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真の章 第一節
其ノ六 悲しい現実
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「そっちはだめ……!」
亀の行動に彼女が思わず立ち上がる。
アリーシャも彼女の気持ちを汲みつつも、意味のない事を諭すように諫める。
アリーシャの制止に困惑する彼女も、それが映像でしかない事を理解し、悔しそうにその場に座り直した。
「……相変わらず淡々と我々の行動を語るのが好きなようだな」
アリーシャは、まるで私を軽蔑するかのような視線を向けてくる。
例えどう言われようとも、感じられようとも、これが私の義務であり、立場である事実が覆る事ではない。
「…………」
アリーシャとのやり取りの最中も、映像は続いており、彼女は相変わらず映像から目を離すことはなかった。
「だめ……だめ……!」
映像の中では、先ほどの亀が徐々に集落の中へと侵入していく様子を確認できた。
この亀たちは何を目的に集落内へと侵入したのだろうか。
「……なんの不思議もない。彼らとて生物であり、生物が生きる上で必要になる生理現象の一つだ」
アリーシャの発言と共に、最初の一頭以外の亀たちも動き出した。皆一様に集落の広場を目指しているように見える。
冷静に努めているように見えても、アリーシャの口は強く食いしばられ、わずかに聞こえる歯軋りの音と共に、アリーシャの口から血が流れていることが確認できる。
「アリー! 辛いのは分かるけど、そんなのアリーらしくないよ!」
彼女の心配の言葉に、わずかに顎の力を弱め、少し冷静になる。
「……すまない。しかし、私が注意喚起を怠らなければ、こんなことにはならなかったはずだと、後悔しているんだ……」
そう言うアリーシャの眺める映像の中、より外周に近い家々が次々と崩されていく。
映像の粗さもあり、そこから逃げ出す人々の姿は鮮明に確認することができなかった。
「……でも、本当に辛いよ……」
相変わらず涙も、彼女の心境がより伝わってくるようだ。
二人はどれほど辛くとも、映像から目を離すことはなかった。
「離せるわけがないだろう。……これでも、人の心を捨てたつもりはない」
「何もできない自分が恨めしいよ! どうにかしてあそこに行けないの!」
アリーシャは彼女の言葉にはっとしたように目を大きく開くが、すぐに目を閉じ、首を振る。
「……貴様」
私の言葉に憤慨したかのように睨む彼女の眼光は、今までに見せたことのない程の鋭利さとなっていた。
「アリー、何かあるの?」
「…………っ」
私の言葉に彼女が気づき、アリーシャの考えを問う。しかし、当のアリーシャはその言葉を口にする事を躊躇っている。
「……君もよく知っているものだ」
アリーシャは懐から例の懐中時計を取り出し、彼女に見えるように持ち上げる。
「でもそれって……!」
彼女の疑問は尤もだ。いつも行き先が分からず、無差別に飛んでいたはずの機械。そんなもなが果たして、今役に立つものだろうかと。
「勿論、確証はないし、あるいは不可能なのかも知れない」
アリーシャはそう言いつつ、浮かない表情で俯き言葉を続ける。
「ただ、可能性は多分にあると思っている。ただ……」
「……なに?」
アリーシャの考える可能性。そして憂いは何を示すのか。
「……おすすめはできない」
言葉を濁すように、簡潔に答える。それでもなお、彼女の視線は極彩色の床へと向けられている。
「なんで? あの人たちを助けたくないの?」
彼女の問いにアリーシャの全身に緊張が走る。アリーシャは深呼吸し、彼女の視線をその憂いた瞳で受け止める。
「助けたいさ。ただ、おそらくそれは、運命ではない」
「へ?」
アリーシャの口から、運命などという不確かな言葉が現れたことに、戸惑いこそすれ納得はできるはずもない。
「ここで我々がこの映像を見ているということは、おそらく彼らは助からないことになっているのだろう。ともするならば、我々が今からあの世界に行くことは、あってはならないことなんだ」
