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真の章 第一節
其ノ四 見守る者
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「こんなところに人……?」
「あなたは何者だ?」
二人の疑問は最もだろう。これほどに特異な空間において、普通の人間が居たのならそれは、驚愕すべき事態で他ならない事だ。
「だから聞いているだろう」
アリーシャの訝しげな表情を受け続けるのも、そう悪いことでも無い。
「何を言っているんだ」
ああ、すまない。私のことを尋ねていたんだったな。……しかし残念なことに、人に名乗ることのできる名というものがないのだ。好きに呼ぶといい。
「なんなんだ貴様は。礼儀作法云々以前に、気味が悪いぞ」
アリーシャが体を引くその仕草は、中々に目新しいものだ。……至極真っ当な反応であることは間違いない。
「なんでずっとそんな喋り方をするの?」
彼女の疑問も当然の問いというべきだろう。しかし、何故と問われて答えることのできるほど、言動の自由を持ってはいない。
「誰かに強要されていると言いたいのか」
アリーシャが彼女を一歩後ろに下がらせる。当然の警戒態勢といったところだろう。
しかし、強要の類ではなく、これは義務に等しい事柄故、特に話すべき事がないというのが正しい回答になるのだろうか。
「何故、行動の逐一を言葉に発するその行為が、義務化するのかは理解に苦しむが……聞いている我々にとっては不快以外の何事でもないな」
これほどに余裕のないアリーシャというのも、やはり見慣れない光景なのだろう。私は割と嫌いではない。
「貴様の好みなど聞いていない。発言を聞いている限り、まるで我々のことを深く知っているかのような言葉が気になる。……我々のことを知っているのか?」
知っている、と言えば知っているし、知らないと言えば知らないのかもしれない。それこそ、神のみぞ知る、という言葉が最もふさわしいだろう。
「神なんてものは信用に値しない。存在自体が不確定な上に、存在したとして、傍観するのみで良くも悪くも干渉することはない。あるいは貴様が神だとでもいうつもりか」
言い得て妙と言ったところか。正確には神に当たる存在ではないが、それらと並ぶものと言えば間違いではないだろう。
「……本気で言っているのか」
なによりこの空間こそ、その確たる理由にはなり得ないだろうか? こんな空間に居る存在が、平々凡々であった場合の方が、不思議なことと言えるだろう。
「……全くその通りだな」
「神様、なの?」
話をどの程度理解して聞いていたかはわからないが、彼女にとってはそれで構わないだろう。
「……なんか、私馬鹿にされてる?」
アリーシャが彼女の頭の上に手を置き、宥めるように諭す。
「君はそれでいい。この空間において彼女が特別であることは間違いない。……そして、我々にとってもあるいは特別な存在なのだろう」
二人にとって私が特別なのではない。私たちにとって、二人が特別な存在なのだ。
「我々が特別? ……いやそれよりも、私たち、だと?」
その通りである。私のような存在は他に何人もいる。そして、二人はその全てからある事柄において期待されているという訳だ。
「神もどきから期待されるようなことなど何もないし、されて嬉しいことも何もない」
相変わらず我を通していくその考えは、素晴らしいの一言に尽きる。
「アリー、神様に褒められてる?」
「彼女は神ではないし、褒められたとして何も嬉しくなどない。……そもそも今のは皮肉だろう」
皮肉などとんでもない。心からの称賛だと理解してほしい。
……特別に一つ、君たちの心を動かすものを見てもらおう。
「我々の心を動かす……?」
アリーシャの言葉を受け止め、私は徐に歩き出す。
その方角には、先ほど二人が追いかけていた黒猫の姿も見えた。
「ほんとだ、マオが居る」
「我々の誘導に彼の姿を使っていたわけじゃないのか」
その世界の活動に私の意思は関与していない。あの猫の姿もまた、別の存在の干渉によってできた産物に過ぎない。
三人はただひたすらに、黒猫の後を追っていく。
「……いちいち行動を明言されるというのはやはり、落ち着かないものがあるな」
「私もう慣れた……」
彼女の順応性の高さもまた、魅力の一つだろう。むしろ、アリーシャが未だに慣れていないというのは、印象に対して違和感を覚えてしまう。
「……悪いが、これほど理屈の通らない空間では、私もただの人の子ということだろう」
アリーシャの苦笑も確認できたところで、目的の空間にたどり着いたようだ。
「ここは……」
いわゆる、映像として、各時間軸に干渉する空間となっている。
既に街並みの風景は無くなり、元の極彩色の背景となっており、その背景に無造作に置かれた長方形の液晶は、暗く未だに何も映されてはいない。
「何を見せようとしているかは知らないが、我々の望むものと言われても、そんなものが存在するのかは不明だ。何故我々が望むものを貴様が知っている」
心の理解、と言うものができるのであれば、それ自体は容易いことだと言える。
