恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

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ボクは心配いらないよ

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 凪くんと正式に恋人となり翌日。
 ボクの朝の登校景色は、昨日までとは違って見えてしまっている。

 相変わらず犬の散歩をしている老人。
 その可愛い犬君は、あなたにとってどれほど大切な存在なんだい?

 道行くサラリーマン。
 君はこれから、どれほど大変なお仕事をこなすのかな?

 ボク以外の学生諸君。
 今、恋をしているかい?

 世界が桃色に染まる、というのはこの事を言うのかな。
 ボクは今、とても舞い上がっているみたいだ!

 昨日は空一面に広がる暗い雲だったのに、今日はなんて晴れやかな青空だろう! 
 まるでこの世界が、ボクの心を中心に回っているかのようじゃないか!

「今日も相変わらず、盛んに頭を働かせているね、エリー?」

「やあ、カナメ! 今日もとてもいい天気だね!」

「いい天気……はは。エリーにかかれば、いつでもどんな空でも、いい天気みたいだ」

 いつ見ても、カナメの立ち振る舞いは綺麗なものだな。ボクも乙女として、彼女を見倣みならうべきなんだろうか?

「ねえ、カナメ。君のように綺麗な女性になるには、どうしたらいいんだい?」

「……なにそれ、あたしに対する嫌味ですか?」

「嫌味なんて言うわけないじゃないか。君はいつも綺麗だと思ったら、その秘密を知りたくなったまでさ」

 とても不満顔な彼女だが、首と視線を傾けて唸り出してしまった。
 ……そんな表情をされたら、昨日のカナメの発言を思い出してしまうよ。

「別に、あたしも何か気を付けてるなんてことないからね。常に自分をよく見せようとすれば、自ずとそうなってくるんじゃない?」

 中々どうして曖昧な回答だ。
 けどそれで構わない。彼女の立ち振る舞いを見ながら自分での考察を重ねていくことは、ボクの本望でもあるんだからね。

「ありがとう。とても楽しくなりそうだ」

「そんなこと聞くなんて、昨日の彼はそんなによかったの?」

 あぁそうか。そういえば、教室での恋文は彼女も見ていたんだったね。
 悪戯めいたその表情も、やはり魅力的だな。

「そうだね。今まで付き合ってきた誰よりも、ボクは彼に惹かれているよ」

 カナメは驚いている。まあ、ボク自身も驚いているのだから、仕方もないことさ。

「そっか。よかったじゃん」

 その一言で、彼女は歩き出してしまう。
 雑談が過ぎるのも良くはないね。確かにそろそろ歩いた方が良さそうだ。

「凪 修平くんと言うんだ。君は知っているかい?」

 下駄箱の戸に手をかけたカナメが、その手を止める。この反応は知っているということかな? やはり彼女の情報は侮れない。

「凪くん? 凪くんに告白されたの?」

「やはり知っているんだね? そうだ。ボクの今の恋人は凪くんさ」

 目を泳がせるカナメというのは、中々どうして珍しいな。それほどすごい子だとでもいうのか、凪くんは。

「あはは……上手くいったら玉の輿こしだね、エリー」

   ※         ※         ※

 かなめ曰く、どうやら凪くんはとてもお金持ちの家系らしい。
 その立ち振る舞いも紳士で、女子人気はとても高いと言っていた。

「また厄介なのに目をつけられたな、お前」

「厄介とはどういうことだい? カナメは、誰しも羨む男子だと言っていたよ」

「そりゃ女子からしたら、金持ちってだけで寄り付く奴もいるだろうさ。聞く話じゃ顔も良くて、勉強もできるらしいじゃないか。運動神経も、いろんな運動部から誘われる程度にはあるみたいだしな」

 なんだその完璧人間は。非の打ち所がないじゃないか。
 なぜそんな彼がボクなんかに? ますます興味が尽きないな、凪くん。

「だからこそ、面倒だってんだよ」

「それが分からないよ、充。相手は完璧な男子ということだろう? なにが問題なんだい?」

 ボクの疑問はもっともなはずだ。なのに、何故君はそんな重苦しいため息をボクに見せるの?
 新手のお誘いかな? 残念ながら、今は凪くんという恋人がいるんだ。ごめんよ、充。

「それだけ人気があるってことは、他の女子が黙って無いだろ。それに、大抵そういう奴は何かしら裏があるもんだ」

「確かに、他の女子からの妬みというものがあれば面倒だね。まあ、なるようになるしかないさ。……しかし、何かしら裏があるというのは、どんな根拠があるんだい?」

 充も凪くんのことを知っているのだろうか? あまり、後輩との交流は見たことないけれど……。

「根拠なんかねぇよ。経験と勘だ」

「根拠も無いのに、人を悪くいうのは感心できないな」

 充がこんな風に、言い掛かりみたいなことを言うのは珍しい。
 どこか怒った様子にも見える。やっぱり、凪くんとなにか関係があるのかな? 知り合いだったりするのかな?

「……まあ、お前がいいならいいさ。俺は忠告したからな」

「充、ボクは──」

 ──唐突に鳴り響くチャイムの音によって、ボクの声はかき消されてしまう。
 すぐに先生も入ってきてしまったため、お話はここまでだ。
 ……最後、充の口も動いたように見えたけれど、君は何を言おうとしたんだい?
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