愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

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5 馬乗りに

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 ダリウスの態度に焦るフレイは、嫌な妄想ばかりが頭を過ぎる。

「じゃ、じゃあ、ヴァレリオ様は、僕とはこのままプラトニックな関係を築いて、夜は僕以外の相手と欲を発散するつもりなのっ!?」

「っ、そのようなことは誓ってございませんっ」

「そんなの、わからないじゃないかっ!!」

 ダリウスが否定したものの、涙目になるフレイは声を荒げていた。
 こんなに大きな声を出したのは、人生で初めてではないだろうか。
 驚いているダリウスとコニーから、フレイはパッと目を逸らす。

「あれだけ素敵な人なんだっ。ヴァレリオ様に抱かれたいと思う人は、掃いて捨てるほどいるっ」

「っ、フレイ様……」

 なんとも悲しげに僕の名を呼んだダリウスと、無言で俯くコニーは、フレイと同意見なのだろう。
 フォローの言葉が見つからない様子のふたりとの間に、気まずい空気が流れる。
 だが、フレイは大切な事実を告げるため、声を張り上げていた。


「――でも、ヴァレリオ様の妻は、僕だっ!!」


 そう泣き叫んだフレイは、その勢いのままヴァレリオの寝室まで走っていた。
 鬼気迫るフレイの様子が、明らかに異常だと判断したのか、流石に今回ばかりは護衛の者たちも止めては来なかった。

「し、失礼します……」

 小さくノックをし、返事を聞かぬまま、フレイは勝手に寝室に侵入する。
 薄暗い部屋の中央にある寝台では、ヴァレリオが眠りについていた。

(……なんで寝ているの? やっぱり僕のことは、子供にしか見えなくて、抱けないから……?)


 想いを寄せていた相手から求婚され、幸せな初夜を過ごせると信じて疑っていなかったフレイは、ヴァレリオが夜の営みを放棄している現実を、なかなか受け入れられなかった――。


「……なんで……? うぅッ、」

 拭っても拭っても、涙が込み上げてくる。
 ヴァレリオに愛され、ふたりの愛の結晶を身ごもり、ヴァレリオに似た子を腕に抱く日を夢見ていたフレイは、絶望していた。

「――……フレイ、どうしたの?」

「っ、」

 寝ていると思っていたヴァレリオに、突然話しかけられ、フレイは息を呑んだ。

「なにかあった? ……怖い夢でも見たのかな?」

 さっと上半身を起こしたヴァレリオが、不法侵入したフレイをとがめることもなく、優しく話を聞いてくれる。
 だが、フレイがこんなに泣くことになったのは、ヴァレリオのせいでもあるのだ。
 少し恨めしい気持ちになってしまったフレイは、ヴァレリオのことを押し倒していた。

「っ、フレイ……?」

 二回りも歳下の相手に馬乗りになられたヴァレリオは、両手を上げていた。
 平均的な成人男性より軽く、護身術を身につけている程度のフレイなど、あっさりと倒せるほどの実力の持ち主が、降参ポーズを取るだなんて。
 まるで手を出すつもりはないと言わんばかりの態度に、フレイはますます苛立ちと悲しみの感情に支配されてしまった。

「フレイ、落ち着いて。一度、話し合おう」

「っ、何を話し合う必要があるんです?」

 普段とは違い、きつい言い方になってしまった。
 そんなフレイを見上げるヴァレリオは、明らかに困惑しているようだった。
 まさか小柄なフレイに押し倒されるとは思っていなかったのだろう。
 フレイだって想定外だ。

「…………どうしたの? 私が怒らせてしまったのなら、謝るよ。だから、少し冷静になって話をしよう。ひとまず、おりてくれるかな?」

 無言で拒否するフレイ。
 無理やりにでもおろせばいいのに、ヴァレリオはフレイに触れて来なかった。

(ここまでしているのに、触れようとさえしないなんて……)

 自暴自棄になったフレイは、ヴァレリオの端正な顔の横に手をついた。
 息もかかりそうな距離で見つめれば、ヴァレリオがハッと息を呑んだ。


「僕は、これでも成人した立派な大人です。それなのに、試しもしないで抱けないだなんて、酷いっ」

「………………………………えっ、」


 暴走気味のフレイが、至近距離で怒りをぶつければ、ようやくヴァレリオが焦り始めた。
 見開かれた夜空色の瞳が、激しく揺れている。
 普段、冷静沈着なヴァレリオが、これほどまでに動揺している姿は、今までに見たことがなかった。

 じりじりと近付き、鼻先が触れ合う。
 ヴァレリオに馬乗りになった時点で、フレイはもう我慢の限界だった。

「っ、フ、フレイ、なにを? ちょっと待っ――」

 ヴァレリオのことが好きで好きでたまらなくて、その気持ちが爆発してしまったフレイは、ヴァレリオの口を塞いでいた。

「――……んッ」

「ッ!?」

 柔らかな唇の感触に、ドキドキが止まらない。

(まさか、僕が攻めになるとは……。ヴァレリオ様とキスできるのなら、もうなんだっていいけどっ)

 婚姻前のフレイの脳内では、恥ずかしがるフレイに、ヴァレリオが優しく手ほどきしてくれる、という妄想を繰り広げていたわけだが……。
 実際には、フレイが狼のようにヴァレリオに襲いかかっていた。

「ヴァレリオさま……。んっ」

 ちゅっ、ちゅっ、とつたない口付けを繰り返す。
 こんな形で初めての口付けをするとは思わなかったが、フレイは後悔していなかった。

「んぅっ」

「ッ、フレイっ。これ以上は、ダメだよ……」

 ハッとした様子のヴァレリオに、口で制止を促されたが、今のフレイを止められる者は誰もいない。
 ヴァレリオの頬に手を添えたフレイは、何度も唇を吸った。


「ヴァレリオさまっ……好きですっ、大好きっ」

「――――…………ッ、」


 ヴァレリオが抵抗しないことをいいことに、フレイは好きな人との口付けに夢中になっていた。
















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