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真の章 第一節
其ノ三 傍観者
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「これって、エリックさんが選んだのかな?」
「どうだろうか。しかしあの状況で渡せたものとなれば、メシアの家にあったものと考えるべきだろう」
フィーネは腕脚の出る軽装で、白を基調としていること、相変わらず飾られている黒猫の刺繍。メシアの私物と考えれば、なるほど理解に困らない。
アリーシャも軽装なことは変わらないが、前回と似た白い服に狐色の長い洋袴の組み合わせになっている。
なぜかアリーシャの着る衣装には、黒猫の刺繍がない。不思議なことだが、偶然という他ないだろう。
「メシアさんの服なら納得か。相変わらず可愛いよね」
「彼女の美的感覚が優れていたのだろうな。少なくとも私には、服の良し悪しなど判断しかねるからな」
花より団子──彼女の場合は花より発明といった所だろうか。だからこそ、アリーシャなのだろう。
「しかし、相変わらず干渉しない割には、こちらの行動に合わせて動くようだな、あの猫は」
「私たちを何処かに連れて行きたいのかな?」
フィーネの言葉にアリーシャが思考を巡らすように頭をひねる。
「わからないが、どこまで行こうが、彼以外に手がかりがない以上は、ついていくしかないということだな」
アリーシャの言う通り、二人はただ黒猫の後についていく。
相変わらずの風景が続く中、突然フィーネがアリーシャより先んじて数歩前に飛び出した。
「助手くん。君はまた──」
「違うのアリー、あれ!」
フィーネの言葉に、アリーシャが彼女の指さす先を見やる。もう少し進んだ所に、この丘での記憶として思い出せる風景の一つ。
「〝門〟の側にあった湖だな。本当にあるとは親切なことだ」
そう言いながらも、二人は湖に近づいていく。
水は底が見えるほどでないにしろ、それなりに澄んだ色をしており、十分に安全な可能性のある水と言える。
「しかし、いくら綺麗な水とは言え、この空間にあったと考えるのであれば、少々の抵抗は否めない所だな」
「……確かに」
元はと言えば、この空間はあの毒々しい極彩色に包まれた空間だったのだから、当然と言えば当然の疑問と言うべきだろう。
しかし、現状ではそれを証明する術はない。水を諦めるか、可能性にかける他に選択肢はないと言えるだろう。
「しかし、今後どれほど続くのかは見当もつかない。ここでの水分補給は、それこそ命に関わる問題だろう」
「……じゃあ、私先に飲む。万が一の時、私なら可能性はあるし、アリーの考えがあれば生きれる可能性もあるし……」
理にかなったフィーネの言葉に、アリーシャも驚嘆せざるを得なかったのだろう。
しかし、それでも彼女は首を横に振った。
「いやだめだ。その万が一の場合に命を落とす可能性がある以上、君一人を危険な目に合わせるわけにはいかない」
「じゃあどうするの?」
フィーネの問いに、アリーシャは麻袋を漁り出す。
何事かと無言で待つフィーネの前に渡されたのは、水筒の一つだった。
「私が飲むと言ったところで、君も同じ回答をするだろう。故に、二人同時に飲むとしよう。万が一死んだ場合でも、二人一緒であれば恐怖など考える必要もない」
アリーシャの言葉に、フィーネも頷き、水筒を手に持つ。
「じゃあ、せーのでいこう」
水筒に水を汲んだ二人が同時に飲み口をその唇につける。
「せーの!」
フィーネの合図と共に、二人は同時に水筒の水を飲む。よほど喉が渇いていたのだろう。呆れるほどの速度で、水筒の中身が消えていった。
「美味しい! こんな水に毒なんてないよね」
フィーネの発言に、アリーシャも多少の間をおいた後頷く。
「ああ、全く問題はなさそうだな」
アリーシャの言葉を聞いたフィーネは、また勢いよく水を飲み出した。
当然、アリーシャももう一杯ほど口に運んでいく。
「……しかし、本当に美味しいな。砂漠での経験が故なのか、この水自体に何かしらの味がついているのか……」
相変わらず気になることがあれば、その興味を追求する姿勢のようだ。
しかし、水分も補給し終え、アリーシャの発言にあまり乗り気でないフィーネが急いで静止をかけた。
「それどころじゃないよアリー! ずっとマオが待ってるんだから、はやくいかないと!」
「おお、そうだったな。すまない、先を急ぐとしよう」
二人は水を汲み、溢れないように封をすると麻袋に戻す。
「その袋、私が持つよ」
「そうか? すまないな。私の体力では少々重くは感じていたんだ」
