恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

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これがボクの日常

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「これで何人目だ? 朱思しゅし 愛理あいり

「さてさて、何人目だったかな?」

 時は夕刻、茜色に染まる教室。
 くたびれた声でボクの名前を呼ぶ彼、進藤しんどう みつる
 ボクと長らく人生を共にしてきた、幼馴染と呼べる存在だ。
 それ故に、ボクの良き理解者として、良く相談にも乗ってくれているんだ。

「バカ言え。お前が忘れる訳無いだろうが。いーから答えろ」

 呆れたように返す彼のその声も嫌いじゃない。
 でも彼を怒らせると後が怖いので、要求には答えておくことにしよう。

「君はすぐに結果を知りたがる。それは悪い癖だぞ? まったく……今月に入ってからは、三人目さ」

 彼の深く長いため息はなるほど、ボクの心を突き落とすかのような重さじゃ無いか。

「それで、今回は何日もったんだ?」
「失敬だなぁ。君はボクをなんだと思っているんだい?」

 ボクはそれほど不節操では無いつもりなんだけどな。

「聞いて驚くといいよ。一週間──日にちにして七日だ。このボクの頑張りを、もっと褒めてくれてもいイタイ!」

 何をするんだ充! 
 君は怒ると何故、いつもボクの頭を叩いてくるんだい!

「バカエリ。一週間なんて付き合った内に入んねーよ。よくもまあこんな短期間で、次から次へと振られてこれるな、お前」

 そう。ボクの相談というのは、いわゆる恋愛相談。
 ボクは生まれてからの十七年間で、多くの異性と交際してきた。
 数にして四十九。そのどれもが、一週間以内に実績があるんだ。

「ボクに言われても困る。一緒にいて疲れるだとか、何を考えているか分からない。そんな風に振られる、ボクの気持ちが君にわかるかい?」

 別に、自分が振られる理由に思い当たる節がない訳じゃ無いんだ。
 けど、こんな曖昧な言葉で突き放されてしまうと、ボクはしまう。そうなると、別れるのが辛くなるだろう?

「お前の気持ちなんかわかるか、この変人。……だがまあ、その男の方の気持ちならわかってやれるかもな」

「それはどういうことだい? 君は彼らの気持ちを明確に言い当てられると?」

 会ったこともない人間の心がわかるなんて、充はやっぱり凄いな!

「そいつらの気持ちというか、普段のお前を知ってるからな。一緒にいて面倒だ、てのはよーく解る」

「そうなのかい? ──まあ、長い付き合いになる君に言われるならまだいいさ。でもね、会って数日の彼らに言われたことが納得いかないんだ。考えることもせず、ボクの表面だけを見ての言葉だろう? そんなのつまらないよ」

 愚痴のような戯言たわごとこぼすボクの顔を、それでも充はまじまじと観察している。
 ──よしておくれよ充。そんな視線を向けられたら、ボクはゾクゾクしちゃうじゃないか! 
 そうやって今、ボクのことを考えてくれているんだろう?

「まあ上辺だけなら、お前は美人だからな」

 ……それは予想外の言葉だ。
 さっきのボクの心持ちからのその発言、絶望に等しいことだよ。

「……君も、そんな風に思っているのかい?」

「否定はしない。お前が美人なのは誰しもが認めるだろうさ」

 今までの男たちに言われても、不快にしか思わなかったけれど……君に言われると、どうしてこんなにモヤモヤするんだ。

「なら、君がボクと付き合うというのはどうだろう? とてもいい案だと、ボクは思うんだ」

「やなこった。いくら美人でも、お前だけは願い下げだ」

「なんでだい充! このいけずな男め!」

 相変わらずの即答! その真意は分からないけれど、ボクの心は鎮むどころか小躍りしているぞ! 
 やはり君は、ボクのことをよく理解している!

