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第17話 お坊ちゃんだけが見える世界
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空は晴天、寒くもなく暑くもない最高のお出かけ日和に、お坊ちゃんとお人形さんのデートは始まった。
お坊ちゃんが用意したえんじ色の馬車は後輪が大きくて実に乗り心地が良い。
ちなみに馬車にはお坊ちゃんとお人形さん、そしてお人形さんの侍女とお坊ちゃんの侍女頭……つまり私が乗っている。12歳のお坊ちゃんと、18歳のお人形さんの間に間違いなんてある分けないが、そこは世間の目があるので私達も同乗している。
お坊ちゃんがお人形さんのために用意したは花束は薄紫のフリージアとかすみ草だった。その花束は今はない。部屋の花瓶に活けるようにお人形さんが指示していた。
「ヒルデガルド嬢は紫色のお花がお好きですか?」
お坊ちゃんがお人形さんに投げかけた言葉に私は瞠目する。
どこでそんな結論に達した?今日だって花束を贈ってもお人形さんはにこりともしなかったではないか!しかも受け取ったのは相変わらず侍女だったのに!
「わたくし……その様なことを申し上げましたか?」
お人形さんの表情は相変わらず読めない。でもなんとなく分かってきた。お人形さんは困惑しているらしい。
そしてそんなことを微塵も分かっていないはずのお坊ちゃんは、裏のない顔でニコニコしながら返事をする。
「仰ってませんが、前回、スイートピーを差し上げた際にピンクより紫色のお花を愛しむように見ていらしたのでお好きかな?と思ったんです。ヒルデガルド嬢の髪色と同じですね」
そうだっけ?そんな風には全く見えなかったけど?今回も前回も、そして今だって顔色ひとつ変わってないけど?どこにその要素があったの?
「ええ、わたくしの髪色はお祖母様譲りですの。この髪色はクリングヴァル公爵家の証です。わたくしの誇りでもありますので、この色が好きなのですわ」
「とてもお美しい髪色です。私はいつも見惚れてしまいます」
「……今のお言葉は女性が喜びますわ。素晴らしい言葉の選択です」
良い雰囲気かと思ったら、またもややってきた!お人形さんの上から目線の教師モード。
でもなんとなく分かってきた。これは照れ隠しだ。少しは大人になったけど、まだまだ子供なお坊ちゃんはここまでは読めないだろう。
お坊ちゃんとお人形さんの全く色気のないマナーレッスンの中、馬車は進む。
この馬車にはレーヴェンヒェルム公爵家から護衛の騎士5人、坊ちゃんの現在の身分オーケシュトレーム子爵からも5人、さらにお人形さんのクリングヴァル公爵家から10人護衛の騎士。さらにお人形さんの侍女が4人、後ろのに追従する馬車に乗っている。
護衛が20人、馬車が2台。しかも何がすごいって、みんな女性だと言うことだ。まさか御者まで女性だったから驚いた。つまりこの中では男性はお坊ちゃんだけ。お坊ちゃんも目を白黒させていたくらいだから、珍しいのだろう。
「……昨日は、お迎えに来てくださりありがとうございました」
「私が好きで行ったのです。お礼は要りません」
ニコニコしながらも言葉には自信が溢れている。あの可愛かったお坊ちゃんが……ううう、オルガは泣きそうです。
「……男らしいお言葉です。及第点を差し上げます」
「ありがとうございます。照れた表情もお可愛いらしいですね」
「……照れた?わたくし……そのような顔はできないはずですが……」
お人形さんの言葉に動揺は見られるが、表情には出ていない。その証拠に横に座る侍女は目をぱちくりしているが。
「そうなんですか?なぜ皆はヒルデガルド嬢は表情がないと言うのでしょうか?ぼ……私にはそれが不思議でなりません」
