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砂の章
其ノ一 虫は嫌い
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「熱い!」
「やっと目を覚ましたか、助手くん。熱さで目を覚まさないかと思ったぞ」
二人が目覚めたのは、雲一つない晴天の青空の下、あたり一面にはなにもない広大な砂漠だった。
アリーシャの機械によって気を失い、気づけばこの砂漠。
その上、元々着ていた衣類の全てを失っており、そのあられもない姿で並ぶ二人の姿は、男女問わず目を離せなくなる光景だろう。
「アリーここはどこ? それになんで裸……きゃっ」
フィーネは今の自分の状況を理解したようだ。
いくら砂漠のど真ん中で二人しかいないとはいえ、羞恥心なんてものはそう簡単に拭えるものでもない。
「今更隠すこともないだろう。まあ、この日照りで焦げてしまいそうではあるがな」
広大な砂漠で、水のないこの空間において日光は脅威でしかないはずだ。
ましてや彼女たちは衣類を纏わず、素肌なのだからその暑さは尋常ではないだろう。
日の触れる肌もさることながら、この日差しの下、砂漠の砂は火に炙られる鉄板と大差ないはずだ。
「ここはどこなの? なんで服も着てないの?」
フィーネはアリーシャに詰め寄るが、いかんせんアリーシャにも今の状況は理解できていない。
答える術などないはずのアリーシャはと言えば、むしろ嬉しそうにしている。……どういう感情なのだろうか。
「それだ! ここがどこなのかなど分かるはずもない! 何故ならここは──我々のいた世界とは異なるのだからな!」
アリーシャは元より希薄だった羞恥心は完全になくなり、その興奮からなのか熱ささえも忘れたように、両手を大きく広げて広大な世界を表現する。
「それはつまり──」
「私の考えは正しかった! 自分の意思で世界を渡り歩いたものなど、我々以外にはいないだろう!」
叫びながら大きく笑い声を響かせる全裸の美女の姿というのは、滑稽というべきか秀麗というべきか、悩まされる光景だ。
「そう……それはよかったアリー。でも、なんで裸なの? それにこれから私たちはどうすればいいの……?」
フィーネのその疑問は最もだ。
現状を把握できていない上、この広大な砂漠で次の目的地をどう見つければいいのか。
知識も土地勘もないのであれば、遭難するほかないだろう。
「服を着ていない理由は簡単なことだ。あの時間停止に置いて動いたものはあくまで我々のみなのだから、身につけているものがなくなってもなんら不思議ではない」
現在起こった大概の事象は不可思議極まりないというのに、アリーシャにとっては何一つ不思議ではないという。これが天才という奴なのだろうか?
「そして、これからについてだが──君は目を閉じたほうがいいだろう」
アリーシャはフィーネの後ろを見つめながら、謎の指示を送る。
「だから私は助手じゃ──っ!」
アリーシャの謎の指示を疑問に思い、フィーネが後ろを振り向いたことは誰も攻められはしないだろう。
そして、そこにいる生物に関しては冗談だと思いたくなることも、フィーネに限った話でないことは間違いない。
「だから見るなと言ったのに」
フィーネの振り向いた目先にいたのは、彼女の十数倍はあるであろう巨大な蠕虫だ。
砂と同色の皮膚で覆ってはいるが、幾つもの関節をうねらせているその姿も、別の生命体かのように動く、ひだ状の口も見るだけで悪寒が走る。
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
フィーネがアリーシャの手を引っ張り、その場を走り去る。
次の瞬間には、元々二人のいた場所に大きな砂柱が立っていた。
「おおすごいな。なかなか力もあるようだぞ、あの蚯蚓は」
「あのいもむしがどうとかどうでもいい! とにかく逃げないと食べられちゃうから!」
かなりの動揺をみせるフィーネとは逆に、アリーシャは至って冷静だ。相変わらずの感性のズレ具合なのだろう。
「んー、そうだな砂食虫と名付けよう。砂を美味しそうに食べている」
「どうみても私たちを狙ってるんですけど!」
アリーシャが砂を食べると比喩したのは、フィーネが避けた先々の地面に、蠕虫が毎度毎度食らいついているからだろう。
あながち砂も食事として捉えている可能性は大いにある。
「しかし何故逃げるんだ? 助手くんなら倒せばいいだろう。あれくらいの生物」
