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魔の章 第一節 二ノ段
其ノ四 容態
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「ごめんなさいアリー。逃げられた……」
メシアの家の扉を開けながら、落ち込むフィーネがため息をつきながら入ってくる。
「……そうか、残念だ助手くん。君なら捕らえられると思ったが、相手が賢しい猫であれば仕方ない」
先ほどと同じ席に座り、まるで予想通りと言いたげに話すアリーシャの言葉に、フィーネはさらに落ち込み、彼女の前の椅子に腰を下ろす。
「……そういえば、メシアさんは?」
「…………ああ」
自分の問いへのアリーシャの反応を不審に思い、フィーネが彼女の顔を覗き込む。
「どうしたの? 彼女に何かあったの?」
「……君にはもう少し隠すべきだとは思ったのだが……仕方ないな」
アリーシャが辛そうにする、というのは見慣れない光景だろう。彼女のそんな様子に、フィーネも不安を隠せないでいる。
「なに……?」
「……彼女は奥の部屋で寝ている。会ってきてやるといい」
アリーシャの力ない声に焦るように立ち上がり、アリーシャの示す奥の部屋へと小走りで向かう。
フィーネが部屋の扉を開くと、部屋の中は暗く、様子を窺うことができない。
構わずフィーネが部屋の中に足を踏み入れると、室内は唐突に明るくなり、彼女の視界を一瞬阻害する。
「まぶし──」
彼女は唐突な光に目を閉じながらも、薄目で見た光景に言葉と息を詰まらせた。
「メシアさん!」
アリーシャの言う通り、そこにはメシアの横たわる姿があったのだが、その様子はただ寝ているだけとは言い難い。
瞼を強く閉じ、痛みに耐えるかのように歯を食いしばるその口。
絶え間なく流れ続ける汗は、着ている服の色を変えていく。どれをとってもただの風邪で倒れた人間のそれではない。
フィーネが部屋に入ってきたことすら気付いていない様子だ。
そんな彼女にフィーネは小走りで近づき、手で額の汗を拭うが、拭った先から新しい汗が吹き出てくる。
そのままフィーネが掌で首筋に触れる。
「あつっ……!」
予想外の熱さに思わず手を引っ込め、今の状況を理解した彼女の顔が青ざめる。
「……アリー!」
「すまない……彼女の症状がただの風邪なのか疑問に思って戻ってきてみれば、案の定そこの床に倒れ込んでいたんだ」
そう言いながら、アリーシャが居間の床を指差す。
「とりあえずできうる限りの対処はしたが、いかんせん私は人間には詳しくなくてな。大した処置もできず、申し訳なく思っている……」
アリーシャの落ち込む姿に、フィーネが口を噤む。二人が考え込み、沈黙するとメシアの苦しむ音が鮮明に聞こえた。
「……アリー、とりあえず汗を拭いてあげよう。あと着替えも」
「そうだな。布と着替えを探してくる。君は彼女のことを見ていてやってくれ」
「わかった」
アリーシャはそう言ってその場を立ち去り、部屋にはフィーネとメシアの二人だけ。
フィーネも、メシアの苦しむ姿を見るといたたまれない気持ちになり、あたりを見渡しはするが、何をすればいいのか、何ができるのか分からずに右往左往して、またその場に落ち着く。
「……メシアさん、どうすればいいの? 私はこういう時にどうすればいいのか全然分からないんだ……」
苦しむメシアからは当然返事はなく、フィーネもどうすればいいのか分からずに、ただ彼女の手を握っていることしかできなかった。
それでも、フィーネが手を握った瞬間から、わずかに彼女の表情も落ち着いたように見える。
フィーネが強く手を握り、その手に額を当て無事を祈る。
「……いたい、よ、フィーネ……」
「メシアさん!」
