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第七十五話 どうやら餌に食いついたようだ
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◇◆
「ぐぬぬぬぬ……」
このままでは折角築いた儂の地位が……
「おい! あのアマミヤ商会はどうなってる? それとダンジョン品を入荷できた店は有ったか⁉」
近くに居た側近達に問いかける。
「はい……いえ、その……」
「何だ、はっきり言え!」
思わず怒声で返す。どいつもこいつも役に立たん。
「……新たにダンジョン品を入荷できた店は御座いません。又、あの商会については調査中です。ただ、侯爵が関わっているとか、どうとか……」
漸く、しどろもどろに報告してきた。
クソ! 碌な報告が上がらん。金が無い侯爵が絡んだところで商売の大した役に立たんだろが。精々、上前を撥ねられるだけだ。それに、ポイントなどというバラマキをしていたら早々に破産するはずだろう。なのに開店から早十日、苦しい所を見せるどころか、連日有り得ないほどの売り上げを出しているという。
「クソ、奴らはどうやってダンジョンの品を買い取ってる?」
儂は思わず悪態をつく。
確かに、子飼いの冒険者共からダンジョン品を入荷出来てはいる。だが、それは微々たる量だ。どうやったらあの量が確保できる? 冒険者ギルドに納品依頼を出しても、新規のダンジョンでのドロップ品なので納品依頼は受けかねる、と突っぱねてくる始末。それに、仮に全冒険者があのダンジョンの品を納品したとして、毎日あの量が店頭に並べれるものなのか?
そもそも、もっと高い値段で売ればこちらとて価格が上げれるものを。忌々しい!
——コンコン
「失礼します」
思考の穴に嵌っていると側近の一人が入室してきた。
「ギルドマスター、昨日退会した商会が二百十一件。累計千件を超えました」
「何だと⁉」
日に日に退会者が増えてるではないか。
クソクソクソ! 次から次へと悪い報告ばかり寄こしやがって!
「どうも奴隷解放の資金提供の際に離反を促されているようです」
「退会した奴らはリストアップしておけ。この件の片が付いたら目にもの見せてくれる!」
「は、はい。ではリストを作成し、退会した者には引き続き品物を売らないように締め上げておきます」
「当り前だ!」
儂の怒号を受け、側近が駆け出す。
貧乏侯爵のどこに奴隷解放の資金があるというのだ?
そもそも、奴隷という使い潰しの利く駒を手放して何になるというのだ?
「ギルドマスター!」
「今度は何だ⁉」
ドカン、と扉を勢いよく開け、側近が駆け込んでくる。
「朗報です。あのアマミヤ商会が近く領内の他の町にダンジョンの品を売りに回るそうです」
「ほう?」
一度、町の外に出るとなると魔物や野盗を警戒して護衛を付けるのが当たり前だ。とすれば……
「はい。こちらの読み通り、護衛依頼が出されたそうです。そこに子飼いの冒険者たちを潜り込ませ、手なずけた野盗どもと協力すれば……」
「クックック、大打撃どころか、商会そのもの倒産も有り得る、か」
あれだけの品物だ。どこかでこの領都以外で売りに出るだろうとは思っていたが、思ったより早かったな。
「詳細は分かるか?」
「勿論です。隊列は馬車10台。出発は三日後、募集はCランク以上15人。最初にルードル村、マスガル、ババナ、旧都の順で回るそうです」
「馬車10台とは大隊列だな。良くやった! 至急奴らを手配しろ。約定は直ぐに出す。上手くいったら報酬は倍額出すと言え」
クックック、漸くツキが回ってきた。これまでの屈辱きっちり返してやるわ!