「無茶言わないで! できるわけないでしょ!」
どう考えても、常人にあの大きさの生物をどうこうできるはずもなく、しかしアリーシャはなんの疑いも持たずに、フィーネなら倒せると断言する。
「いや本当に不可解だ。君の力はすさまじいと言うのに」
「私は、虫が、大っっっ嫌いなのー!」
広大な砂漠、遥か先まで見渡してもなにも見えない空間に、フィーネの渾身の告白が響き渡る。
なるほど、虫が嫌いならばこんな生物見たくもないだろう。大きさ以前の問題だ。
「仕方ないな。助手くんは目を閉じたまえ」
「前が見えなくなっちゃうよ!」
「動作は私が指示する。君はあの蚯蚓を見ないようにした方がいい」
「アリー……」
フィーネは、アリーシャの言葉が優しさからくるものだと思ったらしい。
アリーシャの言葉に感動し、目を閉じ、そのまま走り続ける。
「目を閉じたよ。アリーどうすればいい?」
「よし、前方に進みながら、振り返りつつ大きく跳び上がれ」
明らかに不自然な指示だというのに、フィーネは疑わずに体をひねりながら跳躍した。
その跳躍力は凄まじく、一瞬で蠕虫の口元周辺まで飛び上がる。
「そして合図に合わせて、回し蹴りを入れるんだ」
「え、なんで蹴るの?」
「身を守るためだ。君なら問題ない」
「わ、わかった!」
アリーシャの不可思議な指示を受け入れ、その時を待つ。
「よし、今だ!」
「はいっ」
蠕虫が空中にいるフィーネに飛び込む瞬間、アリーシャの指示も飛ぶ。
その合図に合わせ、フィーネが空中で足を振り抜くと、ちょうど蠕虫の頭部へと的中し、蠕虫は頭から全ての関節を順々に霧散させていく。
その破片や血液などは、無情にも衣類を身に纏っていない二人の体へも飛び散っていた。
「……ねぇアリー。これは──」
「やったぞ助手くん。流石だな」
フィーネは肌に触れた感触で状況を理解したようだ。
地面に着地する、そのわずかな時間の間に目を開き、正確に現状を理解し、そのまま意識を失った。
……彼女への哀れみは失礼に値するだろうか?
「やっと目を覚ましたか、助手くん。熱さで目を覚まさないかと思ったぞ」
二人が目覚めたのは、雲一つない晴天の青空の下、あたり一面にはなにもない広大な砂漠だった。
アリーシャの機械によって気を失い、気づけばこの砂漠。
その上、元々着ていた衣類の全てを失っており、そのあられもない姿で並ぶ二人の姿は、男女問わず目を離せなくなる光景だろう。
「アリーここはどこ? それになんで裸……きゃっ」
フィーネは今の自分の状況を理解したようだ。
いくら砂漠のど真ん中で二人しかいないとはいえ、羞恥心なんてものはそう簡単に拭えるものでもない。
「今更隠すこともないだろう。まあ、この日照りで焦げてしまいそうではあるがな」
広大な砂漠で、水のないこの空間において日光は脅威でしかないはずだ。
ましてや彼女たちは衣類を纏わず、素肌なのだからその暑さは尋常ではないだろう。
日の触れる肌もさることながら、この日差しの下、砂漠の砂は火に炙られる鉄板と大差ないはずだ。
「ここはどこなの? なんで服も着てないの?」
フィーネはアリーシャに詰め寄るが、いかんせんアリーシャにも今の状況は理解できていない。
答える術などないはずのアリーシャはと言えば、むしろ嬉しそうにしている。……どういう感情なのだろうか。
「それだ! ここがどこなのかなど分かるはずもない! 何故ならここは──我々のいた世界とは異なるのだからな!」
アリーシャは元より希薄だった羞恥心は完全になくなり、その興奮からなのか熱ささえも忘れたように、両手を大きく広げて広大な世界を表現する。
「それはつまり──」
「私の考えは正しかった! 自分の意思で世界を渡り歩いたものなど、我々以外にはいないだろう!」
叫びながら大きく笑い声を響かせる全裸の美女の姿というのは、滑稽というべきか秀麗というべきか、悩まされる光景だ。
「そう……それはよかったアリー。でも、なんで裸なの? それにこれから私たちはどうすればいいの……?」
フィーネのその疑問は最もだ。
現状を把握できていない上、この広大な砂漠で次の目的地をどう見つければいいのか。
知識も土地勘もないのであれば、遭難するほかないだろう。
「服を着ていない理由は簡単なことだ。あの時間停止に置いて動いたものはあくまで我々のみなのだから、身につけているものがなくなってもなんら不思議ではない」
現在起こった大概の事象は不可思議極まりないというのに、アリーシャにとっては何一つ不思議ではないという。これが天才という奴なのだろうか?