「なにそれ、アリーらしくない」
彼女の言葉は、それこそ彼女らしくないと言いたくなるほどに、冷静であり、淡々としており、力強かった。
「……なんとでも言ってくれ」
やはり、アリーシャもらしくない、というのは間違いない。落ち込むアリーシャのしおらしさは、普通の女性のそれに過ぎない。
「アリーの言葉がほしいよ」
「……先ほどの発言は嘘でも無ければ、冗談でもないし、事実だと思っている」
彼女に目を合わせることなく、アリーシャが続ける。
「その前提で話すが、仮にこれを使ってあの世界に舞い戻れたとして、おそらくは既に事が済んだ後の世界だろう。……そんな場所に君を連れて行くことを、私が良しとしない」
アリーシャの言葉に彼女は首を振り、ため息をついた。
「やっぱりアリーらしくない。まだ決まってもいない事を可能性で済ませて、試そうともしないなんて、私の知っているアリーじゃないよ」
「…………」
彼女の言葉に大きくため息を漏らすと、わずかに微笑みを浮かべる。
「ならば試してみようじゃないか。それで仮に、君の心が折れると言うのであれば、私が支えればいいだけのことだ」
アリーシャにいつもの表情が戻る。
「……本当にいつも見ているような言い回しだな。あまり気持ちの良いものじゃない」
私の発言に気分を害したようだ。残念ながら、私に謝る術などありはしない。
「謝罪など求めてはいない。どうせすぐに別れる訳だからな」
「良いんだよね、アリー」
彼女の言葉に、アリーシャが渋々頷く。彼女も笑みを浮かべ、「ありがとう」と短くつぶやいた。
「ならば行こう。彼らの元へ」
「絶対に助ける!」
アリーシャは懐中時計の釦に指を置き、こちらに向き直った。
「世話になったな。もう二度と、君に出会わない事を願っている」
「あなたのことは知らない。でも、どこか懐かしさを感じた事だけが気持ち悪かったけど、忘れることにするよ」
アリーシャも頷き、今度こそ釦を押し込んだ。
「君たちの運命に幸あれ」
私の心よりの言葉は誰にも伝わることはなかっただろう。
亀の行動に彼女が思わず立ち上がる。
アリーシャも彼女の気持ちを汲みつつも、意味のない事を諭すように諫める。
アリーシャの制止に困惑する彼女も、それが映像でしかない事を理解し、悔しそうにその場に座り直した。
「……相変わらず淡々と我々の行動を語るのが好きなようだな」
アリーシャは、まるで私を軽蔑するかのような視線を向けてくる。
例えどう言われようとも、感じられようとも、これが私の義務であり、立場である事実が覆る事ではない。
「…………」
アリーシャとのやり取りの最中も、映像は続いており、彼女は相変わらず映像から目を離すことはなかった。
「だめ……だめ……!」
映像の中では、先ほどの亀が徐々に集落の中へと侵入していく様子を確認できた。
この亀たちは何を目的に集落内へと侵入したのだろうか。
「……なんの不思議もない。彼らとて生物であり、生物が生きる上で必要になる生理現象の一つだ」
アリーシャの発言と共に、最初の一頭以外の亀たちも動き出した。皆一様に集落の広場を目指しているように見える。
冷静に努めているように見えても、アリーシャの口は強く食いしばられ、わずかに聞こえる歯軋りの音と共に、アリーシャの口から血が流れていることが確認できる。
「アリー! 辛いのは分かるけど、そんなのアリーらしくないよ!」
彼女の心配の言葉に、わずかに顎の力を弱め、少し冷静になる。
「……すまない。しかし、私が注意喚起を怠らなければ、こんなことにはならなかったはずだと、後悔しているんだ……」
そう言うアリーシャの眺める映像の中、より外周に近い家々が次々と崩されていく。
映像の粗さもあり、そこから逃げ出す人々の姿は鮮明に確認することができなかった。
「……でも、本当に辛いよ……」
相変わらず涙も、彼女の心境がより伝わってくるようだ。
二人はどれほど辛くとも、映像から目を離すことはなかった。
