時空を超えて──往く往く世界に彼女は何を望むのか

夜兎

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砂の章

其ノ四 危険な存在

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 アリーシャの案内で、二人は一つの石造りの家の前に着いていた。
 曰く、集落の程度がわかれば、長がいる場所はおおよそ見当がつくらしい。

「おそらくここにいるだろうな。まあ、さっきの男がいるかは知らないが」
「さっきの人が村長とかじゃないの?」
「どうみても若すぎるだろう。まあ、普通に考えればその息子といったところか」

 尋ねた割にアリーシャの解説も、フィーネはさほど聞いてはいない様子だ。すでに、家の戸に手をかけている。

「手柔らかにしてやれよ、助手くん」
「知らない」

 フィーネはそのまま手を押し、見知らぬ家の中へと踏み込んでいく。
 後ろについていくアリーシャも、やれやれと言わんばかりに肩をすくめ、小さく微笑む。

「誰だ?」
「──おまえら、なんで」

 家の中には、アリーシャに村長の息子と評価された男と、彼に似た顔立ちだが高齢で白髪の男が並んで立っていた。
 アリーシャの考えで言うのであれば、この男が村長とやらなのだろう。

「あなた達が今困っている事を話して。私たちはあなた達の力になりたい!」

 フィーネの言葉を聞いた村長らしき男がまっすぐと二人を見つめている。

「……この者たちは?」
「ああ、行き倒れていた放浪者だ。牢に入れておいたはずなんだが……」

 先ほどの男が二人に詰め寄ろうとするのを、村長らしき男が静止する。

「して、その放浪者の方々が、どうやってあの牢を抜け出し、どうして我々に手を貸そうと?」

 フィーネが少し力を込めて、一歩踏み込んだ。彼女の足の置かれた地面に軽くひびが入る。

「この通り、私は力自慢なもので、あの程度の鉄格子はあまり意味はないの」

 フィーネの予想外な行動、発言に男たちは言葉を失っているようだ。

「助手くん、一応人様の家なんだが……」
「知らない」

 アリーシャが珍しく常識的な事を言ったと思ったら、フィーネが非常識になっていた。
 自分の発言が一蹴されたというのに、アリーシャは軽く笑って見せる。

「手伝う理由は、オネちゃんだよ」
「なぜオネのことを知っている!」

 オネの名前がでた瞬間に、若い男が怒りをあらわにする。おそらく彼の娘なのであれば、至極真っ当な反応だ。

「さっきお話ししたから。ここに危険の火種があるっていうなら、それをどうにかしないとオネちゃんも助からないんじゃないの?」
「…………っ」

 男はその発言を理解しているのか、自分の怒りを抑え、フィーネを睨み続ける。

「今見せた通り、私には力がある。アリーは天才だから、あなたたちが思いもよらないことができる」

 男たちはお互いの顔を見合わせ、高齢の男が頷き、もう一人が首を振る。
 意思疎通はできるが、意見が合っていないのだろう。そう簡単に決めていいことでもないのは間違いない。

「あー……すまない。おそらくの予想は付いているんだ。そちらが話す気がないのであれば確認しようか」
「なに?」

 アリーシャの予想外の発言に二人が反応する。どこでそんな情報を手に入れたのか不思議で仕方がない。

「牢とやらからここまで歩いてきたのだが、その途中で少し高いところを歩いたときだ」

 アリーシャはフィーネの肩に手を置いた。

「彼女は怒りで見ていなかっただろうが、遠く見える場所に大きな砂煙が見えた。そこには大きく、長い影が映っていたんだ」

 アリーシャはもう一度、二人に視線を戻し説明を続ける。

「その影が動いていたことを考えると、生物なんだろうな。そう考えると、あの影から推測できる生物は限られる。私の見解では蛇の類だと思うのだが、どうだろう。あれが原因なのではないだろうか?」

 男二人は、アリーシャの説明を聞き、顔を見合わせるとため息をついた。

「はぁ……その女の言う通りだ。人喰じんばみと我々は呼んでいる」

 隠せないと踏んだのか、若い方の男も諦めて口を開く。

「人喰か。なかなかいい名じゃないか。その人喰とやらは、人でも食らっていくのか?」

 アリーシャが楽しそうに笑みを浮かべる。この状況で、その発言からの笑みは恐怖を感じざるを得ないだろう。

「実際にそうしているところを見たことがあるわけじゃない。が、人喰は時折ここのそばを通り過ぎるんだ」
「なるほど」

 アリーシャはその言葉を聞くと、一人納得して少し考える。

「あの砂煙、あるいはあれがその蛇の仕業とすれば納得だ。もしあいつがこの集落に訪れれば、集落は煙に覆われる。そんな時に人が居なくなったともすればまあ、餌食となったと考えるのが普通だろうな」
「……く」

 アリーシャは容赦なく二人の傷を抉る。

「だから早く対処をしなければならない! お前らに構ってる時間なんてないんだ!」

 若い方の男が叫ぶと、また高齢の男が静止する。この二人はいつもこうなのだろうか。

「まあ落ち着け。彼女たちが力をもっていることは間違いない。故に危険でもあるのだが……」
「ふふ。間違いないな」

 高齢の男とアリーシャが、怒りを隠しきれないフィーネの顔を見つめる。

「私はあなたたちに暴力なんて振るわない。ただ助けたいだけ」
「信用のない関係で、口約束など──」
「信用なんて必要?」

 フィーネは男たちが全く反応もできない速さで、高齢の男に近づき、首に手を添えている。

「おい! なにをしている!」
「私がその気になればあなた達をすぐにでも、どうにだってできる。そうしないことが、あなたたちを傷つけない証明になると思うんだけど?」

 男たちは、蛇に睨まれた蛙のように体を硬直させた。

「はははっ。まさに体現だな、助手くん」

 アリーシャが手を打ちながら、大きく笑い、二人に視線を向ける。

「今君らはあの大きな蛇よりも、はるかに小さな蛇に睨まれている。それだけで動けもしないんだ。あの大きな蛇をどうするつもりだ?」

 アリーシャの発言にフィーネが嫌そうにして抗議する。

「私は蛇じゃない」
「ああもちろんさ。君はどちらかといえば牙を剥く猫だからね」

 アリーシャの発言にあまりすっきりしない表情でフィーネが首を傾げる。

「お姉さん?」

 一同が静まり返った頃合いで、少し前に聞いた、幼い声が家の入り口から聞こえてきた。
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