時空を超えて──往く往く世界に彼女は何を望むのか

夜兎

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真の章 第一節

其ノ五 大きな生物

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「……いつまで待たせるんだ?」

 あれからどれほどの時間が経っただろうか。液晶に変化はなく、アリーシャも痺れを切らしているようだ。
 彼女に至っては、早々に飽きて今は黒猫と共に眠りについている。

「それだ。せっかく助手くんの寝顔を鑑賞できるいい機会なのだから、まだ始まらないのであれば見に行きたい」

 アリーシャも大分、この空間に違和感を持たなくなってきたようだ。いつものアリーシャらしさを見せている。

「流石に同じ場所にこれだけ置かれた状況で、その空間に順応できないほど固くはないぞ」

 それは何よりだ。そろそろ始まることだろう。寝顔の鑑賞も何よりだが、彼女も起こすべきだ。

「……その映像というのは、彼女にも見せていいものなのか?」

 誰に見られたからと、問題になるようなものでもない。むしろ見るべきだろう。

「そうじゃない」

 おそらく、彼女の心配をしているのだろう。それがアリーシャという女だ。

「……まあいい。起こせというなら起こすさ」

 賢明な判断だろう。見るべき映像というものを、見れなかったときの方がよほど問題になる。

 しかし、彼女に近づいたアリーシャはすぐに彼女を起こそうとはしない。
 本当に寝顔を鑑賞しているようだ。……正直、そこまでいくと幻滅するべきなのか、尊敬するべきなのか分からなくなる。

「貴様に幻滅されようが尊敬されようが、特に感情を抱かないぞ。残念だったな」

 アリーシャの発言に、どうやら黒猫の方が起きてしまったらしい。体を起こし、その全身を震わせて伸びをする。
 その動作によって、彼女も目を覚ましたようだ。

「んー……おはよう……?」

 目覚めたばかりの彼女は、状況を確認するために辺りを見渡し、寝惚け眼でアリーシャを見つめる。

「おはよう助手くん。黒猫の抱き枕は気持ちよかったか?」
「とても……。あ、もう終わっちゃった?」

 やっと状況を思い出したのだろう。残念ながら、まだ終わってはいない。

「そか……もう始まるの?」

 もうじき始まるだろうと、君を起こす事を勧めさせてもらった。

「じゃあ、そっちいく」

 本当に、彼女のこの順応性は恐ろしい。すでに自分の部屋かのような落ち着き様だ。

「考えても仕方ないことは考えない事にしてるから。そういうのはアリーがやってくれる」
「その通りだな」

 彼女たちの言葉が合図となったかの様に、唐突に液晶に画像が映り出し、その場に淡い光を灯した。

「始まった様だな。これだけ待たせて、期待に添えてくれるものなのか、甚だ気になるところではある」
「これ……オネちゃんたちの……?」

 彼女のいう通り、唐突に映し出された映像には、砂漠の集落を遥か上空から俯瞰ふかんしたような映像になっている。

「確かに、過去に訪れた集落が現在どうなっているか、となれば興味はある。しかし、この高さからでは内状がわからないな」
「確かに、遠すぎるしなんか少し、荒いという……」

 彼女のいう通り、映像の質はあまり良いものではない。遠目に見て、そこがどうなのかなどは判断できるものの、細部までを注視することは叶わない。

「分かっているのならなんとかならなかったのか?」

 アリーシャの発言も尤もなことだろう。しかし、そもそも管理下に無いものに関してどうこうできるものでも無い。

「……そうか」

 アリーシャの呟きと共に、映像に変化が確認できた。

「あれは……そうか。……やはりあの時注意しておくべきだったか……すまない」

 集落の周囲、防護壁のように並べられていた白い丸岩。その丸岩がわずかに揺れ、荒いこの映像でもわかる程度にひびが入るのを確認できた。
 その謎の現象に、アリーシャは目を背け、彼女は食い入るように目を向ける。

「これ、何が起こってるの?」
「……おそらく、亀だろうな」
「……亀?」

 アリーシャの口から唐突に現れたその名前に、彼女は思わず疑問を口にする。
 
「そうだ、亀だ。まあ見ていればわかるだろう。……あまり、オススメできたことでは無いが」

 アリーシャも諦め、映像の続きを観察する。その目は悩ましげで、後悔しているようにも見える。
 丸岩のひびは更に広がり、そろそろ一周に値するのでは無いかと判断できるところまで伸びている。

「なんか……あれ?」

 ひびが丸岩の外周を全てなぞると、当然二つに分かれたのだが……岩の中に見えたのは断面ではなく、透明な液体と共に一頭の生物が現れた。

「亀……?」

 体全体を覆う大きな茶色の甲羅に、平らな手足を駆使して岩の中から這い出てくるその姿は、いわゆる亀そのものだった。
 ただし、その大きさは標準のそれとは異なり、生まれたばかりの割に小さな建物であれば優に超えている大私となっている。

「当時から少し気になってはいたんだ。確信はなく、可能性も低いと踏んでいたから黙っていたが……私の失敗だ」

 つまり、あの白い岩は亀の卵だったということだろう。
 しかし、仮に集落全体を覆う岩全てが、この亀の卵だった場合、一頭あたりの大きさも加味すると少々……。

「ねえ、あの亀どうしたの?」

 卵から這い出るのに苦労していた亀は最初、すぐ足元の砂を掘っていた。
 何がしたいのかは不明だが、あるいは亀本人にもそれは分かっていないのかもしれない。

「普通に考えれば本能から来るものだろう。地上に昔からあの蛇がいたとすれば、彼らの天敵だったわけだ。地中のみが安全地帯という事になる」

 アリーシャの発言が正しいのかは定かでは無いが、地面を掘ろうとする意思に反して、中々が掻き出せないでいる。

「あの集落周辺だけはなぜか地面も硬かったからな。あるいは整備をしていたのであれば、亀たちに地中に潜る術はない」

 その亀の行動を見ていると、次々と新しい卵が孵化していく。映像で見る分には壮観なだけだが、あるいはあの現場にいたのであれば少々の恐怖を覚えた事だろう。

「少々なものか。自分の数倍──下手すれば十数倍はある亀が何十頭も現れてくるのだぞ。私なら助手くんがいるからさほどの恐怖も感じないが、彼らは違う」

 彼女の存在がアリーシャの奔放な性格に拍車をかけているかのように聞こえる。

「それ、私が悪いの……?」
「何をいう。君はそれでいいんだ」

 アリーシャの言葉にあまり納得のいかない表情を浮かべている。

 生まれてくる亀は、皆同じように地面を掘り出していた。

「しかし、問題なのはこれからだ」

 憂いの表情を浮かべるアリーシャの言葉に呼応するように、最初の亀が新しい行動を取り始めた。
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