「そして、これからについてだが──君は目を閉じたほうがいいだろう」
アリーシャはフィーネの後ろを見つめながら、謎の指示を送る。
「だから私は助手じゃ──っ!」
アリーシャの謎の指示を疑問に思い、フィーネが後ろを振り向いたことは誰も攻められはしないだろう。
そして、そこにいる生物に関しては冗談だと思いたくなることも、フィーネに限った話でないことは間違いない。
「だから見るなと言ったのに」
フィーネの振り向いた目先にいたのは、彼女の十数倍はあるであろう巨大な蠕虫だ。
砂と同色の皮膚で覆ってはいるが、幾つもの関節をうねらせているその姿も、別の生命体かのように動く、ひだ状の口も見るだけで悪寒が走る。
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
フィーネがアリーシャの手を引っ張り、その場を走り去る。
次の瞬間には、元々二人のいた場所に大きな砂柱が立っていた。
「おおすごいな。なかなか力もあるようだぞ、あの蚯蚓は」
「あのいもむしがどうとかどうでもいい! とにかく逃げないと食べられちゃうから!」
かなりの動揺をみせるフィーネとは逆に、アリーシャは至って冷静だ。相変わらずの感性のズレ具合なのだろう。
「んー、そうだな砂食虫と名付けよう。砂を美味しそうに食べている」
「どうみても私たちを狙ってるんですけど!」
アリーシャが砂を食べると比喩したのは、フィーネが避けた先々の地面に、蠕虫が毎度毎度食らいついているからだろう。
あながち砂も食事として捉えている可能性は大いにある。
「しかし何故逃げるんだ? 助手くんなら倒せばいいだろう。あれくらいの生物」
「無茶言わないで! できるわけないでしょ!」
どう考えても、常人にあの大きさの生物をどうこうできるはずもなく、しかしアリーシャはなんの疑いも持たずに、フィーネなら倒せると断言する。
「いや本当に不可解だ。君の力はすさまじいと言うのに」
「私は、虫が、大っっっ嫌いなのー!」
広大な砂漠、遥か先まで見渡してもなにも見えない空間に、フィーネの渾身の告白が響き渡る。
なるほど、虫が嫌いならばこんな生物見たくもないだろう。大きさ以前の問題だ。
「仕方ないな。助手くんは目を閉じたまえ」
「前が見えなくなっちゃうよ!」
「動作は私が指示する。君はあの蚯蚓を見ないようにした方がいい」
「アリー……」
フィーネは、アリーシャの言葉が優しさからくるものだと思ったらしい。
アリーシャの言葉に感動し、目を閉じ、そのまま走り続ける。
「目を閉じたよ。アリーどうすればいい?」
「よし、前方に進みながら、振り返りつつ大きく跳び上がれ」
明らかに不自然な指示だというのに、フィーネは疑わずに体をひねりながら跳躍した。
その跳躍力は凄まじく、一瞬で蠕虫の口元周辺まで飛び上がる。
「そして合図に合わせて、回し蹴りを入れるんだ」
「え、なんで蹴るの?」
「身を守るためだ。君なら問題ない」
「わ、わかった!」
アリーシャの不可思議な指示を受け入れ、その時を待つ。
「よし、今だ!」
「はいっ」
蠕虫が空中にいるフィーネに飛び込む瞬間、アリーシャの指示も飛ぶ。
その合図に合わせ、フィーネが空中で足を振り抜くと、ちょうど蠕虫の頭部へと的中し、蠕虫は頭から全ての関節を順々に霧散させていく。
その破片や血液などは、無情にも衣類を身に纏っていない二人の体へも飛び散っていた。
「……ねぇアリー。これは──」
「やったぞ助手くん。流石だな」
フィーネは肌に触れた感触で状況を理解したようだ。
地面に着地する、そのわずかな時間の間に目を開き、正確に現状を理解し、そのまま意識を失った。
……彼女への哀れみは失礼に値するだろうか?
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