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しおりを挟む──友人と、旅をしてみたいんだ。
そう告げて去っていったユージーン様は、僕がまだ恋をする気持ちになっていないことに、気付いていた……。
そして、チケットとエリクサーを交換した。
僕がまた危険を冒すかもしれないと、心配したのだと思う。
新たな宝物を握りしめる僕は、目頭が熱くなる。
ずっと隣にいるのはエドワードだと思っていたのに、今の僕が想像している魔法列車の特等席には、優しい眼差しで僕を見つめるユージーン様がいる。
かつて貰った宝物のチケットが雪に消えて、新たな宝物となったエリクサーを貰った時から、僕の心にはいつもユージーン様がいたんだと思う……。
それでも、もし今告白されていたとしても、僕は頷くことは出来なかったと思う。
ユージーン様は僕の我儘を聞いてくれるし、いつも甘やかしてくれる。
でも、エドワードと過ごした時のように、また寂しい思いをして別れが来ると思うと、その先を求めることが怖くなってしまう。
「友人として……。そう言われているのだから、行けばいいじゃないか。僕は、なにを躊躇っているんだろう……」
チケットを眺めて悶々と考え込む僕は、結局、一睡も出来ずに劇場に向かうことになった。
◆
──舞台の最終日。
出待ちをしている大勢のお客さんが劇場を取り囲み、ユージーン様の登場を待っていた。
地方から来た人もいるようで、ユージーン様はお金持ちの後援者だけじゃなく、たくさんの人に愛されていたことがわかった。
「ユージーンっ! 引退しないでっ!」
「王子様じゃなくて、ユージーンの悪役が見たいのよっ! 今回が最初で最後だなんて、嫌よっ」
「お願いっ! まだやめないでっ! ユージーンのいない舞台なんて考えられないわっ!」
舞台を終えて、劇場から外を見下ろすユージーン様は、しばらくファンの声を静かに聞いていた。
もう舞台に上がるつもりはないのだと思う。
ユージーン様のために集まっている人々の光景を、目に焼き付けているように見えた。
「強制的にやらされていたっていうのに……。私を慕ってくれる人が、こんなにもいたんだな……」
今まで気付かなかった……、そう呟いたユージーン様を、劇団のみんなが見守っている。
最後に挨拶をと、声を掛けようとしていたカーターさんが、静かに涙をこぼす。
誰も声をかけられる雰囲気ではなかったのだけど、感極まっている僕は、ユージーン様の隣に立っていた。
「偽りの私なのに──」
「みんなの声を聞きました? ユージーン様の悪役がみたいって言ってる人が多いんですよ? 僕も同じ気持ちです」
「っ……」
僕がにっこりと微笑むと、しんみりとしていたユージーン様が目を見開いた。
今までは偽りの王子様だったかもしれないけど、今回の舞台は違う。
ユージーン様自身が愛されているんだ。
僕の言いたいことが伝わったのか、ユージーン様が蕩けるような笑みを浮かべる。
「……そうだね。あの女に、感謝する日が来るとはな」
「ユージーン様の才能を見抜いたところは、流石だと思います。そこだけは、褒めたいと思います」
「っ、ふふっ、随分と辛辣なことを言うようになったね? ノエル」
「誰に影響されたのかな? 僕も、悪役に向いている気がします」
「ふふふっ、ノエルが? ないない。どう見ても純粋で可憐なお姫様だよ」
「…………僕は、王子様がいい」
美しいユージーン様に容姿を褒められて、ちょっぴり照れてしまう僕は、照れ隠しで頬を膨らます。
「ノエルのためなら、悲劇のヒロインになってもいいかもしれない──」
なにかを呟いたユージーン様は、穏やかな表情で僕を見つめていた。
この日、一世一代の熱演をした劇団の看板俳優が、多くの人に惜しまれつつ、俳優業を引退した。
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