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魔の章 第六節
其ノ十 新たな世界へ
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「ごめんなさい」
もう一度、イリスとルカの家に案内され、しばらくするとイリスも目を覚ましていた。
それが、目覚めたイリスの開口一番の言葉だった。
「気にしないで。……アリーに問題があったのは間違い無いから」
「……すまなかった。私はそういう感情に疎くてな……気づかなかったんだ」
二人の家に帰って、イリスが目覚めるまでにフィーネは二人を注意していた。
元々の元凶はこの二人だったのだから、理解してもらわないと、同じことを繰り返しかねない。
「二人は悪くない。悪いのは私。……あなたを傷つけた」
「この程度大したこと──」
「悪いが、それだけは許さない」
イリスの言葉に、フィーネは気にした風ではないが、アリーシャが怒りを見せる。
そんなアリーシャに対し、フィーネが何で? と言いたげに視線を向けた。
「……本当にごめんなさい」
「助手くんは私の大切な存在だ。私が原因の一端であれ、彼女を傷つけたことは許し難いことだ」
アリーシャの言葉に、フィーネは嬉しそうにはするが、やはり元の原因がアリーシャにあったことを考えると、複雑な気分なのだろう。考えるように俯いている。
「……フィーネ、ごめんなさい。あまり得意ではないけど、あなたが良ければ治させてほしい」
「治す……?」
イリスの発言に、フィーネとアリーシャが顔を見合わせ、フィーネの足の焦げ具合を確認する。
足は黒く焦げ付き、原形はわずかに残っているとはいえ、やはり人間の足としての外観は残っていない。このままではむしろ、他の健全な部位まで危険にさらしてしまう可能性すらある。
こんな傷でも治せる可能性があるのだろうか?
「もし治るのなら、嬉しいけど……」
イリスを疑っているわけではないが、あまりに信じがたい事柄なだけに、少々警戒してしまうのだろう。
「本当に治せるのか?」
「私は治癒魔法はそれほど得意ではない。けど、少しは使えるから……多分」
フィーネは少し考え、イリスの顔を見る。
無表情なその表情のなかにも、申し訳なさと不安な気持ちを読み取れるほどには、彼女のことを心配しているのだろう。
フィーネは小さく笑みを浮かべ、イリスの綺麗な紺碧の瞳をまっすぐと見つめながら、頷いた。
「少し、待ってて」
イリスは、フィーネの焼け焦げた右足を両手で持ち上げ、小さなその掌でできる限りを覆った。
少しすると、イリスの掌から、フィーネの足まで全てを覆うように、緑色の淡い光が輝き始める。
「なんか温かい……これも魔法?」
「そう。治癒魔法は、身体の本来の治癒能力を活性して怪我を治す魔法。フィーネほどの身体なら多分効果ある」
光に覆われた足を見つめるフィーネの表情は、わずかに紅潮し惚けている。
それからしばらく静寂が続き、足を覆っていた光が徐々に薄れていく。光を失い姿を見せたフィーネの足は、元の綺麗な肌色で、しっかりと彼女の足が戻ってきていた。
「終わり。……本当にすごい身体。ほとんど完治したみたい。──ごめんなさい」
イリスの謝罪を聞きながら、フィーネは治ったばかりの足先をいくらか動かしてみた。
動きを見る限り、本当に傷は治り、神経なども再生しているようだ。
「すごい……本当に治ってる。魔法ってなんでもできるんだね」
「確かに魔法は万能。でもなんでもできるわけじゃない。完治したのもフィーネの力」
「私は何も……」
イリスは少し考えるように俯き、フィーネの足を見つめている。
「あなたたちは何者?」
イリスが顔をあげ、どこか申し訳なさそうにフィーネに尋ねる。
「何者と言われても……自分では普通の人間のつもりなんですけど……?」
