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オカン公爵令嬢は潜入する。

34話 決戦(4)

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 空に浮かぶのは透明な球体。そしてその中にはオカンとオヤジと俺。そして魔力を全開にした麗とレオポルドがいる。

 いつの間にか麗とレオパルドが対面し、俺達は球体の端に移動してる。相変わらずオカン達の魔法は理屈が分からない。

「咲夜、はい!」

 オカンが俺に渡す水晶玉には見覚えがある。そしてそれを持ったと同時に魔力がごそっと抜けた。俺たちのいる透明な球体を維持する為に、俺の魔力が使われているのが分かった。
 
「オカン!これって!」
「あのまま部屋で戦ってたら、この国が滅びるわよ?」

「あり得るね。咲夜……見てご覧、魔力が暴走してるのはレオポルドだけじゃない。嫉妬から麗ちゃんも暴走してる。魔力の増幅を助ける神剣がなくともこれだけの魔力とは――やはり麗ちゃんは恐ろしい」

 確かに麗の小さな身体から背景が歪むほどの魔力が見てとれる。麗が立っている場所付近では結界の役目をしてるこの球体にヒビが入っていく。

「気合い入れなさい!咲夜!麗ちゃんは魔王よりも手強いんだから!」

「そうだよ、咲夜、頑張れ!この球体が壊れて、麗ちゃんが地上に降り立つとこの世界は滅びると、勝利の神が予測してる!」

「え――ふたりとも何を言って……」

 かわいい俺の彼女に何を言ってるの?と言いたけれど、抱き締めている水晶玉にもヒビが次々と入っていく。この水晶玉と俺たちを包んでいる球体は連動してる。つまりこの水晶玉を割らない為にも、俺は魔力を送り込み修復するしかない。
 魔王と戦っている時にも、ヒビひとつ入らなかった球体にヒビ入れるって……麗は一体どうなっちゃたの?

 そして焦る俺たちが見えていないのか、麗がレオポルドにビシっと指差した。

「咲夜君によくもイラズラを!許さない!咲夜君の仇を取ってやる!」

(いや、俺生きてるよ?麗)

「なによ!アダル様に愛されてるからっていい気になって!あんたを殺して私が後釜になってやる!」

「ムカっー!本当に頭にきた!来い、ウルティモ!」
 麗が手を天に掲げる。

「まさか神剣を呼ぶ気か⁉︎そんなことができるとでも?」

「雅也さん、何を焦ってるの?できるに決まってるでしょう?神剣よ?私だってできるわよ」

「「はぁ?」」

 俺とオヤジの声がハモる。それはどうやって?どの公式で?って聞きたいけど無駄なことはもう分かってる。そして麗の言葉の通り、ウルティモがやってきた。なぜか麗の足元から、にゅにゅにゅにゅ、と生えてきた。無駄に豪華なエフェクトと共に。

[麗さま!正気に戻ってください]
 ウルティモが一番初めに言うセリフはそれなんだ……なんて思ってる場合じゃない。ウルティモを鞘から抜いた麗の魔力が更に強まる。

(水晶玉を維持するのが難しい!)

「咲夜!今、助ける!」そう言ったと同時にオヤジも水晶玉に力を送り込む。これで少しは安定したと思ったのも束の間……。

「私にだって神剣はある!貰ってきたんだから――出よ、天叢雲剣あめのむらくも!!」

 レオポルドも天に向かって剣を掲げる。するとどこからか雷がビシャーッと鳴り響き、激しい雷光がレオポルドにあたったと同時に日本刀が現れた。

「ああ、やっぱりあの子を転生させたのって、天照大神かぁ。三種の神器かっこいいわね」

「オカン!冷静に分析しないで、助けてよ!」

「えー無理よ。私は攻撃特化だもの。守りは苦手だから作れるけど維持できないわ」

「――嘘でしょう?」
 俺とオヤジで魔力を送りこみ、水晶玉を維持しようとがんばっているけど、それすら厳しいのにここで助けてもらないなんて……。

「代わりに神剣を召喚してあげるわ。はい、召喚」
「「はぁ?」」

 またもや声がかぶる俺とオヤジの間抜けな姿の前に、カシャンと音を立てて神剣ヴィアラッテアが落ちてきた。

[アダル様~よくぞ、ご無事で~]
「ヴィアラッテア!俺を補助して!」
[おまかせください!]
「スピラーレも!」
[承知いたしました!]

 神剣は神から賜った魔力増幅器だ。これで水晶玉も維持できる……そう思ったのも束の間……。

「アダル様の嫁の座はもらう!いでよー、八岐大蛇ヤマタノオロチ!」

 レオポルドの周囲にヘンテコ魔法陣が生じ、8本の首を持った巨大な蛇が現れた。あまりにもの巨大さで球体がはち切れそうだ!

「嫁の座は渡さない!そっちが和ならこっちは洋!出よ!バハムート!」

 そして麗は巨大な羽があるドラゴンを出現させた。ドラゴンが羽を羽ばたかせると、その威力で俺たちを包む球体が歪む。

「なんで?威力が強すぎない?」

「あんたが気絶した時よりすごいわね」

「神剣もあるしね……だから、置いてくるように誘導したのに、まさか召喚されるなんて――」

「そういえば、俺がティベリオにキスされた時も大変だったって言ってたけど、その時もこの球体?」

「最終的にはここに入れて宥めたの。でも今回は錯乱してるから、無理ね。敵も錯乱してるし……水晶玉の様子はどう?」

「どうって……」

 俺とオヤジが力を送る水晶玉は一進一退を繰り返してる。それは仕方ないことだ。なぜなら球体の中で怪獣大決戦が繰り広げられているからだ。

 その威力に俺の血の気が引いてくのが分かった。
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