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魔の章 第一節 二ノ段
其ノ十二 約束
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「本当にいっちまうのか?」
アリーシャとフィーネの二人は現在、燦々と輝く太陽の下、エリックとその彼に抱えられた赤ん坊、リオに見送られている。
メシアの死後、アルマとの対話を終え一息ついた頃合いで、一人の男性が現れた。
その男はいわゆる葬儀屋のようなもので、遺体運搬のために訪れたようだ。
この街の住人は皆、心臓部に遠隔管理ができる、心電計の様なものを取り付けているらしい。
その心電計に異常や機能停止の合図があると、それぞれに対応した人間が、その対象者、あるいは対象者の身近な人間らられれに接触する事になっている。
今回は機能停止を受け、遺体運搬の人間が来た様だ。
彼女の遺体はそのまま運ばれていき、親族との相談の後、街の管理の下に処分、あるいは保管されるらしい。
最も、保管方法が確立されているとはいえ、保管できる空間は限られているため、一部の人間のみが保管可能なだけで、基本的には処分される様だ。
しかし、メシアはこの街においては、かなりの優良技師であり、保管することも視野に入れることができるとのこと。
親族のいない彼女にとっての、最も身近だった存在として、エリックがその選択権利を得ている。
葬儀に関しては後日、関係者に通知が届き、全員の都合がくつく日に執り行うとのこと。
「しかし、本当に良かったのか? 彼女の遺体を処分してしまっても」
アリーシャの問いに、少し考える素振りは見せるが、エリックはその首を横に振った。
「正直つらいよ。けど、あいつの場合は少し特殊でな……残したままにしておくわけにはいかないんだよ」
そう言う彼の口元から聞こえる歯軋りが、彼の悔しさを物語っている様だ。
「……そうか。深い事情は聞かないでおこう。……彼女の葬儀に参加できないこと、深く詫びさせてほしい」
「そういうのはいいよ。そりゃ、あんたたちがいてくれたらどれほどいいかとは思うが、それぞれに事情ってものがあるからな。あいつもわかってくれる」
泣くこともなく、ただひたすらにエリックを見つめ続けるリオの頬を彼がつつく。
「こいつがいるとメシアが側にいる様な気がするんだ」
彼女を見つめるエリックの表情は、子に対する親愛の様にも、思い人への情愛のようにも見える。
「……全くだな。リオは彼女の全てを持っているようにすら感じる。……あるいは、彼女の分裂体のようだ」
アリーシャの発言は、いささか彼女の嗜好に傾倒しているようにも思えるが、彼女なりの気持ちなのだろう。
「本当にメシアさんそっくりだね。特にこの目、こんな目の色メシアさん以外に知らないよ」
白く艶のない瞳。メシアと同じく、白い瞳というよりも、無色の瞳、と例えた方が正しいかもしれないそれは、確かに見慣れた色ではないだろう。
エリックの肩に乗るマオが、リオの額に自分の額を触れさせ、擦り付ける。
彼の行動に、特に表情は見せてこなかったリオが、初めて笑顔を見せた。
「リオが……結局マオには勝てないのかよ……」
そう言って落ち込むエリックを眺めながら、フィーネとアリーシャが笑い、リオが更に声を出して笑っていた。
「……さて、行くとしよう。あまり長居してしまうと、心が離れなくなってしまう」
「……うん。行こうか」
アリーシャの言葉を合図に、二人はエリックたちに背を向ける。
「……また、来てくれるのか?」
背を向ける二人は、少しの間言葉を噤み、同時に小さくため息をつく。お互いの行動に小さく笑みをこぼし、アリーシャが口を開く。
「君たちが望めばいずれ。リオくんの成長した姿を是非、この目に納めたいものだ」
彼女の言葉を口切りに、二人が歩き出す。
「……一つ、言い忘れていた」
エリックはリオを抱えるその腕で、彼女が痛くない程度に強く抱きしめる。
「フィーネ……だったな。君にはメシアの死に目に会わせてくれた恩がある。いずれ、必ず返させて欲しい」
彼の言葉に足を止め、口を強く結ぶ。
少しの間を置き、表情を緩めた彼女は、その綺麗な長い黒髪を翻しながら、振り返った。
「私も! 絶対に大きくなったリオちゃんを見たい! だから必ず……!」
最後の言葉にはあらゆる感情を込め、言葉を飲み込んだ。
最後の大粒の涙を濡れた地面に落とすと、もう一度勢いよく踵を返す。
「行こう! アリー」
彼女の強い意志が見せた、まっすぐと先を見つめる彼女の表情は、おそらくアリーシャにしか見えていなかっただろう。
「……了解した助手くん。君の心が動かぬ内に」