明らかにフィーネは普通の人間ではないが、彼女にとってはそうでありたいのだろう。万が一、自分が人間ではないと言われたとして、納得のできようもない。
「……そう。でも治ってよかった。本当にごめんなさい」
「もう謝らないで……」
何度も聞いた謝罪の言葉に、むしろフィーネが罪悪感を感じているようだ。今すぐにでも彼女のほうが謝罪しそうな雰囲気を見せる。
「そういえば、聞こうか悩んでたけど……二人が仲がいいことは聞いたけど、二人はその……夫婦、なのかな?」
フィーネの問いに、イリス、ルカ共に首を傾げる。
「夫婦? 私とルカ?」
「はい」
イリスは少し考え、ルカのことをまっすぐと見つめる。
「夫婦なのかはわからない。けど、私はルカのことが好き」
「……俺もイリスのことは大事に思ってる。変な誤解があったことは悪かった」
二人のその言葉に濁りはなく、心の底からの気持ちなんだろう。恥ずかしそうにはしているが、言葉以上に二人は深い関係にあるように感じる。
「……なんかもやもやしますぅ」
ずっと大人しくしていたリリーが、その場の空気に耐えれずおどけてくる。彼女のその性格は、こういう時はむしろ空気を和ませる力があるようだ。
「……助手くんの足が治ったのであれば、私からいうことは何もない。イリス君には本当に申し訳なかった。安心してくれ、私は助手くん一筋だ」
アリーシャの発言は明らかに問題発言だろう。フィーネもアリーシャを遠い目でみている。
「やっぱり二人は恋び──」
「違います」
イリスの発言にフィーネが食って掛かり、その顔を赤く染める。この二人は本当の恋人のようだとしか言いようがない。
「では、いい具合に時間も経ったし、旅立つとするか、助手くん」
「え、もういくの?」
アリーシャが唐突に話を持ち出す。ほかの四人が驚嘆するのは致し方ないことだろう。
「これ以上いると君の心が離れなくなりそうだ。今ぐらいがちょうどいい」
フィーネは不思議そうにアリーシャを見つめているが、首を振ってアリーシャに返答する。
「よくわからないけど……わかった」
フィーネは先ほどまで焦げていた右足を使い、立ち上がる。なるほどその右足には一切の違和感を感じられなかった。
「もういくの? 残念」
二人は、イリスたちに挨拶をして、家の玄関まで一緒に歩いていく。
「それじゃ、さようならイリスさん、ルカさん、リリーさん」
「うん。会えてよかった。二人とも元気で」
イリスは優しく微笑み、二人を見送る。いつもの無表情が故に、その笑顔の美しさはフィーネたちを魅了するのに十分なものだろう。これほどの少女相手であれば、ルカが浮気などする余地もない。
「フィーさんありがとうございましたぁ。とっても楽しかったですよ! また会いたいですー」
「また会える日があれば、よろしく」
リリーは終始この雰囲気だった。彼女は素でこの性格なのだろうか。彼女の他の姿など予想もできない。
「ルカ。〝門〟の説明助かった。感謝している。君のおかげでこの先のことが理解できた」
「俺は何もしてないけどな。なんかの助けになったならよかった。元気でな、アリーシャ、フィーネ」
さすがに、二人が会話してもイリスは怒ったりはしないが、それでもまだ若干わだかまりを感じているようだ。二人のやり取りを、不安そうに眺めていた。
「それでは、また会うことがあればその日まで、さようなら」
アリーシャの言葉で二人は彼らの家を後にする。三人に見送られながら見えなくなるまで、歩き続けた。
「さて、もういいだろう。ではまた腕輪をはめてくれ」
「はいはい」
『ごめんよ。一つ言い忘れていたことがあったんだ』
フィーネがいつもの黒い腕輪をすると、二人の頭の中に声が響いた。
「ガト……?」
どうやらガトが追いかけてきたようだ。
『僕の最初の名前はマオ。主人の名前はメシア。これも教えておいてくれと言われていたんだ。よろしくね、そしてさようなら』
「ありがと、さようなら」
「了解した、感謝する」