二人が望むのは、果たしていずれの感情に基づいたものだろうか。ただひたすらに映像を待つしかないようだ。
「あなたは何者だ?」
二人の疑問は最もだろう。これほどに特異な空間において、普通の人間が居たのならそれは、驚愕すべき事態で他ならない事だ。
「だから聞いているだろう」
アリーシャの訝しげな表情を受け続けるのも、そう悪いことでも無い。
「何を言っているんだ」
ああ、すまない。私のことを尋ねていたんだったな。……しかし残念なことに、人に名乗ることのできる名というものがないのだ。好きに呼ぶといい。
「なんなんだ貴様は。礼儀作法云々以前に、気味が悪いぞ」
アリーシャが体を引くその仕草は、中々に目新しいものだ。……至極真っ当な反応であることは間違いない。
「なんでずっとそんな喋り方をするの?」
彼女の疑問も当然の問いというべきだろう。しかし、何故と問われて答えることのできるほど、言動の自由を持ってはいない。
「誰かに強要されていると言いたいのか」
アリーシャが彼女を一歩後ろに下がらせる。当然の警戒態勢といったところだろう。
しかし、強要の類ではなく、これは義務に等しい事柄故、特に話すべき事がないというのが正しい回答になるのだろうか。
「何故、行動の逐一を言葉に発するその行為が、義務化するのかは理解に苦しむが……聞いている我々にとっては不快以外の何事でもないな」
これほどに余裕のないアリーシャというのも、やはり見慣れない光景なのだろう。私は割と嫌いではない。
「貴様の好みなど聞いていない。発言を聞いている限り、まるで我々のことを深く知っているかのような言葉が気になる。……我々のことを知っているのか?」
知っている、と言えば知っているし、知らないと言えば知らないのかもしれない。それこそ、神のみぞ知る、という言葉が最もふさわしいだろう。
「神なんてものは信用に値しない。存在自体が不確定な上に、存在したとして、傍観するのみで良くも悪くも干渉することはない。あるいは貴様が神だとでもいうつもりか」
言い得て妙と言ったところか。正確には神に当たる存在ではないが、それらと並ぶものと言えば間違いではないだろう。
「……本気で言っているのか」
なによりこの空間こそ、その確たる理由にはなり得ないだろうか? こんな空間に居る存在が、平々凡々であった場合の方が、不思議なことと言えるだろう。
「……全くその通りだな」
「神様、なの?」
話をどの程度理解して聞いていたかはわからないが、彼女にとってはそれで構わないだろう。
「……なんか、私馬鹿にされてる?」
アリーシャが彼女の頭の上に手を置き、宥めるように諭す。
「君はそれでいい。この空間において彼女が特別であることは間違いない。……そして、我々にとってもあるいは特別な存在なのだろう」
二人にとって私が特別なのではない。私たちにとって、二人が特別な存在なのだ。
「我々が特別? ……いやそれよりも、私たち、だと?」
その通りである。私のような存在は他に何人もいる。そして、二人はその全てからある事柄において期待されているという訳だ。
「神もどきから期待されるようなことなど何もないし、されて嬉しいことも何もない」
相変わらず我を通していくその考えは、素晴らしいの一言に尽きる。
「アリー、神様に褒められてる?」
「彼女は神ではないし、褒められたとして何も嬉しくなどない。……そもそも今のは皮肉だろう」
皮肉などとんでもない。心からの称賛だと理解してほしい。
……特別に一つ、君たちの心を動かすものを見てもらおう。
「我々の心を動かす……?」
アリーシャの言葉を受け止め、私は徐に歩き出す。
その方角には、先ほど二人が追いかけていた黒猫の姿も見えた。
「ほんとだ、マオが居る」
「我々の誘導に彼の姿を使っていたわけじゃないのか」
その世界の活動に私の意思は関与していない。あの猫の姿もまた、別の存在の干渉によってできた産物に過ぎない。
三人はただひたすらに、黒猫の後を追っていく。
「……いちいち行動を明言されるというのはやはり、落ち着かないものがあるな」
「私もう慣れた……」
彼女の順応性の高さもまた、魅力の一つだろう。むしろ、アリーシャが未だに慣れていないというのは、印象に対して違和感を覚えてしまう。
「……悪いが、これほど理屈の通らない空間では、私もただの人の子ということだろう」
アリーシャの苦笑も確認できたところで、目的の空間にたどり着いたようだ。
「ここは……」
いわゆる、映像として、各時間軸に干渉する空間となっている。
既に街並みの風景は無くなり、元の極彩色の背景となっており、その背景に無造作に置かれた長方形の液晶は、暗く未だに何も映されてはいない。
「何を見せようとしているかは知らないが、我々の望むものと言われても、そんなものが存在するのかは不明だ。何故我々が望むものを貴様が知っている」
心の理解、と言うものができるのであれば、それ自体は容易いことだと言える。
二人が望むのは、果たしていずれの感情に基づいたものだろうか。ただひたすらに映像を待つしかないようだ。
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