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第七十六話 道中は盗賊遭遇記

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「ヒャッハー!」

 おぉう、リアル・ヒャッハー、初めて聞いたよ……





 馬車は領都を出て、一路ルードル村へ。
 商会からは売り子兼御者が二十名、護衛として雇った冒険者たちが一台に付き三名ずつで三十名、後は俺とウナで計五十二名の大商隊だ。流石にこれほどの隊列はすれ違う人たちの目を引くようで、皆、思い思いの顔をしていた。
 因みに俺は商会長・ウナの縁戚で、商人見習いとしてこの隊列に同道している。なので、ちょっとしたお客様扱いされている。
 護衛は脇を歩き、御者をしない売り子は荷馬車で積み荷を監視する。つまり、俺とウナだけが箱馬車に乗っているため、気分は大名行列なのだ。
 まぁ、それは置いといて、なぜ最初がルードル村かというとルナの故郷だからだ。しかし、ルナは同道していない。彼女はアマミヤ商会のフードコーナーを任され、連日の大盛況でてんてこ舞い。急遽増員して対応に当たっているが、とてもじゃないが抜け出せない。本来ならルナも同道して、晴れて錦を飾るのだが、今回は囮も兼ねているので併せて別行動となった。
 結果、ルナはラフィアと一緒に現地集合とした。因みに移動手段はラフィアに一任したよ。
 ただ、到着予定日の朝に出て、昼前には着く予定でいます、と言っていた。領都から馬車で三日の距離を半日足らずで来るという。日本でも高速使ったってスピード違反だろ、と思うのは内緒の話。

「晴成様、そろそろ出発します」

 ウナが小声で報告してくる。俺は、分かった、とこれまた小声で返す。
 早朝、皆が簡単な食事をとり終わったのを確認し、ウナが号令をかける。俺はウナと同じ箱馬車に乗り込み、奇しくも二人っきりとなった。作戦上仕方ないことだ。が、同道している店員たちから妬みの声が聞こえる……

◇◆◇◆


 行程は二日目。馬車は途中、街道を外れて村への細道に入る。
 ルナの話では、そもそも普段から行商が偶に村に寄る程度。村からは収穫した小麦を納める以外に町に出るのはほぼ無い。稀に保存食を売るくらいしか村を出ることが無いそうだ。どうも、加工技術が拙いため安く買い叩かれるのだと言う。なので、急を要しない限り村人は自給自足の生活なのだそうな。
 道行く人は既にない。情報通りだ。
 仮に盗賊団たちが腕利きだとしても、俺らが村に逃げ込まれるのは厄介なはず。だとすれば、そろそろ頃合いというもの。

「晴成様」

 同乗するウナから声をかけられる。

「予定通り、罠にかかろう」

 言葉少なに命令を下す。ウナは何事も無い様に振舞った。
 既に俺の索敵でも敵性反応を確認している。後は奴さんたちのご登場を待つばかりだ。

「ぐわぁ!」

 前方の護衛が悲鳴を上げた。

「敵襲! 各人迎撃!」

 護衛リーダーからの指示で空気が変わる。俺たちは事前連絡通り馬車の中で待機をする。
 彼らには一応、即死しないように守備系のバフは内緒でかけているものの、囮と知らせて無いので心なしか落ち着かない。“敵を欺くには味方から”とは言うが、地球でもこういった経験が無いので、胃がキリキリする……
 まぁ、怪我は後で治すのだから割り切ろう……

「オイ、お前たち、武器を捨てて降伏しな。そうすれば命だけは助けてやる。まぁもっとも、男は奴隷で、女は俺たちの相手だがな」

 野太い声が響く。威圧がすごいのか、敵の数が多いのか、ピリピリとした緊張感が護衛たちから伝わってくる。
 探知を見るに、なるほど確かに盗賊の数が多い。ざっと、50以上は居るのだろう。護衛は30名だ。数の利は向こうに有るか……

