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オカン公爵令嬢は潜入する。

37話 決戦(7)

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「さて、ではヒントをあげよう」

 満足そうな試練の神には頭に来るけど、ここは黙っておこう。どうせ心の中は読まれているんだ。

「私はなんの神でしょう?」

 うわー、驚くくらい満面の笑顔だ~。ってあほか!自分で試練の神って言ったじゃないか!

「うん、そうだね。試練の神だね~」

 もう俺は喋らなくても良くない?必要ないよね?

「じゃあ次の質問です。試練の神である私が力を得る一番の方法は何かな?」

 俺が与えられた試練に打ち勝つことでしょう?

「そうだね。ちなみに今、咲夜が怒りを我慢しているのも私から見たら試練のひとつだよ。そうやって怒らずに我慢すればするほど、私の力が満ちてくるわけだ」

 ……へー、そうなんだ。なんだか変態さんみたいだ。

「神に向かって変態というのは君くらいだね。ところでそろそろ喋らないと天罰を下すよ?」

「俺……話す必要がありますか?」

 ごめんなさい。ごめんなさい、痛いのは嫌です!

「今は痛いのはないよ。良かったね」

 ……神様だって、俺の心の中の声の方に返事してるくせに!

「では雅也を守護する勝利の神は?」

「オヤジが勝利をすること」

「そうだね、それでは次の質問だ。では麗の守護神である愛の神は?」

「愛の神は麗が愛され、人を愛すことですか?」

「少し違うね。愛の神は更に愛を与えることでも力を増すんだよ?」

「……愛を与える?」

「そう、愛は無尽蔵な力だ。与えれられ、受け取ることができる」

「では最後の質問だ。献身の神は?」

「献身……」

「『献身 ; 他人やある物事のために、わが身を犠牲にして尽くすこと』by国語辞典」
 
 なんか試練の神ってイライラさせるのがうまい……じゃなくて!オカンを守護するのは献身の神だ。オカンが祈らないから、力を与えられないって言ってた。そして、オカンは……。

「試練の神――時を戻すことは可能ですか?」

「もちろんだとも」

 試練の神は満足そうだ。きっとこれを答えてる事が試練の神にとっては俺に課した試練なんだろう。細かく試練をぶっ込んでくる。だけど、ヒントをくれたのも同じ試練の神だ。

「ありがとうございます」

「君は心配になるくらい良い子だね。今後も期待してるよ」

 それ、オヤジにも言われたな……そう思っていると周囲の景色が歪んでくる。ゆらゆら歪む景色の中にオカンとオヤジが見える。世界の平和を守るためにも、やっぱりオヤジとオカンには仲良くいて欲しい。



 ◇◇◇◇




「燈子さん!ヴィータを触媒に献身の神から力をもらってくれ!」

 オヤジのこの台詞は2度目だ!となるとオカンは拒否するはずだ!

「イヤよ。なんで神相手に祈らなきゃいけないの⁉︎絶対にイヤ!祈らなきゃ助けてくれない神なんていらない!」

 やっぱり、そしてオヤジがここで怒るはずだ。

「燈子さん、なんてことを言うんだ!」

「その通りだよ!オカン‼︎」

「な……咲夜まで、なんてことを!」

「珍しいわね。咲夜までそんなこと言うなんて……」

 よし!これでオヤジとオカンの喧嘩は阻止された。続け様に麗達を見る。まだ大量の召喚獣の出現前だ。まだ間に合う!

「だっておかしいじゃないか。祈らなきゃ助けてくれないなんて。だってオカンは助けてくれって言われなくても、患者さんを助けてたじゃないか。何を言われても、それこそ罵られたってそれでも必死に助けようとしたじゃないか。オカンができてたことを神ができないなんておかしいだろう⁉︎」
 
 そう、色々と奇想天外な母だったけど、それだけは尊敬していた。医者という仕事は大変だ。理不尽に罵られたことだってある。救えなかった命について責められることもあった。でもオカンは次は救おうと努力していた。毎日毎日頑張って勉強していた。新しい技術を学びに積極的に海外へも行った。その姿は『献身』と言えるんじゃないだろうか。例え中身が傍若無人で暴走列車なオカンでも!

「その通りよ!そして私は今だってお願いされなくてもそこに病人がいたら助けるわ!私ができたことを神ができなくてどうするの‼︎」

 麗にやられた俺のこと放っておいたよね?とは思ったけど黙っておこう。空気を読むことが必要だ。そしてオカンのこの言葉こそが献身の神の目を醒させた。

「は?なに……これ?」

 オカンの体に天から光が一直線にあたる。そしてその光がオカンの体に吸収されていく。それは献身の神が今までオカンに与えたくても与えられなかった力を贈った証。
 先代のヴィータの主人の分もあるからオカンに与えられる力は強大だ。その大いなる恩恵で俺が持っている水晶玉が息を吹き返すようにイキイキと脈動を打ち始める。更に俺たちがいる球体を包む膜が力強くなっていくのを感じる。

「何これ⁉︎やばいわ~‼︎キタキタ来た~!!何これ?スーパーサ○ヤ人、それともウル○ラマン、それともそれとも――あ――なんて言えば良いの⁉︎兎にも角にも‼︎ヤバい‼︎」

 オカンの身体から青白い炎が上がる。その巨大な炎に俺は怯む。そしてオヤジは自分が煽っておいて引いている。その先にいる麗はあんぐりと口を開き、レオポルドは恐怖から顔が真っ青だ。良かった。争いが止まった。これで世界の崩壊は免れた。人々は平和でいつもの当たり前の生活が送れる。

 ホッとしたのも束の間、当然だが暴走列車は止まれない。

「小娘どもには負けないわ!昭和生まれの詰め込み世代を舐めんじゃない‼︎」

 オカンが変なポーズをする。

「待って、オカン!!」

「燈子さん、落ち着いて!!」

 俺たちのいうことを聞くようなオカンではない。

「爬虫類対決では負けないわ!出でよ!世界を飲み込めるという蛇‼︎」

「オカン‼︎やめて――――――‼︎」
 世界を飲み込みって何⁉︎ 
 俺の言葉は虚しく空を駆け抜ける。

「ヨルムンガンド召喚‼︎」

 オカンの言葉と同時に俺たちがいる球体に影が落ちた。そこにいるのは首だけしか見えない蛇!俺達を包む球体は東京ドームほどの大きさだろうか。その球体より蛇の顔の方が大きい!

 その蛇の口がゆっくりと大きく開く。ああ、蛇って舌が二つに分かれていたね……。

 そしてオカンに力を与えたことを、俺はいまだかつてない恐怖の中で後悔した。
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