メシアの目は少しだけ開かれており、意識もわずかにある。それでも快復に向かっているのは良いことだろう。
「心配かけて、ごめんねフィーネ。……私もまさか、こんなことになるなんて、おもわなかったから、ね?」
「……やっぱり、風邪じゃなかったんだね?」
「…………」
フィーネの言葉にメシアが口を噤む。しかし、フィーネの強い眼差しに負け、口を開いた。
「そう、だね。風邪じゃ、ない。……けど、私にも、分からない病気」
弱々しく話すメシアに、フィーネがその大きな瞳を潤ませる。そんなフィーネの様子を、瞼をしっかりと持ち上げる力もないメシアが、薄目に見ると笑顔を見せる。
「大、じょーぶ……このくらいなら、たまにあったから、まだ、ね」
「メシアさん喋っちゃダメ。ゆっくり、安静に、だよ。アリーならなんとか……」
そこまで言って、アリーシャの先程の言葉を思い出したのだろう。
人間に関してはあまり詳しくない。博識な彼女が人間について知らない、というのは不思議なことだが、あるいは生物学が得意ではないのかもしれない。
「ありがと。……でも、もしこのまま、本当に……死んじゃうなら……」
「死なないよ! 絶対助かるから!」
「……ふふ。もう一度だけ、エリックに会いたかった、かな。……でも、マオとお兄ちゃんに会えるなら……それもいい、かも」
息を荒くする彼女の体には、一切の力を感じられない。フィーネの目から涙が零れ、頬を伝う。
力ないはずのメシアの腕が彼女の涙を拭った。
「だめ。……女の子は、笑顔が一番、ね? あなたに、涙は似合わない……」
「……うん」
フィーネは手で涙を拭い、できうる限りの笑顔を見せる。当然ぎこちないその笑顔に、メシアが満足したように微笑み返した。
「うん、かわいい。……二人は、仲良く、…………」
フィーネの涙を拭う、彼女の腕が床に力なく落下する。
フィーネはその手を力強く握ると、その掌に大粒の涙が落ちた。
「メシア、さん……?」
彼女の問いに答える声はなかった。
メシアの家の扉を開けながら、落ち込むフィーネがため息をつきながら入ってくる。
「……そうか、残念だ助手くん。君なら捕らえられると思ったが、相手が賢しい猫であれば仕方ない」
先ほどと同じ席に座り、まるで予想通りと言いたげに話すアリーシャの言葉に、フィーネはさらに落ち込み、彼女の前の椅子に腰を下ろす。
「……そういえば、メシアさんは?」
「…………ああ」
自分の問いへのアリーシャの反応を不審に思い、フィーネが彼女の顔を覗き込む。
「どうしたの? 彼女に何かあったの?」
「……君にはもう少し隠すべきだとは思ったのだが……仕方ないな」
アリーシャが辛そうにする、というのは見慣れない光景だろう。彼女のそんな様子に、フィーネも不安を隠せないでいる。
「なに……?」
「……彼女は奥の部屋で寝ている。会ってきてやるといい」
アリーシャの力ない声に焦るように立ち上がり、アリーシャの示す奥の部屋へと小走りで向かう。
フィーネが部屋の扉を開くと、部屋の中は暗く、様子を窺うことができない。
構わずフィーネが部屋の中に足を踏み入れると、室内は唐突に明るくなり、彼女の視界を一瞬阻害する。
「まぶし──」
彼女は唐突な光に目を閉じながらも、薄目で見た光景に言葉と息を詰まらせた。
「メシアさん!」
アリーシャの言う通り、そこにはメシアの横たわる姿があったのだが、その様子はただ寝ているだけとは言い難い。
瞼を強く閉じ、痛みに耐えるかのように歯を食いしばるその口。
絶え間なく流れ続ける汗は、着ている服の色を変えていく。どれをとってもただの風邪で倒れた人間のそれではない。
フィーネが部屋に入ってきたことすら気付いていない様子だ。
そんな彼女にフィーネは小走りで近づき、手で額の汗を拭うが、拭った先から新しい汗が吹き出てくる。
