恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

文字の大きさ
26 / 35

ボクはそれどころじゃないんだよ

しおりを挟む
 今日は月曜日。 
 いつもと変わらない登校の時間だ。

 顔を見合わせる人たちは相も変わらず、元気に歩いている。
 一晩経ったというのに、ボクの心はぐちゃぐちゃだ。

「……はあ、昨日は凪くんに悪いことをしてしまったね。自分で自分が情けない」

 沈むボクの心とは反対に、空には太陽輝く晴天が広がっている。君は羨ましいな。

「太陽様は眩しいですか、エリーちゃん」

「やあ、カナメ。とっても眩しいよ。空を見上げれば、ボクの心はその先にまで及ばないんだ」

「そっか。……昨日はごめんね」

 カナメが謝ることはあったかな? 確かに、昨日の二人の関係は気になるけれど、それ以外特に思い当たる節はない。

「進藤がほっとけるか、て勝手に飛び出しちゃってさ……せっかくのデートなのに、邪魔しちゃって」

 別にボクからしたら邪魔とは思わなかったのだけど。

「ううん。充のおかげで、凪くんに寒い思いをさせる事もなかったし、ボクも暖かくデートができたんだ。……充はとても薄着だったけれど、大丈夫だったのかい?」

「あの後すぐ帰ったから大丈夫なんじゃない? 自分で勝手にやった事なんだから、そこは気にしなくていいと思う」

 それならよかった。
 
「それでカナメ?」

「だから、エリーが思うような関係じゃないってば。……昨日はさ、ほら。エリーがちゃんとデートできるかな、て後ろから見守っていただけというか……」

「そっか。それじゃ──」

 待って。それって、デートの間ずっと見られていたということかい? ボクが勇気を出して彼の手を取った時も、羞恥心に呑まれて俯いていた時も、恥ずかしいセリフを放った時も……?

「うわぁ……ボク、二人とまともに顔合わせれそうにないよぅ」

「お、怒ったりしないの?」

 ボクが怒る? なんでだい?

「ボクのことを思ってのことだろう? 怒る道理なんかないじゃないか。恥ずかしいのは間違いないけれどね」

「……ほんと、エリーってなんか、すごいよね」

「それは褒められているのかな」

 すごいってのは、何がすごいんだろう。

「褒めてるに決まってるって。あたしもエリーのこと見習いたいわ」

「カナメがボクから学ぶことなんて何もないよ。ボクはいつも、どうやったら君のようになれるかと考えているんだからね」

「ご謙遜頂きました~」

 相変わらず茶化してくる。カナメはやっぱりカナメだな。
 いつも通りの他愛もない話を続けながら、教室へと向かう。今日も凪くんを見ることはなかったけれど、朝から顔を合わせるのは気まずかったから、これで良かったかもしれない。

 教室につくと、今日も充は先に来ていたみたいだ。

「やあ充。昨日はありがとう。おかげで暖かく過ごせたよ」

「愛理と望月か、おはよう」

 なんだか、今日の充は元気がなさそうだ。昨日借りてしまった上着を出しながら、彼の側まで寄ってみる。

「これ、お返しするよ。……なんか調子悪そうだけど、大丈夫なのかい?」

「ああ、まあ調子が悪いっていうか、気分が良くないというか」

 やっぱり、昨日ボクに上着を渡したりなんかするから、自分が寒くて風邪を引いたんじゃないのかい? だとしたらボクにも責任があるよね。

「風邪は万病のもとだ。薬は飲んだのかい?」

「風邪? ……あー、そういうんじゃない。変な気遣いはやめてくれ。ちょっと嫌なことがあるんだよ、今日は」

 風邪ではない? なら良かった。でも、充がこれほど落ち込むなんて、一体何があるんだろう。

「まあ、気にしないでくれ。多分その内分かると思うし、あんまり口にしたくねぇ」

「君がそういうなら、聞かないでおくよ。ボクらが役に立てることなら、なんでも言っておくれよ?」

 充は頷くなり、また項垂うなだれてしまう。よほどのことなんだな。

「進藤のこの落ち込みよう、普通じゃないわね」

「ボクも気になるけれど、こればかりは様子を見るしかなさそうだ」

 その後は特に何事もなく、いつものように朝のホームルームとなっていく。
 充のことは気になるけれど、そっとする他ないのが辛いところだ。

   ※   ※   ※

 授業は終わり、教室内が賑わう時間。
 充はどこか安堵した様子で帰り支度をしている。

「充、調子の方はどうだい?」

「ああ、今のところ何もなさそうで良かったよ。このまま素直に帰れれば言うことないな」

 なんだか、朝とは違う意味で様子がおかしいけれど、これは安心していい、のかな?

「それは良かったわねー、進藤くん」

「カナメ、なんだかご機嫌だね。どうしたんだい?」

「そう見える?」

 なんだか上機嫌に微笑んでいるように見えるよ。それはそれで、少し怖い気もするんだけど、カナメには何があったんだろう?

「……望月お前、まさか……!」

「さーて、何のことかな?」

「俺は帰る! 今すぐ帰る! じゃあな、愛理!」

 笑うカナメに慌てる充? また、ボクの預かり知らないところで何かが起こっているのかい? なんだか寂しい気分だよ。

 充が帰り支度を終え立ち上がると同時くらいに、教室の入り口に設置された扉から大きな音が聞こえた。何事だい?

「充先輩! お待たせしました、ハルカのお迎えですよ!」

 ボクよりもさらに小さな女の子が、肩まで伸びた髪をなびかせながら、入口の扉で目を輝かせてこちらの方を見ていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...