「離せるわけがないだろう。……これでも、人の心を捨てたつもりはない」
「何もできない自分が恨めしいよ! どうにかしてあそこに行けないの!」
アリーシャは彼女の言葉にはっとしたように目を大きく開くが、すぐに目を閉じ、首を振る。
「……貴様」
私の言葉に憤慨したかのように睨む彼女の眼光は、今までに見せたことのない程の鋭利さとなっていた。
「アリー、何かあるの?」
「…………っ」
私の言葉に彼女が気づき、アリーシャの考えを問う。しかし、当のアリーシャはその言葉を口にする事を躊躇っている。
「……君もよく知っているものだ」
アリーシャは懐から例の懐中時計を取り出し、彼女に見えるように持ち上げる。
「でもそれって……!」
彼女の疑問は尤もだ。いつも行き先が分からず、無差別に飛んでいたはずの機械。そんなもなが果たして、今役に立つものだろうかと。
「勿論、確証はないし、あるいは不可能なのかも知れない」
アリーシャはそう言いつつ、浮かない表情で俯き言葉を続ける。
「ただ、可能性は多分にあると思っている。ただ……」
「……なに?」
アリーシャの考える可能性。そして憂いは何を示すのか。
「……おすすめはできない」
言葉を濁すように、簡潔に答える。それでもなお、彼女の視線は極彩色の床へと向けられている。
「なんで? あの人たちを助けたくないの?」
彼女の問いにアリーシャの全身に緊張が走る。アリーシャは深呼吸し、彼女の視線をその憂いた瞳で受け止める。
「助けたいさ。ただ、おそらくそれは、運命ではない」
「へ?」
アリーシャの口から、運命などという不確かな言葉が現れたことに、戸惑いこそすれ納得はできるはずもない。
「ここで我々がこの映像を見ているということは、おそらく彼らは助からないことになっているのだろう。ともするならば、我々が今からあの世界に行くことは、あってはならないことなんだ」
「なにそれ、アリーらしくない」
彼女の言葉は、それこそ彼女らしくないと言いたくなるほどに、冷静であり、淡々としており、力強かった。
「……なんとでも言ってくれ」
やはり、アリーシャもらしくない、というのは間違いない。落ち込むアリーシャのしおらしさは、普通の女性のそれに過ぎない。
「アリーの言葉がほしいよ」
「……先ほどの発言は嘘でも無ければ、冗談でもないし、事実だと思っている」
彼女に目を合わせることなく、アリーシャが続ける。
「その前提で話すが、仮にこれを使ってあの世界に舞い戻れたとして、おそらくは既に事が済んだ後の世界だろう。……そんな場所に君を連れて行くことを、私が良しとしない」
アリーシャの言葉に彼女は首を振り、ため息をついた。
「やっぱりアリーらしくない。まだ決まってもいない事を可能性で済ませて、試そうともしないなんて、私の知っているアリーじゃないよ」
「…………」
彼女の言葉に大きくため息を漏らすと、わずかに微笑みを浮かべる。
「ならば試してみようじゃないか。それで仮に、君の心が折れると言うのであれば、私が支えればいいだけのことだ」
アリーシャにいつもの表情が戻る。
「……本当にいつも見ているような言い回しだな。あまり気持ちの良いものじゃない」
私の発言に気分を害したようだ。残念ながら、私に謝る術などありはしない。
「謝罪など求めてはいない。どうせすぐに別れる訳だからな」
「良いんだよね、アリー」
彼女の言葉に、アリーシャが渋々頷く。彼女も笑みを浮かべ、「ありがとう」と短くつぶやいた。
「ならば行こう。彼らの元へ」
「絶対に助ける!」
アリーシャは懐中時計の釦に指を置き、こちらに向き直った。
「世話になったな。もう二度と、君に出会わない事を願っている」
「あなたのことは知らない。でも、どこか懐かしさを感じた事だけが気持ち悪かったけど、忘れることにするよ」
アリーシャも頷き、今度こそ釦を押し込んだ。
「君たちの運命に幸あれ」
私の心よりの言葉は誰にも伝わることはなかっただろう。
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