儂は早速約定を書くためにペンを執った。
しかし、奴らも面倒臭いものよ。毎回約定が欲しいなどと。どれだけ危ない橋を渡らせているか分かっているのか……
だが、そこは抜かりないわ。これには一定時間過ぎれば文字が消えてしまう魔法を施してあるのだからな……クックックッ
◆◇
(マスター、ラット隊から奴らが網にかかったとの報告が有りました)
(ハチ、ありがとう)
ハチより偵察部隊の報告を受ける。
俺は身近な者たちの安全強化のためにDPで召喚したアニマル隊を町に展開させていた。
町中を中心に犬隊、猫隊、ラット隊を。町の内外問わず上空をバード隊。町の外を中心にリス隊、狐隊、馬隊、熊隊などを監視と強襲隊として配置している。
隊名に今一つ統一性が無いのは御愛嬌。
彼らの役割の一部を紹介すれば、
犬隊は町中を巡回し、場合によっては追跡をする。衛兵兼警察犬的役割を。
猫隊は人々の噂話などを収集し、精査する。情報局兼情報屋的役割を。
ラット隊はいち早く敵地へと潜入し情報を獲得する。特別捜査官兼諜報員的役割を。
と、それぞれの特徴に合わせて仕事を任せてみた。
ただ、全部の情報をあげられてもこちらがパンクするので、街中はハチが、上空はピイが、町の外はキューが情報の精査にあたっている。活動範囲が広がるにつれ、組織が大きくなるだろうが、今は此れでやっていくことにした。立ち上げたばかりの組織だ。どこに不都合があるか分からない。
それにこちらの肩慣らしも有る。チートが有るにせよ、こっちは凡人だ。いきなり長官役は出来んよ……
「さて、こちらも準備しないとな」
《まさか商業ギルドのギルドマスターが盗賊と手を組んでいたなんて誰も想像しないだろうね》
「王都のグランドマスター以下、幹部連中は何を見ているんだろうな……」
話によれば、冒険者ギルドも商業ギルドも王都にグランドマスターがおり、その下に側近とギルドマスター達が居る。ギルドマスターはエリア統括者なので大概は領に一人で、各町や村に支部長たちがいる形をとっている。ただ、余り旨味の無い小さな村落は両ギルド、或いは片方が支部を展開しないことが多いという。
両ギルドの一番の違いというのは、冒険者ギルドは各エリアで完結しているのに対し、商業ギルドはエリアを越えて商売をしている点だろうか。
因みに、商業ギルドですら外国に有るギルドとの連携はあまり見られない。一部隣接する地域は別だが、交通網があまり発展していないためだ。
それはそれとして、各ギルドマスターの裁量権が大きいとはいえ、最終の任命権はグランドマスターに有る筈なのだから、しっかり監視をして欲しいものだ。
《チェーン店と思ったらフランチャイズだったみたいな、本質が違っているのかもね》
「傍から見ると見わけが付かないけど、経営権に口出しできるかどうか、ってやつ?」
《そうそう。各ギルドマスターの権利が強くて、グランドマスターは実質承認だけ、とかね》
「役に立たねぇ―!」
思わず叫んでしまった……
「ま、いいや。“現代日本”が最高、とは言わないが、商業ギルドが些か強すぎるのは確かだ。商売における法まで口出しされては公平な取引が出来ない。ここらで退場願おうかな?」
《そうだね。その為の準備はしてきたわけだし》
主にユーエンが、だけどね。
さて、上手く釣り上げれるかな?
「ぐぬぬぬぬ……」
このままでは折角築いた儂の地位が……
「おい! あのアマミヤ商会はどうなってる? それとダンジョン品を入荷できた店は有ったか⁉」
近くに居た側近達に問いかける。
「はい……いえ、その……」
「何だ、はっきり言え!」
思わず怒声で返す。どいつもこいつも役に立たん。
「……新たにダンジョン品を入荷できた店は御座いません。又、あの商会については調査中です。ただ、侯爵が関わっているとか、どうとか……」
漸く、しどろもどろに報告してきた。
クソ! 碌な報告が上がらん。金が無い侯爵が絡んだところで商売の大した役に立たんだろが。精々、上前を撥ねられるだけだ。それに、ポイントなどというバラマキをしていたら早々に破産するはずだろう。なのに開店から早十日、苦しい所を見せるどころか、連日有り得ないほどの売り上げを出しているという。
「クソ、奴らはどうやってダンジョンの品を買い取ってる?」
儂は思わず悪態をつく。
確かに、子飼いの冒険者共からダンジョン品を入荷出来てはいる。だが、それは微々たる量だ。どうやったらあの量が確保できる? 冒険者ギルドに納品依頼を出しても、新規のダンジョンでのドロップ品なので納品依頼は受けかねる、と突っぱねてくる始末。それに、仮に全冒険者があのダンジョンの品を納品したとして、毎日あの量が店頭に並べれるものなのか?
そもそも、もっと高い値段で売ればこちらとて価格が上げれるものを。忌々しい!
——コンコン
「失礼します」
思考の穴に嵌っていると側近の一人が入室してきた。
「ギルドマスター、昨日退会した商会が二百十一件。累計千件を超えました」
「何だと⁉」
日に日に退会者が増えてるではないか。
クソクソクソ! 次から次へと悪い報告ばかり寄こしやがって!
「どうも奴隷解放の資金提供の際に離反を促されているようです」
「退会した奴らはリストアップしておけ。この件の片が付いたら目にもの見せてくれる!」
「は、はい。ではリストを作成し、退会した者には引き続き品物を売らないように締め上げておきます」
「当り前だ!」
儂の怒号を受け、側近が駆け出す。
貧乏侯爵のどこに奴隷解放の資金があるというのだ?
そもそも、奴隷という使い潰しの利く駒を手放して何になるというのだ?