そのままフィーネが掌で首筋に触れる。
「あつっ……!」
予想外の熱さに思わず手を引っ込め、今の状況を理解した彼女の顔が青ざめる。
「……アリー!」
「すまない……彼女の症状がただの風邪なのか疑問に思って戻ってきてみれば、案の定そこの床に倒れ込んでいたんだ」
そう言いながら、アリーシャが居間の床を指差す。
「とりあえずできうる限りの対処はしたが、いかんせん私は人間には詳しくなくてな。大した処置もできず、申し訳なく思っている……」
アリーシャの落ち込む姿に、フィーネが口を噤む。二人が考え込み、沈黙するとメシアの苦しむ音が鮮明に聞こえた。
「……アリー、とりあえず汗を拭いてあげよう。あと着替えも」
「そうだな。布と着替えを探してくる。君は彼女のことを見ていてやってくれ」
「わかった」
アリーシャはそう言ってその場を立ち去り、部屋にはフィーネとメシアの二人だけ。
フィーネも、メシアの苦しむ姿を見るといたたまれない気持ちになり、あたりを見渡しはするが、何をすればいいのか、何ができるのか分からずに右往左往して、またその場に落ち着く。
「……メシアさん、どうすればいいの? 私はこういう時にどうすればいいのか全然分からないんだ……」
苦しむメシアからは当然返事はなく、フィーネもどうすればいいのか分からずに、ただ彼女の手を握っていることしかできなかった。
それでも、フィーネが手を握った瞬間から、わずかに彼女の表情も落ち着いたように見える。
フィーネが強く手を握り、その手に額を当て無事を祈る。
「……いたい、よ、フィーネ……」
「メシアさん!」
メシアの目は少しだけ開かれており、意識もわずかにある。それでも快復に向かっているのは良いことだろう。
「心配かけて、ごめんねフィーネ。……私もまさか、こんなことになるなんて、おもわなかったから、ね?」
「……やっぱり、風邪じゃなかったんだね?」
「…………」
フィーネの言葉にメシアが口を噤む。しかし、フィーネの強い眼差しに負け、口を開いた。
「そう、だね。風邪じゃ、ない。……けど、私にも、分からない病気」
弱々しく話すメシアに、フィーネがその大きな瞳を潤ませる。そんなフィーネの様子を、瞼をしっかりと持ち上げる力もないメシアが、薄目に見ると笑顔を見せる。
「大、じょーぶ……このくらいなら、たまにあったから、まだ、ね」
「メシアさん喋っちゃダメ。ゆっくり、安静に、だよ。アリーならなんとか……」
そこまで言って、アリーシャの先程の言葉を思い出したのだろう。
人間に関してはあまり詳しくない。博識な彼女が人間について知らない、というのは不思議なことだが、あるいは生物学が得意ではないのかもしれない。
「ありがと。……でも、もしこのまま、本当に……死んじゃうなら……」
「死なないよ! 絶対助かるから!」
「……ふふ。もう一度だけ、エリックに会いたかった、かな。……でも、マオとお兄ちゃんに会えるなら……それもいい、かも」
息を荒くする彼女の体には、一切の力を感じられない。フィーネの目から涙が零れ、頬を伝う。
力ないはずのメシアの腕が彼女の涙を拭った。
「だめ。……女の子は、笑顔が一番、ね? あなたに、涙は似合わない……」
「……うん」
フィーネは手で涙を拭い、できうる限りの笑顔を見せる。当然ぎこちないその笑顔に、メシアが満足したように微笑み返した。
「うん、かわいい。……二人は、仲良く、…………」
フィーネの涙を拭う、彼女の腕が床に力なく落下する。
フィーネはその手を力強く握ると、その掌に大粒の涙が落ちた。
「メシア、さん……?」
彼女の問いに答える声はなかった。
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