「アウグスティン様はご存知ないかも知れませんが、わたくしは幼い頃に拐われたことがございます。その時の恐怖で表情が固まっているのです。もう、何年も笑っていませんし、泣いてもいませんわ」
お坊ちゃんはじっと、お人形さんの瞳を見ている。そして首を傾げた。
「そのお話は父から聞きました。確かにヒルデガルド様は他のご令嬢に比べれば表情は乏しいかもしれません。ですが、今のお話をするときは辛そうな表情をされていましたし、私に昨日のお礼を言って下った時は嬉しそうでした。そしてお祖母様と同じ髪色のお話をされた時には誇らしげでした。お花も豪華な薔薇より、可愛らしいお花を好みますよね?紅茶は渋めは苦手ですよね?以前、侍女の方が渋い紅茶を出してきた時に嫌そうな顔をされていました。そして激甘なケーキがお好きですよね?特にチョコレートケーキがお好きでは?僕が甘くて苦手だったケーキをうっとりとした表情で召し上がっていたので。違いますか?」
「……合っています。アウグスティン様が笑って謝りながらお残しになられたケーキを……わたくしは美味しいと思っておりました。こんなに美味しいのにと……」
「いつも僕を嗜める際には悲しそうな顔をされていますよ?そして及第点をくださるときは、うっとりするほどの笑みを見せてくださっています。なのにどうして皆がヒルデガルド様のことを表情がないと言うのか僕には不思議でなりません。今だって頬が赤く染まって可愛らしのに」
私とお人形さんの侍女はお人形さんの顔を凝視する。
どこ?どの頬が染まってるの⁉︎毛穴一つもないような美しい白い肌しか私の目には見えないけれど?
「オルガ!そんなに凝視してはだめですよ。ヒルデガルド嬢が照れて真っ赤になっているじゃないですか?」
「「真っ赤?」」
私とお人形さんの侍女の言葉がハモる。
真っ赤?どこが?しかもこれだけ見てるのに、お人形さんはまっすぐお坊ちゃんを見ているだけで、瞳に動揺すら見せないけれど……。
何これ?お坊ちゃんの妄想劇場?
「どうして……お分かりに……?」
えーーー!!嘘でしょう?お坊ちゃんの言ってることが合ってるってこと?妄想劇場じゃないの?魔女の私にも意味不明なんだけど!
「さぁ?僕にはなぜ皆が分からないのかが分かりません」
お坊ちゃんは相変わらずニコニコだ。
お人形さんは相変わらず無表情だ。
そして私とお人形さんの侍女は視線を交わす。
意味不明……お互いが心の中で同調した。
お坊ちゃんが用意したえんじ色の馬車は後輪が大きくて実に乗り心地が良い。
ちなみに馬車にはお坊ちゃんとお人形さん、そしてお人形さんの侍女とお坊ちゃんの侍女頭……つまり私が乗っている。12歳のお坊ちゃんと、18歳のお人形さんの間に間違いなんてある分けないが、そこは世間の目があるので私達も同乗している。
お坊ちゃんがお人形さんのために用意したは花束は薄紫のフリージアとかすみ草だった。その花束は今はない。部屋の花瓶に活けるようにお人形さんが指示していた。
「ヒルデガルド嬢は紫色のお花がお好きですか?」
お坊ちゃんがお人形さんに投げかけた言葉に私は瞠目する。
どこでそんな結論に達した?今日だって花束を贈ってもお人形さんはにこりともしなかったではないか!しかも受け取ったのは相変わらず侍女だったのに!
「わたくし……その様なことを申し上げましたか?」
お人形さんの表情は相変わらず読めない。でもなんとなく分かってきた。お人形さんは困惑しているらしい。
そしてそんなことを微塵も分かっていないはずのお坊ちゃんは、裏のない顔でニコニコしながら返事をする。
「仰ってませんが、前回、スイートピーを差し上げた際にピンクより紫色のお花を愛しむように見ていらしたのでお好きかな?と思ったんです。ヒルデガルド嬢の髪色と同じですね」
そうだっけ?そんな風には全く見えなかったけど?今回も前回も、そして今だって顔色ひとつ変わってないけど?どこにその要素があったの?
