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第四十九話 お昼の一コマ

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「ユーリさん、荷物は身一つ、というわけにはいきませんが、なるべく減らしてください。それとウチに来るのはユーリさんとウルド君だけですか?」

 俺たちは一度ユーリの部屋に戻って来た。

「そうねぇ、侍女を連れていきたいのだけど大丈夫かしら?」

 首を傾げ、頬に指をあてる仕草を見せるユーリ。癖なのだろうが、ちょっとかわいいと思ったのは内緒。他人の奥さんですからね……

「まぁ、一人くらいならいいですよ。いきなり一人で全部するというのも大変でしょうし……」

「助かるわ。そうしたら、誰が良いかしら……」

 ユーリは自分とウルドの荷造りに加え、連れていく侍女の人選を思案する。

「それから場所は“スズメの宿”ね。西門近くの三階建ての建物だからすぐわかると思うよ。後、大丈夫なら俺は行くけど、良いかな?」

 念のため、簡単な地図を描いて渡しておく。

「ええ、ありがとう。これからウルド共々お世話になるけど、宜しくね」

「分かった。まぁ、一緒に住んでいるみんなと仲良くしてくれれば特に問題ないよ。じゃぁ、また後でね」

 楽しそうに準備するユーリを余所に、俺とラフィアは一礼をして部屋を後にする。

◇◆◇◆


 侯爵邸を出た俺はハチたちに連絡を取り、状況を確認した。彼らからは特に誰も来ることは無く、肩透かしを食らった、という様子だった。それでも伝達不十分で捜索に来る可能性が有るので引き続き警戒をするように言う。

「とりあえず一つ終わったかな? 何だかすること増えた気もするけど……」

「良いではありませんか、賑やかになりますよ。自分も周りも」

「そうだね。賑やかなのは良いね」

 ラフィアは、はい、と笑顔で返事を返す。俺は彼女に釣られて笑い、少し心が軽くなった気がした。

◇◆◇◆


 ギルドへ戻る途中、行きで買い損ねた屋台に寄って食べ歩きをする。エリーに作ってもらった弁当が有るので一本だけ。因みにラフィアはお弁当が食べきれなくなるから、と遠慮した。
 しかし期待度が高かったせいなのか、俺は少し渋い顔をした。

「美味しいは美味しい。素材そのままに、というか、素材そのものに塩味だけ、という感じだ……」

 こちらの世界はどうも調味料に欠ける気がする。そういえば、以前屋台物を食べた時もそれほど美味しくなかったような……あの時はミーナとシンシアがおいしそうに食べてたから何も言わなかったから黙っていたけど、今回は何だか雰囲気に騙された感じが強い。相変わらず、こういう所は学習しないな、俺……
 それと俺は基本的に醤油派なんだよ。タレが付いている方が好きなんだって……

「ラフィア、ちょっと味見してみて」

 俺が食べかけの串をラフィアの前に差し出すと、彼女は啄むように一口口にする。

「なんと言うか、この世界は今も昔もこの程度だと思いますが……」

 返答に困ったのか、少し首を傾げて感想を述べる。しかし、エリーの料理はもっと美味しかったけど、と疑問を口にしたら、彼女にはわたくしたちの調味料を渡していますから、と答えられた。

「基本的にこの世界は食に関心が薄くないか?……それよりも、この数日でエリーが調味料を使いこなしていることに驚くべきか?……」

 何ともおバカな疑問が湧いては消える……

「実際、エリーは優秀ですよ。今まで料理してきた下地があるとはいえ、未知の調味料をそつなく使えているのですから」

 詳しく聞くと、酒、みりん、醤油の黄金割合を教えて、後は自分でアレンジをさせてみたようだ。飲み込みが早いらしく、基本的な味は覚えたと言っていた。
 尚、黄金割合とは、酒、みりん、醤油が1:1:1にすることで、誰でも失敗しない味になる、というもの。お好みで砂糖の量を調整するだけで、あら不思議、おいしい料理の出来上がり。となる。

「教えたラフィアも凄いが、覚えの早いエリーもすごいな」

「帰ったら、是非、エリーを褒めてあげて下さい」

「そうするよ」

 そんな取り留めもない話をしながら俺たちはギルドに戻って来た。周りを見るに、報告通り特に変わったことは無かったようだ。
 え? 従魔を信用してないのかって? 信用はしてるよ。ただ、俺の手を煩わせるのは申し訳ない、と自分たちで片づけてしまうから報告が上がってこないことがちょくちょくあるのだ。
 久しぶりの電波に回答しつつ、俺はギルドの扉をくぐる。

「あ、晴成君、ラフィアちゃんおかえり。例の件はうまくいった?」

「おかえりなさいませ、晴成様、ラフィアお嬢様」

 元気に出迎えたミーナの声に釣られて、シンシアも顔を出す。

「ただいま、ミーナ、シンシア。オマケが付いてきたけど、概ね終わったよ。時間もいい時間だし、ここでお昼食べようと思って。それと一応、ギルマスにも報告を入れようと思ってね。」

「おいおい、俺への報告は、“一応”なのか」

 奥から声がするので振り向くとギルマスがいた。
 ギルマスは暇なのか? というほど顔を合わせるが……

「当り前じゃないか。今回の件の対価は既に約束したし、ギルマスへの報告は本来、“受け付けた”もしくは”対応した”ギルド職員からの報告だろうに」

 正論を述べる俺に、つまらなそうな顔して不満をあらわにするギルマス。

「まぁ、良い。“一応”でいいから報告を聞こう」

「ギルマス、その前にご飯食べたいのだが……」

「じゃぁ、一緒に食べない? 私たちもお昼まだだし……それに、エリーさんのお弁当、楽しみなんだよねぇ。料理美味いし」

「では、二階の一室を借りましょう。そうすれば、皆一緒に食べれます」

「シンシア、問題なければそれでお願い」

「おいおい、勝手にそんなこと決め……」

「ギルマス、何か問題でも?」

 ギロリ、と睨み、シンシアがギルマスを威圧する。さしずめ、ラフィアとの食事を邪魔されそうになったのが気に入らないんだろう。
 ギルマスも分かってないなぁ、と呆れながら静観していた。

「い、いや、空いてる部屋が有れば問題ないよな……は、は、は」

 取り繕うように弁明するギルマスは、よっぽど心胆寒からしめたのだろう。顔が随分青かった。
 そんなギルマスを半ば無視して、俺たちはシンシアに案内され二階の一室に通される。小会議室のようなその部屋は小さな机が二つと両手で数えれるほどの椅子が隅に片付けられており、それらを必要な分だけ中央に準備して弁当を頂くことにした。
 いただきます、をみんなでして弁当の蓋を開ける。

「おぉ、卵焼きが有る。これは嬉しい!」

 “弁当のおかずと言えば卵焼き”と豪語する俺。それほどに卵焼きは好きである。

「エリーには晴成さんの好みをしっかり教えましたから、味付けも好みの味になっていると思いますよ」

 にっこりと微笑んで事情を教えてくれるラフィア。二人の細やかな配慮が嬉しい。
 今度、高機能弁当箱でも渡しておこう。そうすれば温かい汁物が食べれる。俺では無くミーナとシンシアがね。

「何これ、甘くておいしい! エリーさんの料理美味すぎる」

「本当にどうやったらこんなに美味しい料理が出来るのでしょう」

 ワイワイとおしゃべりをしつつ、エリーの手弁当に舌鼓を打つ俺たち。賑やかな昼の憩いが過ぎていく。
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