杖をついたユージーン様が、うっとりとするような顔で微笑む。
目をぱちぱちとさせる僕は、やっぱり空耳だったのかもと、端正な顔をまじまじと見つめる。
「嫌いになったかな? ノエルには、本当の私を見てほしくて……」
そう囁いたユージーン様の声は、ちょっとだけ震えて聞こえた。
……僕の前では、無理に王子様にならなくてもいいのに。
僕は、ユージーン様の優しくて思いやりのある性格はもちろん好きだけど、ちょっと意地悪なところも好きなんだ。
そう思っているのに、僕に嫌われたと思ったのか、苦笑いを浮かべたユージーン様が目を伏せる。
だから僕は、大袈裟に驚いて見せた。
「っ……ユージーン様は、土魔法の使い手だったんですか?!」
「…………ぷっ、ふふふっ、そんなわけないだろう? もう、笑わせないでくれないかな? ノエルといると、楽しくて仕方がないよ」
ユージーン様にいつもの笑顔が戻ったことを嬉しく思う僕は、もっと二人で話したくて、常備している焼き菓子を用意する。
「土魔法が使えるなら、畑を耕してくださいね?」
「ふふっ、わかったわかった。ノエルのためなら、農作業でもなんでもやるよ」
「……ずば抜けて美しすぎる農家。きっとユージーン様が育てた野菜も、瑞々しくて美しいんでしょうね?」
「ふふっ、野菜に美しいなんてあるのかい?」
他愛もない会話でこんなに笑えるのかと思うほど、僕たちは時間を忘れてお喋りを楽しんでいた。
でも、明日も舞台があるから、そろそろお開きにしないといけない。
ちょっぴり寂しく思っていると、ユージーン様が胸元からなにかを取り出した。
「本当なら、舞台を終えてから伝えるつもりだったんだけど……。私と一緒に、流れ星を見に行ってくれないかな?」
そう言って手渡されたものを見た僕は、ドキリと心臓が波打った。
「私は絶対に行くよ。なにがあっても、ノエルを一人にはしない」
もう二度と手にすることはないと思っていた魔法列車のチケットが、今僕の手にある。
鈍い僕でもわかった。
これは、ユージーン様なりの、愛の告白だ──。
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