「ええ、わたくしの髪色はお祖母様譲りですの。この髪色はクリングヴァル公爵家の証です。わたくしの誇りでもありますので、この色が好きなのですわ」
「とてもお美しい髪色です。私はいつも見惚れてしまいます」
「……今のお言葉は女性が喜びますわ。素晴らしい言葉の選択です」
良い雰囲気かと思ったら、またもややってきた!お人形さんの上から目線の教師モード。
でもなんとなく分かってきた。これは照れ隠しだ。少しは大人になったけど、まだまだ子供なお坊ちゃんはここまでは読めないだろう。
お坊ちゃんとお人形さんの全く色気のないマナーレッスンの中、馬車は進む。
この馬車にはレーヴェンヒェルム公爵家から護衛の騎士5人、坊ちゃんの現在の身分オーケシュトレーム子爵からも5人、さらにお人形さんのクリングヴァル公爵家から10人護衛の騎士。さらにお人形さんの侍女が4人、後ろのに追従する馬車に乗っている。
護衛が20人、馬車が2台。しかも何がすごいって、みんな女性だと言うことだ。まさか御者まで女性だったから驚いた。つまりこの中では男性はお坊ちゃんだけ。お坊ちゃんも目を白黒させていたくらいだから、珍しいのだろう。
「……昨日は、お迎えに来てくださりありがとうございました」
「私が好きで行ったのです。お礼は要りません」
ニコニコしながらも言葉には自信が溢れている。あの可愛かったお坊ちゃんが……ううう、オルガは泣きそうです。
「……男らしいお言葉です。及第点を差し上げます」
「ありがとうございます。照れた表情もお可愛いらしいですね」
「……照れた?わたくし……そのような顔はできないはずですが……」
お人形さんの言葉に動揺は見られるが、表情には出ていない。その証拠に横に座る侍女は目をぱちくりしているが。
「そうなんですか?なぜ皆はヒルデガルド嬢は表情がないと言うのでしょうか?ぼ……私にはそれが不思議でなりません」
「アウグスティン様はご存知ないかも知れませんが、わたくしは幼い頃に拐われたことがございます。その時の恐怖で表情が固まっているのです。もう、何年も笑っていませんし、泣いてもいませんわ」
お坊ちゃんはじっと、お人形さんの瞳を見ている。そして首を傾げた。
「そのお話は父から聞きました。確かにヒルデガルド様は他のご令嬢に比べれば表情は乏しいかもしれません。ですが、今のお話をするときは辛そうな表情をされていましたし、私に昨日のお礼を言って下った時は嬉しそうでした。そしてお祖母様と同じ髪色のお話をされた時には誇らしげでした。お花も豪華な薔薇より、可愛らしいお花を好みますよね?紅茶は渋めは苦手ですよね?以前、侍女の方が渋い紅茶を出してきた時に嫌そうな顔をされていました。そして激甘なケーキがお好きですよね?特にチョコレートケーキがお好きでは?僕が甘くて苦手だったケーキをうっとりとした表情で召し上がっていたので。違いますか?」
「……合っています。アウグスティン様が笑って謝りながらお残しになられたケーキを……わたくしは美味しいと思っておりました。こんなに美味しいのにと……」
「いつも僕を嗜める際には悲しそうな顔をされていますよ?そして及第点をくださるときは、うっとりするほどの笑みを見せてくださっています。なのにどうして皆がヒルデガルド様のことを表情がないと言うのか僕には不思議でなりません。今だって頬が赤く染まって可愛らしのに」
私とお人形さんの侍女はお人形さんの顔を凝視する。
どこ?どの頬が染まってるの⁉︎毛穴一つもないような美しい白い肌しか私の目には見えないけれど?
「オルガ!そんなに凝視してはだめですよ。ヒルデガルド嬢が照れて真っ赤になっているじゃないですか?」
「「真っ赤?」」
私とお人形さんの侍女の言葉がハモる。
真っ赤?どこが?しかもこれだけ見てるのに、お人形さんはまっすぐお坊ちゃんを見ているだけで、瞳に動揺すら見せないけれど……。
何これ?お坊ちゃんの妄想劇場?
「どうして……お分かりに……?」
えーーー!!嘘でしょう?お坊ちゃんの言ってることが合ってるってこと?妄想劇場じゃないの?魔女の私にも意味不明なんだけど!
「さぁ?僕にはなぜ皆が分からないのかが分かりません」
お坊ちゃんは相変わらずニコニコだ。
お人形さんは相変わらず無表情だ。
そして私とお人形さんの侍女は視線を交わす。
意味不明……お互いが心の中で同調した。
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