「いけずでもなんでも結構。お前みたいな変人は、友達としてならまだ面白い。だが、恋人にするのは御免被らせてもらう」

「考えてもみるんだ充。変人と恋人という字はよく似ているじゃないか! 君はその意味を考えたことがあるのかい?」

「なにを言いたいのかはさっぱり分からんが、自分を強いて人を乱す変人と心を惹かれ合う恋人。その二つが似ているわけ無いだろ。字面じづらから妄想するのは勝手だが、それを人に押し付けるんじゃない」

 相変わらず意味の分からない発言をするのは、君も同じじゃ無いか!
 これだから進藤 充という男と話していると、とても楽しくなってしまうんだ。

「まったく。これで、君に振られるのは四十九回目になる。そろそろ感慨深いものもあるんじゃないかい?」

「そうだな。面倒この上ないので、男に振られるたびに告るのやめてくれないか?」

「それは遠慮させてもらうよ。ボクに恋というものを教えてくれるのは君だと思っているからね」

 「どの口が言うんだよ」と文句を垂れながら、夕日で赤くなったその顔を逸らす様子は中々、ボクのおもむきに触れるものがあるぞ。
 
「……それで、お前の求めていた答えってのは見つかったのか?」

 ボクが一生をかけて、考え続けると決めた命題。彼にもその話はした事がある。
 しかし! 君は一つ、勘違いをしている!

「充、君はまだボクのことを理解しきれていないようだ。その心によく刻み込むといい!」

 彼の呆れた視線はなんのその、ボクは自分の胸に手を当て、こちらを向く彼の視線に自分の視線を交わらせた。

「ボクは思考の先に答えを急ぐことはしない。〝恋とは何か?〟そのボクの命題は、一生涯を賭けてでも、に意味があるんだ!」

 ボクの座右の銘は〝考えることを決してやめない〟。
 それは、思考放棄はもちろん、答えを急ぐことも論外だ。熟考というのは、大切な過程になるのだ。

「お前の崇高すうこうこころざしを否定する気は無いが、俺からのアドバイスをやろう」

「ほう? 是非ご教示願いたいな」

「〝恋〟なんてものは、相手を想いやる気持ち、相手への好意。他人に対して、それが一極化した時に発生する生理現象だ。それ以上でも以下でもなく、そこに互いに想い、将来を共にすると決める心が生まれた時、〝愛〟になる。たったそれだけのことだ」

 何度もこんな感じで彼に諭されてきた。
 けれどそれと同時に、彼のこの側面だけは、ボクも大嫌いなんだ。

「またそれかい? 充。ボクはその都度言ってきたはずだ──ボクは、考察の上で急いで議論を結論づけてしまうことをすると!」

 「またそれかよ」と悪態をつく彼の姿も見慣れたものだ。……この、沸々と湧き上がる感情にも慣れてきてしまったなぁ。

「物事は全て一つの結論にぶつかる。どれほど思考したところで、その事実は変わらん。大体、お前のその趣向はあまりに生産性の低い、無駄なことなんだよ」

「ボクはそうは思わない。考えることこそ、この世で最も至高なことだと思っているからね」

「だったら、その至高とやらを決めつけている今のお前の発言は、その思想に反するんじゃ無いのか?」

 確かに! 彼の発言には一理ある。これだから、君との会話をやめる訳にはいかないのだ。

「それは正解だよ、充。君のそういうところが、ボクは大好きなんだ!」

 ボクの発言にもう一度目を逸らす。彼のその行動の意図は掴めない。
 好きと言う言葉は良くなかったかな? それとも、発言に不自然なところがあっただろうか。
 あぁ……彼の行動について思案するのは、いつも心躍ってしまうな。

「バカなこと言ってないで、そろそろ帰るぞ。下校時間になる」

 彼の言葉を合図と言いたげに、下校を促す放送が入る。全くもって空気の読めない放送だと、文句も言いたくなるじゃ無いか。

「仕方ない。……けど、毎度こうして口論になると、思う事があるんだ」

「……言ってみろ」

「君のそのボクに対する態度は、お腹を出して触れと言わんばかりの飼い猫に触ってみたら噛まれた時の、あの感情にも近いものを感じるのさ」

 ボクの相談を良しとしているのかどうか、彼の心はふわふわと思考の先にある。

「お前、猫なんか飼ったことないだろうが」

 夕陽に照らされた彼の的確なツッコミは、ボクに考える余地を与えてはくれなかった。
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