エリックたちの視線を受けながら、二人は堂々と歩き出した。
アリーシャとフィーネの二人は現在、燦々と輝く太陽の下、エリックとその彼に抱えられた赤ん坊、リオに見送られている。
メシアの死後、アルマとの対話を終え一息ついた頃合いで、一人の男性が現れた。
その男はいわゆる葬儀屋のようなもので、遺体運搬のために訪れたようだ。
この街の住人は皆、心臓部に遠隔管理ができる、心電計の様なものを取り付けているらしい。
その心電計に異常や機能停止の合図があると、それぞれに対応した人間が、その対象者、あるいは対象者の身近な人間らられれに接触する事になっている。
今回は機能停止を受け、遺体運搬の人間が来た様だ。
彼女の遺体はそのまま運ばれていき、親族との相談の後、街の管理の下に処分、あるいは保管されるらしい。
最も、保管方法が確立されているとはいえ、保管できる空間は限られているため、一部の人間のみが保管可能なだけで、基本的には処分される様だ。
しかし、メシアはこの街においては、かなりの優良技師であり、保管することも視野に入れることができるとのこと。
親族のいない彼女にとっての、最も身近だった存在として、エリックがその選択権利を得ている。
葬儀に関しては後日、関係者に通知が届き、全員の都合がくつく日に執り行うとのこと。
「しかし、本当に良かったのか? 彼女の遺体を処分してしまっても」
アリーシャの問いに、少し考える素振りは見せるが、エリックはその首を横に振った。
「正直つらいよ。けど、あいつの場合は少し特殊でな……残したままにしておくわけにはいかないんだよ」
そう言う彼の口元から聞こえる歯軋りが、彼の悔しさを物語っている様だ。
「……そうか。深い事情は聞かないでおこう。……彼女の葬儀に参加できないこと、深く詫びさせてほしい」
「そういうのはいいよ。そりゃ、あんたたちがいてくれたらどれほどいいかとは思うが、それぞれに事情ってものがあるからな。あいつもわかってくれる」
泣くこともなく、ただひたすらにエリックを見つめ続けるリオの頬を彼がつつく。
「こいつがいるとメシアが側にいる様な気がするんだ」
彼女を見つめるエリックの表情は、子に対する親愛の様にも、思い人への情愛のようにも見える。
「……全くだな。リオは彼女の全てを持っているようにすら感じる。……あるいは、彼女の分裂体のようだ」
アリーシャの発言は、いささか彼女の嗜好に傾倒しているようにも思えるが、彼女なりの気持ちなのだろう。
「本当にメシアさんそっくりだね。特にこの目、こんな目の色メシアさん以外に知らないよ」
白く艶のない瞳。メシアと同じく、白い瞳というよりも、無色の瞳、と例えた方が正しいかもしれないそれは、確かに見慣れた色ではないだろう。
エリックの肩に乗るマオが、リオの額に自分の額を触れさせ、擦り付ける。
彼の行動に、特に表情は見せてこなかったリオが、初めて笑顔を見せた。
「リオが……結局マオには勝てないのかよ……」
そう言って落ち込むエリックを眺めながら、フィーネとアリーシャが笑い、リオが更に声を出して笑っていた。
「……さて、行くとしよう。あまり長居してしまうと、心が離れなくなってしまう」
「……うん。行こうか」
アリーシャの言葉を合図に、二人はエリックたちに背を向ける。
「……また、来てくれるのか?」
背を向ける二人は、少しの間言葉を噤み、同時に小さくため息をつく。お互いの行動に小さく笑みをこぼし、アリーシャが口を開く。
「君たちが望めばいずれ。リオくんの成長した姿を是非、この目に納めたいものだ」
彼女の言葉を口切りに、二人が歩き出す。
「……一つ、言い忘れていた」
エリックはリオを抱えるその腕で、彼女が痛くない程度に強く抱きしめる。
「フィーネ……だったな。君にはメシアの死に目に会わせてくれた恩がある。いずれ、必ず返させて欲しい」
彼の言葉に足を止め、口を強く結ぶ。
少しの間を置き、表情を緩めた彼女は、その綺麗な長い黒髪を翻しながら、振り返った。
「私も! 絶対に大きくなったリオちゃんを見たい! だから必ず……!」
最後の言葉にはあらゆる感情を込め、言葉を飲み込んだ。
最後の大粒の涙を濡れた地面に落とすと、もう一度勢いよく踵を返す。
「行こう! アリー」
彼女の強い意志が見せた、まっすぐと先を見つめる彼女の表情は、おそらくアリーシャにしか見えていなかっただろう。
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エリックたちの視線を受けながら、二人は堂々と歩き出した。
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