ガトとの挨拶を終え、そのまま見送られながらアリーシャが釦を押した。
周囲に静寂が訪れ、彼女たちの新しい旅路への空間を創り出す。
「またこれ……嫌だなぁ」
フィーネがため息をつきながら文句を言うと、そのまま意識を失った。
もう一度、イリスとルカの家に案内され、しばらくするとイリスも目を覚ましていた。
それが、目覚めたイリスの開口一番の言葉だった。
「気にしないで。……アリーに問題があったのは間違い無いから」
「……すまなかった。私はそういう感情に疎くてな……気づかなかったんだ」
二人の家に帰って、イリスが目覚めるまでにフィーネは二人を注意していた。
元々の元凶はこの二人だったのだから、理解してもらわないと、同じことを繰り返しかねない。
「二人は悪くない。悪いのは私。……あなたを傷つけた」
「この程度大したこと──」
「悪いが、それだけは許さない」
イリスの言葉に、フィーネは気にした風ではないが、アリーシャが怒りを見せる。
そんなアリーシャに対し、フィーネが何で? と言いたげに視線を向けた。
「……本当にごめんなさい」
「助手くんは私の大切な存在だ。私が原因の一端であれ、彼女を傷つけたことは許し難いことだ」
アリーシャの言葉に、フィーネは嬉しそうにはするが、やはり元の原因がアリーシャにあったことを考えると、複雑な気分なのだろう。考えるように俯いている。
「……フィーネ、ごめんなさい。あまり得意ではないけど、あなたが良ければ治させてほしい」
「治す……?」
イリスの発言に、フィーネとアリーシャが顔を見合わせ、フィーネの足の焦げ具合を確認する。
足は黒く焦げ付き、原形はわずかに残っているとはいえ、やはり人間の足としての外観は残っていない。このままではむしろ、他の健全な部位まで危険にさらしてしまう可能性すらある。
こんな傷でも治せる可能性があるのだろうか?
「もし治るのなら、嬉しいけど……」
イリスを疑っているわけではないが、あまりに信じがたい事柄なだけに、少々警戒してしまうのだろう。
「本当に治せるのか?」
「私は治癒魔法はそれほど得意ではない。けど、少しは使えるから……多分」
フィーネは少し考え、イリスの顔を見る。
無表情なその表情のなかにも、申し訳なさと不安な気持ちを読み取れるほどには、彼女のことを心配しているのだろう。
フィーネは小さく笑みを浮かべ、イリスの綺麗な紺碧の瞳をまっすぐと見つめながら、頷いた。
「少し、待ってて」
イリスは、フィーネの焼け焦げた右足を両手で持ち上げ、小さなその掌でできる限りを覆った。
少しすると、イリスの掌から、フィーネの足まで全てを覆うように、緑色の淡い光が輝き始める。
「なんか温かい……これも魔法?」
「そう。治癒魔法は、身体の本来の治癒能力を活性して怪我を治す魔法。フィーネほどの身体なら多分効果ある」
光に覆われた足を見つめるフィーネの表情は、わずかに紅潮し惚けている。
それからしばらく静寂が続き、足を覆っていた光が徐々に薄れていく。光を失い姿を見せたフィーネの足は、元の綺麗な肌色で、しっかりと彼女の足が戻ってきていた。
「終わり。……本当にすごい身体。ほとんど完治したみたい。──ごめんなさい」
イリスの謝罪を聞きながら、フィーネは治ったばかりの足先をいくらか動かしてみた。
動きを見る限り、本当に傷は治り、神経なども再生しているようだ。
「すごい……本当に治ってる。魔法ってなんでもできるんだね」
「確かに魔法は万能。でもなんでもできるわけじゃない。完治したのもフィーネの力」
「私は何も……」
イリスは少し考えるように俯き、フィーネの足を見つめている。
「あなたたちは何者?」
イリスが顔をあげ、どこか申し訳なさそうにフィーネに尋ねる。
「何者と言われても……自分では普通の人間のつもりなんですけど……?」
明らかにフィーネは普通の人間ではないが、彼女にとってはそうでありたいのだろう。万が一、自分が人間ではないと言われたとして、納得のできようもない。