「ひっひっひ。お頭、馬車の中に飛び切りの上玉がいやすぜ!」

 ユナの事だな。三下が窓越しにこちらを見ているのが分かる。

「お、ホントじゃねぇか。あいつ、俺の女な!」

「イッヒッヒ、かしらぁ、オイラ達にもお零れくだせぇよぉ」

「そうでヤンスよ。みんなで可愛がったら飛び切りの声で泣きやすゼ」

「ったく、後でならお零れくれてやる! 先ずは俺が楽しんでからだ」

 頭の大男がフンス、と鼻息一つ。しゃぁねぇか、という顔をしている。

「ヒャッハー! 滾るぜぇ!」

「キヒヒ、女だ! たっぷりと可愛がってやるよ!」

「長く楽しむんだから早々と壊すんじゃねぇぞ!」

 盗賊共は口々に好き勝手言ってくれる。

 しかし、ヒャッハー! なんてリアルでは初めて聞いたよ。しかもよく見れば一人だけモヒカンの世紀末衣装! 後はヒゲ面の皮鎧とかなんだよ。テンプレ衣装で登場なんだよ。もうこれはさ、
 何でお前だけ世紀末衣装なんだよ――!!
 って、叫びたい!

「バカなこと言うな! お前たちこそこの世の別れだ!」

 アホなこと考えていたら護衛リーダーが盗賊たちに反駁してた。

「全員隊列を崩さず、各自迎……ぐわぁぁ!」

 護衛メンバーの一人が護衛リーダーを後ろから切りつけた。前のめりに倒れ、背中から血が流れ出る。

「リーダーよぉ、俺はこんなところで死ぬのも奴隷になるのも嫌なんだわ。だから、あちらさんに付くことにするよ。なぁ、良いだろお頭さんよ」

「ガハハ、良い度胸じゃねぇか! 気に入った子分にしてやる。他に子分になりたい奴は居るか⁉ 分け前はくれてやるぞ?」

 大男が気持ちよさそうに喚いている。それに釣られて、どよめきと逡巡が生まれた。

「へっへっへ、予定とは違うが俺たちも合流するぜ!」

「“疾風の大牙”、お前たちまで裏切るのか?」

 こいつらは最初から敵性反応が有った奴らだ。乱戦で裏切るかと思ったが、此処で裏切りを演出した方が効果的と踏んだか? どちらにしろ、流れが変わった。
 ぞろぞろと護衛の男たちが裏切り始める。残っている護衛の男は数名だ。残りは護衛の女が十人足らずと商会メンバーか。
 結果、護衛の半数以上が裏切ったわけだ。潜り込んだ敵はともかくとして、雇った質が悪かったかな?

「お前たち、盗賊にしっぽを振ってどうする? 盗賊の末路は吊るし首だぞ!」

「そう言うなよ、先ずは今が大事じゃねぇか。それに、女が抱けるのも命あっての物種だぜ。折角仲良くなったんだ、キレイなお嬢ちゃんたちもこの後も仲良くやろうぜ!」

「ケッ! ごめんだね。カスの相手なんかお断りだよ」

 元護衛の男の物言いに吐き捨てるように言う護衛の女。
 女の選択肢は盗賊の慰み物か、奴隷として売られ、買い手の慰み物になるか。どちらにしても良い選択は無い。
 商会のメンバーは誰一人として動じず。ウナへの忠誠度が高いのだろう。これは此れで見事!

「お前たちの様な卑劣な男どもに彼女たちは渡さない!」

 護衛の男が吠える。残った男たちも強く頷いていた。見れば周りの女が黄色い声で騒いでいる。つまり、吠えた男がハーレム野郎で、頷いていた数人も彼女持ち。と言う訳だ。

「ケッ! ムカつく野郎だ。お前の目の前でお前の女たちをヒーヒー鳴かしてやるよ! 絶望しながら眺めてな!」

 裏切った男が憎悪しながら吐き捨てる。
 まぁ、このハーレム君は仕事態度が悪かったし、バカップルだったから腹が立つのは分かるんだが、盗賊に尻尾を振ったお前の末路は決まったんだから、未練作っちゃダメでしょ!

「ガハハ! そいつは面白そうだな、俺にも噛ませろよ!」

「へへっ、親分さんの申し出は断れませんぜ」

 すっかり尻尾を振ることに慣れた元護衛の男。

「ガハハ! 分かってるじゃねぇか! おい、お前らとっとと殺って、宴会だ! 一番働いた奴には好きな女やるぞ!」

 大男の卑下た言葉を皮切りに、盗賊共が怒声をあげて襲い掛かる。
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