6 / 46
5 馬乗りに
しおりを挟むダリウスの態度に焦るフレイは、嫌な妄想ばかりが頭を過ぎる。
「じゃ、じゃあ、ヴァレリオ様は、僕とはこのままプラトニックな関係を築いて、夜は僕以外の相手と欲を発散するつもりなのっ!?」
「っ、そのようなことは誓ってございませんっ」
「そんなの、わからないじゃないかっ!!」
ダリウスが否定したものの、涙目になるフレイは声を荒げていた。
こんなに大きな声を出したのは、人生で初めてではないだろうか。
驚いているダリウスとコニーから、フレイはパッと目を逸らす。
「あれだけ素敵な人なんだっ。ヴァレリオ様に抱かれたいと思う人は、掃いて捨てるほどいるっ」
「っ、フレイ様……」
なんとも悲しげに僕の名を呼んだダリウスと、無言で俯くコニーは、フレイと同意見なのだろう。
フォローの言葉が見つからない様子のふたりとの間に、気まずい空気が流れる。
だが、フレイは大切な事実を告げるため、声を張り上げていた。
「――でも、ヴァレリオ様の妻は、僕だっ!!」
そう泣き叫んだフレイは、その勢いのままヴァレリオの寝室まで走っていた。
鬼気迫るフレイの様子が、明らかに異常だと判断したのか、流石に今回ばかりは護衛の者たちも止めては来なかった。
「し、失礼します……」
小さくノックをし、返事を聞かぬまま、フレイは勝手に寝室に侵入する。
薄暗い部屋の中央にある寝台では、ヴァレリオが眠りについていた。
(……なんで寝ているの? やっぱり僕のことは、子供にしか見えなくて、抱けないから……?)
想いを寄せていた相手から求婚され、幸せな初夜を過ごせると信じて疑っていなかったフレイは、ヴァレリオが夜の営みを放棄している現実を、なかなか受け入れられなかった――。
「……なんで……? うぅッ、」
拭っても拭っても、涙が込み上げてくる。
ヴァレリオに愛され、ふたりの愛の結晶を身ごもり、ヴァレリオに似た子を腕に抱く日を夢見ていたフレイは、絶望していた。
「――……フレイ、どうしたの?」
「っ、」
寝ていると思っていたヴァレリオに、突然話しかけられ、フレイは息を呑んだ。
「なにかあった? ……怖い夢でも見たのかな?」
さっと上半身を起こしたヴァレリオが、不法侵入したフレイを咎めることもなく、優しく話を聞いてくれる。
だが、フレイがこんなに泣くことになったのは、ヴァレリオのせいでもあるのだ。
少し恨めしい気持ちになってしまったフレイは、ヴァレリオのことを押し倒していた。
「っ、フレイ……?」
二回りも歳下の相手に馬乗りになられたヴァレリオは、両手を上げていた。
平均的な成人男性より軽く、護身術を身につけている程度のフレイなど、あっさりと倒せるほどの実力の持ち主が、降参ポーズを取るだなんて。
まるで手を出すつもりはないと言わんばかりの態度に、フレイはますます苛立ちと悲しみの感情に支配されてしまった。
「フレイ、落ち着いて。一度、話し合おう」
「っ、何を話し合う必要があるんです?」
普段とは違い、きつい言い方になってしまった。
そんなフレイを見上げるヴァレリオは、明らかに困惑しているようだった。
まさか小柄なフレイに押し倒されるとは思っていなかったのだろう。
フレイだって想定外だ。
「…………どうしたの? 私が怒らせてしまったのなら、謝るよ。だから、少し冷静になって話をしよう。ひとまず、おりてくれるかな?」
無言で拒否するフレイ。
無理やりにでもおろせばいいのに、ヴァレリオはフレイに触れて来なかった。
(ここまでしているのに、触れようとさえしないなんて……)
自暴自棄になったフレイは、ヴァレリオの端正な顔の横に手をついた。
息もかかりそうな距離で見つめれば、ヴァレリオがハッと息を呑んだ。
「僕は、これでも成人した立派な大人です。それなのに、試しもしないで抱けないだなんて、酷いっ」
「………………………………えっ、」
暴走気味のフレイが、至近距離で怒りをぶつければ、ようやくヴァレリオが焦り始めた。
見開かれた夜空色の瞳が、激しく揺れている。
普段、冷静沈着なヴァレリオが、これほどまでに動揺している姿は、今までに見たことがなかった。
じりじりと近付き、鼻先が触れ合う。
ヴァレリオに馬乗りになった時点で、フレイはもう我慢の限界だった。
「っ、フ、フレイ、なにを? ちょっと待っ――」
ヴァレリオのことが好きで好きでたまらなくて、その気持ちが爆発してしまったフレイは、ヴァレリオの口を塞いでいた。
「――……んッ」
「ッ!?」
柔らかな唇の感触に、ドキドキが止まらない。
(まさか、僕が攻めになるとは……。ヴァレリオ様とキスできるのなら、もうなんだっていいけどっ)
婚姻前のフレイの脳内では、恥ずかしがるフレイに、ヴァレリオが優しく手ほどきしてくれる、という妄想を繰り広げていたわけだが……。
実際には、フレイが狼のようにヴァレリオに襲いかかっていた。
「ヴァレリオさま……。んっ」
ちゅっ、ちゅっ、と拙い口付けを繰り返す。
こんな形で初めての口付けをするとは思わなかったが、フレイは後悔していなかった。
「んぅっ」
「ッ、フレイっ。これ以上は、ダメだよ……」
ハッとした様子のヴァレリオに、口で制止を促されたが、今のフレイを止められる者は誰もいない。
ヴァレリオの頬に手を添えたフレイは、何度も唇を吸った。
「ヴァレリオさまっ……好きですっ、大好きっ」
「――――…………ッ、」
ヴァレリオが抵抗しないことをいいことに、フレイは好きな人との口付けに夢中になっていた。
376
あなたにおすすめの小説
恋人がキスをしてくれなくなった話
神代天音
BL
大学1年の頃から付き合っていた恋人が、ある日キスしてくれなくなった。それまでは普通にしてくれていた。そして、性生活のぎこちなさが影響して、日常生活もなんだかぎくしゃく。理由は怖くて尋ねられない。いい加減耐えかねて、別れ話を持ちかけてみると……?
〈注意〉神代の完全なる趣味で「身体改造(筋肉ではない)」「スプリットタン」が出てきます。自己責任でお読みください。
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
家族にも見捨てられ、学校で孤独を感じていた静。
毎日が辛くて生きる意味を失いかけた彼の前に現れたのは、眩しい太陽のような青年天輝玲。
玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
しかしある日、玲の口から聞いたある言葉で、信頼から憎悪へと変わった。
それから十年。
玲と再会を果たした静は復讐を果たそうとする。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる