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101 エドワード
しおりを挟む主役の舞台を無事に終えた打ち上げの席で、酒を呷る俺に近付いて来たユージーンさんは、当たり前のように俺の隣に腰掛けた。
気を利かせたレオンが席を立ち、ユージーンさんが微笑む。
優雅に長い足を組んだ本日の主役は、酒を飲まずに胸元からなにかを取り出した。
「一緒に行かないか?」
そう言って口角を上げたユージーンさんは、俺に魔法列車の特等席のチケットを渡して来た。
最終日の舞台を見守っていたノエルが、ずっと手に握っていたものと同じ……。
しかもこの席は、二人分の席だ。
つまり、俺とノエルに行かせようとしている。
そのことに勘付いた俺は、怪訝な顔でユージーンさんを見る。
「……俺が行ってもいいんですか? 絶対に後悔することになりますよ」
「ふふっ、そうだろうね……。これでも、お前にも悪いことをしたと思っているんだ」
やけに穏やかな表情で笑ったユージーンさんに、俺はライバルであることも忘れて、しばし見惚れてしまった。
……本当に腹立たしい人だ。
「っ……なんなんだよ。アンタが行けばいいだろ? 今のノエルをとびっきりの笑顔にできるのは、ユージーンさんしかいないんだから……って、俺に言わせるなっ!!」
ダンッ、とジョッキを机に叩きつけるように置くと、中身が俺の膝にもぶちまけられる。
会話をすることもなかった俺たちは、稽古中に本気のぶつかり合いをしたことで、今では本音で話せる友人のような関係に変わっていた。
俺が失礼な態度を取っても、笑って流すユージーンさんは、完全に俺を子供扱いしている。
でも今までの俺は、見た目は大人に成長していても、精神面は子供のままだった。
周囲の人たちの助言で、いろいろと気付かされることになったけど、一番動いてくれていたのは、今俺の目の前にいるこの人だ。
「まだ成長過程の俺がノエルの隣にいると、きっとまたノエルを泣かせる……と、思います。それに、ユージーンさんだって泣くでしょ。一人寂しく部屋に閉じこもって……」
「私にはこれがあるからいいんだよ」
キラキラとした小瓶を手にしたユージーンさんが、うっとりと眺めているもの。
いつのまにか所持していたそれは、ノエルが一等大切にしていたエリクサーだ。
思い出に浸っている男からそれを奪い取る俺は、キッと睨みつけてやる。
「ノエルを諦めるなら、これも俺が貰いますよ。それでもいいんですね?」
「……独占欲の塊だな」
「どっちが」
「諦めたわけじゃない。ただ、想いを伝えられなかっただけだ」
「っ……まだ告白してなかったんですか。なんでもさらっとこなせるくせに、ビビりすぎだろ」
肩を竦めたユージーンさんは、別にビビっているわけじゃない、と思う。
少しずつ周りが見えて来た俺には、なんとなくだけどわかった気がする。
俺と別れて間もないノエルに、負担をかけることをしたくないのだと思う、たぶん。
「ノエルは昔からモテるんですよ、俺なんて比じゃないくらいに。しかもピュアだから、全然気付いていないし……」
「そうだろうな。ギルドでも、ノエルに熱い視線を送っている者が大勢いたが……」
「ハァ。俺以外の奴に掻っ攫われる前に、さっさと告白した方が……って、なんで俺がライバルの背を押さなきゃならないんだっ!!」
「ふふっ。ノエルがお前に惚れた理由が、今ならわかる気がするよ」
「っ、うるさいっ。性悪男に好かれても、嬉しくもなんともないっ!」
軽口を叩く俺たちは、気付けば朝まで語り合っていた。
みんなでユージーンさんに酒を飲ませまくっていたのだが、先に俺が潰れてしまい、結局、チケットは俺の手元にある。
俺が悩みに悩んでいる間に、ノエルの誕生日を迎えていた。
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