「ギルドマスター!」
「今度は何だ⁉」
ドカン、と扉を勢いよく開け、側近が駆け込んでくる。
「朗報です。あのアマミヤ商会が近く領内の他の町にダンジョンの品を売りに回るそうです」
「ほう?」
一度、町の外に出るとなると魔物や野盗を警戒して護衛を付けるのが当たり前だ。とすれば……
「はい。こちらの読み通り、護衛依頼が出されたそうです。そこに子飼いの冒険者たちを潜り込ませ、手なずけた野盗どもと協力すれば……」
「クックック、大打撃どころか、商会そのもの倒産も有り得る、か」
あれだけの品物だ。どこかでこの領都以外で売りに出るだろうとは思っていたが、思ったより早かったな。
「詳細は分かるか?」
「勿論です。隊列は馬車10台。出発は三日後、募集はCランク以上15人。最初にルードル村、マスガル、ババナ、旧都の順で回るそうです」
「馬車10台とは大隊列だな。良くやった! 至急奴らを手配しろ。約定は直ぐに出す。上手くいったら報酬は倍額出すと言え」
クックック、漸くツキが回ってきた。これまでの屈辱きっちり返してやるわ!
儂は早速約定を書くためにペンを執った。
しかし、奴らも面倒臭いものよ。毎回約定が欲しいなどと。どれだけ危ない橋を渡らせているか分かっているのか……
だが、そこは抜かりないわ。これには一定時間過ぎれば文字が消えてしまう魔法を施してあるのだからな……クックックッ
◆◇
(マスター、ラット隊から奴らが網にかかったとの報告が有りました)
(ハチ、ありがとう)
ハチより偵察部隊の報告を受ける。
俺は身近な者たちの安全強化のためにDPで召喚したアニマル隊を町に展開させていた。
町中を中心に犬隊、猫隊、ラット隊を。町の内外問わず上空をバード隊。町の外を中心にリス隊、狐隊、馬隊、熊隊などを監視と強襲隊として配置している。
隊名に今一つ統一性が無いのは御愛嬌。
彼らの役割の一部を紹介すれば、
犬隊は町中を巡回し、場合によっては追跡をする。衛兵兼警察犬的役割を。
猫隊は人々の噂話などを収集し、精査する。情報局兼情報屋的役割を。
ラット隊はいち早く敵地へと潜入し情報を獲得する。特別捜査官兼諜報員的役割を。
と、それぞれの特徴に合わせて仕事を任せてみた。
ただ、全部の情報をあげられてもこちらがパンクするので、街中はハチが、上空はピイが、町の外はキューが情報の精査にあたっている。活動範囲が広がるにつれ、組織が大きくなるだろうが、今は此れでやっていくことにした。立ち上げたばかりの組織だ。どこに不都合があるか分からない。
それにこちらの肩慣らしも有る。チートが有るにせよ、こっちは凡人だ。いきなり長官役は出来んよ……
「さて、こちらも準備しないとな」
《まさか商業ギルドのギルドマスターが盗賊と手を組んでいたなんて誰も想像しないだろうね》
「王都のグランドマスター以下、幹部連中は何を見ているんだろうな……」
話によれば、冒険者ギルドも商業ギルドも王都にグランドマスターがおり、その下に側近とギルドマスター達が居る。ギルドマスターはエリア統括者なので大概は領に一人で、各町や村に支部長たちがいる形をとっている。ただ、余り旨味の無い小さな村落は両ギルド、或いは片方が支部を展開しないことが多いという。
両ギルドの一番の違いというのは、冒険者ギルドは各エリアで完結しているのに対し、商業ギルドはエリアを越えて商売をしている点だろうか。
因みに、商業ギルドですら外国に有るギルドとの連携はあまり見られない。一部隣接する地域は別だが、交通網があまり発展していないためだ。
それはそれとして、各ギルドマスターの裁量権が大きいとはいえ、最終の任命権はグランドマスターに有る筈なのだから、しっかり監視をして欲しいものだ。
《チェーン店と思ったらフランチャイズだったみたいな、本質が違っているのかもね》
「傍から見ると見わけが付かないけど、経営権に口出しできるかどうか、ってやつ?」
《そうそう。各ギルドマスターの権利が強くて、グランドマスターは実質承認だけ、とかね》
「役に立たねぇ―!」
思わず叫んでしまった……
「ま、いいや。“現代日本”が最高、とは言わないが、商業ギルドが些か強すぎるのは確かだ。商売における法まで口出しされては公平な取引が出来ない。ここらで退場願おうかな?」
《そうだね。その為の準備はしてきたわけだし》
主にユーエンが、だけどね。
さて、上手く釣り上げれるかな?
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