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4 歳の差の障害
しおりを挟む「フレイ様は、当主様と、熱い夜を過ごしたい、とお思いになられている。……その認識で、間違いございませんか?」
……一体、何の確認をされているのだろうか。
いくら相手が仲の良い専属侍従でも、恥ずかしすぎるだろう。
もじもじとしていれば、コニーに追い打ちをかけられる。
「フレイ様は、当主様と、一夜を共にする意味が、お分かりですか?」
「っ、」
ハッキリと言葉を区切って、コニーが告げる。
まるで、何も知らない幼児に話しかけるかのような口調だった。
「そ、それくらい、僕にだってわかってるよ……」
恥ずかしさを誤魔化すために、ついムッとしてしまったフレイだが、コニーは疑っているかのような顔つきだった。
知ったかぶりをしていると思われていそうだったので、フレイは渋々口を開く。
「僕の両親が愛し合ったから、僕が産まれたんだ。愛し合わないと、子供は産まれない……。その原理は、閨教育で習ったから、わかるよ」
「っ、閨教育を……? そうでしたか……。あれ、おかしいな。話が違う……」
ぎくっと反応してしまったフレイだが、冷静になるよう努める。
(正しくは、閨教育を習った友人から話を聞いただけなんだけど……。今はその話は置いておこう)
幸い、コニーはぶつぶつとなにやら考え込んでおり、フレイの変化には気付いていなかった。
「愛し合う夫夫なら、普通は一夜を共にしたいと思うものでしょう?」
「…………」
フレイの純粋な問いかけに対し、コニーは無言だった。
急に不安に襲われる。
ヴァレリオが初夜にフレイのもとを訪れなかった理由を、コニーは知っているのかもしれない。
嫌な予感がしたフレイは、顔面蒼白になっていた。
「も、もしかして、ヴァレリオ様は、僕を嫌いになっちゃった……? 僕に色気が足りないから、抱きたいとも思わない、とか……?」
「っ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! ひとつ、確認してもよろしいですか?」
少し落ち着いて、とコニー言われたが、誰の目から見てもコニーの方が落ち着きがなかった。
それでも、どうぞ、と促せば、フレイの肩を掴んだコニーに、じっと見つめられる。
いつにもまして真剣なコニーの態度に、フレイの背に緊張が走った。
「フレイ様は、ヴァレリオ様を、恋愛対象として、愛しておられるのですか?」
コニーの問いに、フレイは肩の力が抜けていた。
「え? 今更……? 何を聞かれるのかと思ったら、そんな当たり前のこと?」
「っ、」
フレイはいつものように堂々と愛を語ったが、コニーはあんぐりと口を開けている。
毎日同じ話を聞いていたコニーだが、どうして今になって驚いているのか。
フレイにはさっぱりわからなかった。
「僕、ずーっと言ってたよね? 僕の初恋の人は、ヴァレリオ様だよ? 十歳の頃から大好きで、片想い歴は八年……いや、今は両想いだった! うひゃあッ! 自分で言っちゃった、恥ずかしいっ!」
「…………っ、」
「僕もね、まさか、初恋の人であるヴァレリオ様と恋愛結婚できるとは思っていなかったからさっ。前世では相当、徳を積んだのかなー? なんて思ってたんだけど……。コニー、どうしたの?」
フレイはいつもの調子で惚気ていたのだが、コニーは驚愕に目を見開いている。
まるで、今初めて知ったと言わんばかりの顔をされているのは、どうしてなのだろうか。
(まさかとは思うけど、コニーは今まで僕の話を右から左に流していたのかな……?)
真面目でフレイとも気が合い、侍従というより親しい友人のように思っていたコニーに、裏切られた気分になる。
「コニーは、僕の専属侍従になってから、一年が経つけど……。もしかして、今まで僕の話を聞いていなかった? 確かに、僕は惚気話しかしていなかったし、コニーからすると、つまらなかったかもしれない……。でもそれって、酷くない?」
「っ、そんなことはございませんっ!! あっ、その……ええっと、少しお待ちくださいっ!!」
普段、温厚なフレイが不機嫌になると思わなかったのだろう。
狼狽えるコニーが、部屋を飛び出した。
「……どうしよう。言い過ぎちゃったかな? コニーとは、ずっと仲良しでいたいと思っていたのに……。あとで謝らないとっ」
フレイが反省していると、コニーが執事を連れて戻ってきた。
日に焼けた肌と、五十代とは思えない肉体を維持しているダリウスは、厳つい顔だということもあり、使用人たちにとっては恐怖の対象である。
だが、フレイには特別に甘い人だった。
「フレイ様。コニーから話は聞きました。今から、ヴァレリオ様の寝室にご案内致します」
「っ、ダリウスッ! ありがとうっ!」
「ただし」
すっと目を細めたダリウスの底知れぬ圧に、フレイはごくりと唾を飲んだ。
「まずは、おふたりでしっかりと話し合いをなさる必要があるかと思います」
「…………話し合い?」
「ヴァレリオ様は、フレイ様を大切に想っておられます。……ですが、おふたりには『歳の差』という障害があります」
言いづらいのか、ダリウスが言葉を選んでいるように見えたフレイは、不穏な空気を感じ取る。
(ヴァレリオ様は、僕を大切に想っている。……でも、それ以上の気持ちはないということ……?)
ダリウスが歳の差を気にする気持ちは、フレイにもわからないわけではない。
なにせフレイの父――ハリソンは、学園時代はヴァレリオのひとつ下の後輩にあたるのだ。
ヴァレリオがフレイに対する愛情は、恋愛ではなく、『家族愛』だったとしても、おかしくない。
「つまり、歳の差があるから、ヴァレリオ様は僕を、性的対象としては見られない。そう言いたいの……?」
否定してほしいと願いながら、フレイは恐る恐る問いかけたが、ダリウスはなんとも形容しがたい表情で、言葉を濁した。
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