召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 ふたりの協力を得ることができたのだが、レヴィは新たな問題に直面していた――。

「くっ。わたくしも、まだまだ修行が足りないのね……。でも、絶対に諦めないわ!! 覚えてらっしゃいッ!!」

 死の森の草を、もしゃもしゃと咀嚼している馬の尻に向かって、スザンナが捨て台詞を吐く。
 格好良くビシッと指を差しているが、スザンナは涙目になっていた。
 なにせ、スザンナがどれだけ祈っても、琥珀色の光が現れることはなかったのだ。

(動物が怖くて、馬に近付けないマリアンナ様は別として……。スザンナ様が動物の治癒をできないだなんて、びっくりだ)

 だが、レヴィはベアテルの真意が知りたいだけ。
 ふたりが治癒をできずともかまわなかった。

 その後、先代辺境伯夫夫とセドリック王太子殿下と夕飯を共にする。
 スザンナとマリアンナにも笑顔が戻り、その流れで、レヴィは友人ふたりを自室に案内していた。

「レヴィ様と、パジャマパーティー!?」

 急に叫んだスザンナがそわそわとし始め、レヴィは首を傾げた。

「っ、教会にいる時はもちろんだけれど、辺境伯領の聖女として活動してからは、休む暇なんてなかったわ? だから……憧れていたのよ」

 勢いよく話したスザンナの声が尻すぼみになる。
 なんと可愛い人なのだと、レヴィも初めてのパジャマパーティーにわくわくが止まらない。
 だが、それに待ったをかけたのは、ベアテルだ。

「話すだけなら、談話室でいいだろう。もしくは、俺も――」

「男性のあなたが、淑女のパジャマパーティーに参加できるわけないでしょう?」

「……あのお方も、男性だが――」

 ツンとした態度のスザンナは、ベアテルの声を無視して扉を閉めた。
 レヴィが内密に話したがっていることに気付いていたのか、素晴らしい判断だ。
 それから寝巻きに着替え、三人で広い寝台の中央に座る。
 この一年の出来事を話すために、レヴィは声を潜めた――。



「こ、婚姻したことを知らなかったんですか!?」

「っ……そんなっ! わたくしは、なんのために髪を切ったのっ!?」

 驚愕するマリアンナは慌てて口元を押さえ、カタカタと震え出したスザンナは、膝に顔を埋めて嘆いている。
 スザンナが髪を切ったことと、レヴィは無関係だと思うが、今はそっとしておくことにした。
 そして手紙のことを謝罪すれば、ふたりはあっさりと許してくれた。

「元の形に戻って、安心していたのに……」

 俯いたままのスザンナが、ぽつりと呟く。

「……元の形?」

「ええ。長い間、股間キラキ……テレンス殿下が、我が物顔でレヴィ様の肩を抱いていたけれど。最初にレヴィ様との婚約を望んでいたのは、ベアテル様でしょう?」

「ええっ!? 僕、そんなに前から目をつけられていたなんて、知らなかった――」

(……もしかして、幼い頃に僕と遊んでくれていた男の子は、ベアテル様だったの……?)

 とても大切なことを見落としている気がしてならないレヴィだが、突然立ち上がったスザンナがヒートアップする。

「ベアテル様がなにを考えているのかは知らないけれど、レヴィ様を悲しませるなら、容赦しないわ。それに、殿下も殿下よ。レヴィ様には相応しくないと常々思っていたけれど、あとから割り込んでおいて、あっさり別の人と婚姻するだなんてっ!! それはそれで腹が立つわッ!!」

 スザンナの機嫌が悪くなってしまったが、レヴィはにこにこと笑っていた。
 なにせスザンナは、レヴィのことを大切な友人だと思ってくれていることがわかったのだ。
 嬉しく思うレヴィは、頬が緩むのが止められなかった。

「エミール様は、ベアテル様が僕を娶ったのは、治癒の力は関係ないって話していたけど……。僕はそうは思えない。ベアテル様は、聖女を伴侶に迎えたいだけなんだと思う」

「……もしかして、離縁したいとお考えに……?」

 恐る恐る尋ねたマリアンナに、レヴィは頷く。

「僕はわざわざ伴侶にならなくても、ベアテル様に協力するつもりなんだ。僕、大好きな人たちには、本当に好きな人と結ばれてほしい……」

 テレンスのように、とまでは言わなかったが、ふたりには伝わっていたようだ。
 レヴィに背を向けたスザンナは、声を殺して泣いている。
 勘違いされやすい物言いだが、心根の優しい人だということがわかった。
 そして、離縁のためにレヴィが悪妻化していることを話せば、マリアンナは頭を抱える。

「身だしなみを整えることは、辺境伯夫人として当然の行動です。今のレヴィ様は、自らベアテル様の相応しい伴侶になろうとしているようにも見えますよ?」

「っ、ええ!? 我儘になってみたつもりだったのに、他の人たちには、そんな風に見えていたの?」

「ふふっ。悪妻化するレヴィ様も、それはそれは愛らしかったでしょうね?」

「……逆効果だったってこと?」

「そうかもしれません。でも、安心してください。これからは、私がずっとおそばにいますから! レヴィ様が離縁できるよう、私が代役を務めます」

 頼れるマリアンナの言葉に、レヴィは感動で瞳を潤ませる。
 そして、深夜にレヴィが動物の治癒をし、翌朝、マリアンナには、動物の餌やりを担当してもらうことに決まった。

(治癒をしたと、偽りの証言はできない。ただ、マリアンナ様が僕の代わりを務めることができるのだと、示せばいいんだ)

「お恥ずかしい話ですが、私はスザンナ様やレヴィ様と違って、聖女として功績を残せてはいません。未だに婚約を結ぶこともできず、このままだと両親と同じ年代の方に嫁がなければならないかもしれないと、焦っていたのです」

「っ、そうだったんですか……」

「はい。だから私は、治癒の力を利用されても構いません。レヴィ様を助けることができて、なおかつ辺境伯夫人になれたら、もう最高ですっ! 家族も大喜びですよ!」

「……えっ」

 深刻な悩みを打ち明けてくれたマリアンナが、今はやる気に満ち溢れている。

(僕と離縁したら、ベアテル様はマリアンナ様を伴侶に迎える――。それは嫌、な気がする……。あ、あれ? なんでだろう……)

 マリアンナを応援したいと思うのに、レヴィはどうしてか言葉が出てこなかった。














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