「……そう。でも治ってよかった。本当にごめんなさい」
「もう謝らないで……」
何度も聞いた謝罪の言葉に、むしろフィーネが罪悪感を感じているようだ。今すぐにでも彼女のほうが謝罪しそうな雰囲気を見せる。
「そういえば、聞こうか悩んでたけど……二人が仲がいいことは聞いたけど、二人はその……夫婦、なのかな?」
フィーネの問いに、イリス、ルカ共に首を傾げる。
「夫婦? 私とルカ?」
「はい」
イリスは少し考え、ルカのことをまっすぐと見つめる。
「夫婦なのかはわからない。けど、私はルカのことが好き」
「……俺もイリスのことは大事に思ってる。変な誤解があったことは悪かった」
二人のその言葉に濁りはなく、心の底からの気持ちなんだろう。恥ずかしそうにはしているが、言葉以上に二人は深い関係にあるように感じる。
「……なんかもやもやしますぅ」
ずっと大人しくしていたリリーが、その場の空気に耐えれずおどけてくる。彼女のその性格は、こういう時はむしろ空気を和ませる力があるようだ。
「……助手くんの足が治ったのであれば、私からいうことは何もない。イリス君には本当に申し訳なかった。安心してくれ、私は助手くん一筋だ」
アリーシャの発言は明らかに問題発言だろう。フィーネもアリーシャを遠い目でみている。
「やっぱり二人は恋び──」
「違います」
イリスの発言にフィーネが食って掛かり、その顔を赤く染める。この二人は本当の恋人のようだとしか言いようがない。
「では、いい具合に時間も経ったし、旅立つとするか、助手くん」
「え、もういくの?」
アリーシャが唐突に話を持ち出す。ほかの四人が驚嘆するのは致し方ないことだろう。
「これ以上いると君の心が離れなくなりそうだ。今ぐらいがちょうどいい」
フィーネは不思議そうにアリーシャを見つめているが、首を振ってアリーシャに返答する。
「よくわからないけど……わかった」
フィーネは先ほどまで焦げていた右足を使い、立ち上がる。なるほどその右足には一切の違和感を感じられなかった。
「もういくの? 残念」
二人は、イリスたちに挨拶をして、家の玄関まで一緒に歩いていく。
「それじゃ、さようならイリスさん、ルカさん、リリーさん」
「うん。会えてよかった。二人とも元気で」
イリスは優しく微笑み、二人を見送る。いつもの無表情が故に、その笑顔の美しさはフィーネたちを魅了するのに十分なものだろう。これほどの少女相手であれば、ルカが浮気などする余地もない。
「フィーさんありがとうございましたぁ。とっても楽しかったですよ! また会いたいですー」
「また会える日があれば、よろしく」
リリーは終始この雰囲気だった。彼女は素でこの性格なのだろうか。彼女の他の姿など予想もできない。
「ルカ。〝門〟の説明助かった。感謝している。君のおかげでこの先のことが理解できた」
「俺は何もしてないけどな。なんかの助けになったならよかった。元気でな、アリーシャ、フィーネ」
さすがに、二人が会話してもイリスは怒ったりはしないが、それでもまだ若干わだかまりを感じているようだ。二人のやり取りを、不安そうに眺めていた。
「それでは、また会うことがあればその日まで、さようなら」
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「はいはい」
『ごめんよ。一つ言い忘れていたことがあったんだ』
フィーネがいつもの黒い腕輪をすると、二人の頭の中に声が響いた。
「ガト……?」
どうやらガトが追いかけてきたようだ。
『僕の最初の名前はマオ。主人の名前はメシア。これも教えておいてくれと言われていたんだ。よろしくね、そしてさようなら』
「ありがと、さようなら」
「了解した、感謝する」
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