アリーシャは肩から麻袋を下ろすと、フィーネに手渡す。受け取ったフィーネはそのまま右手で抱え、歩き出した。
「さあ行こうアリー。こんなとこすぐにでも出たいから!」
「ああ。全くその通りだよ」
その後も丘の風景が続き、奥へ奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、空気が変わり、辺りが薄らとした暗闇に包まれた。
「……どうやら、メシアの街についたらしいな」
「本当に変な場所だね。いつも風景変わると、後ろも変わってる」
フィーネの言う通り、先ほどまで歩いてきたはずの空間でさえ、現在立つこの街並みへと変化している。
「まるで我々の記憶をなぞっているかのようだな」
二人はそのまま黒猫を追い始めた。
「ねぇアリー」
「……どうした助手くん」
「……さっきから、変な音……? というか声のようなものが聞こえるんだけど……」
フィーネの言う声というものが一体なんなのかは定かでないが、その表情は怯えているように見える。
「心配するな。私も先ほどから、この声の主を探しているところだ」
アリーシャにも聞こえているようだが、一体どの声だというのだろうか。
「ねぇアリー」
「……ああ」
私の前に、二人の姿が見えた。
「どうだろうか。しかしあの状況で渡せたものとなれば、メシアの家にあったものと考えるべきだろう」
フィーネは腕脚の出る軽装で、白を基調としていること、相変わらず飾られている黒猫の刺繍。メシアの私物と考えれば、なるほど理解に困らない。
アリーシャも軽装なことは変わらないが、前回と似た白い服に狐色の長い洋袴の組み合わせになっている。
なぜかアリーシャの着る衣装には、黒猫の刺繍がない。不思議なことだが、偶然という他ないだろう。
「メシアさんの服なら納得か。相変わらず可愛いよね」
「彼女の美的感覚が優れていたのだろうな。少なくとも私には、服の良し悪しなど判断しかねるからな」
花より団子──彼女の場合は花より発明といった所だろうか。だからこそ、アリーシャなのだろう。
「しかし、相変わらず干渉しない割には、こちらの行動に合わせて動くようだな、あの猫は」
「私たちを何処かに連れて行きたいのかな?」
フィーネの言葉にアリーシャが思考を巡らすように頭をひねる。
「わからないが、どこまで行こうが、彼以外に手がかりがない以上は、ついていくしかないということだな」
アリーシャの言う通り、二人はただ黒猫の後についていく。
相変わらずの風景が続く中、突然フィーネがアリーシャより先んじて数歩前に飛び出した。
「助手くん。君はまた──」
「違うのアリー、あれ!」
フィーネの言葉に、アリーシャが彼女の指さす先を見やる。もう少し進んだ所に、この丘での記憶として思い出せる風景の一つ。
「〝門〟の側にあった湖だな。本当にあるとは親切なことだ」
そう言いながらも、二人は湖に近づいていく。
水は底が見えるほどでないにしろ、それなりに澄んだ色をしており、十分に安全な可能性のある水と言える。
「しかし、いくら綺麗な水とは言え、この空間にあったと考えるのであれば、少々の抵抗は否めない所だな」
「……確かに」
元はと言えば、この空間はあの毒々しい極彩色に包まれた空間だったのだから、当然と言えば当然の疑問と言うべきだろう。
しかし、現状ではそれを証明する術はない。水を諦めるか、可能性にかける他に選択肢はないと言えるだろう。
「しかし、今後どれほど続くのかは見当もつかない。ここでの水分補給は、それこそ命に関わる問題だろう」
「……じゃあ、私先に飲む。万が一の時、私なら可能性はあるし、アリーの考えがあれば生きれる可能性もあるし……」
理にかなったフィーネの言葉に、アリーシャも驚嘆せざるを得なかったのだろう。
しかし、それでも彼女は首を横に振った。
「いやだめだ。その万が一の場合に命を落とす可能性がある以上、君一人を危険な目に合わせるわけにはいかない」
「じゃあどうするの?」
フィーネの問いに、アリーシャは麻袋を漁り出す。
何事かと無言で待つフィーネの前に渡されたのは、水筒の一つだった。
「私が飲むと言ったところで、君も同じ回答をするだろう。故に、二人同時に飲むとしよう。万が一死んだ場合でも、二人一緒であれば恐怖など考える必要もない」
アリーシャの言葉に、フィーネも頷き、水筒を手に持つ。
「じゃあ、せーのでいこう」
水筒に水を汲んだ二人が同時に飲み口をその唇につける。
「せーの!」
フィーネの合図と共に、二人は同時に水筒の水を飲む。よほど喉が渇いていたのだろう。呆れるほどの速度で、水筒の中身が消えていった。
「美味しい! こんな水に毒なんてないよね」
フィーネの発言に、アリーシャも多少の間をおいた後頷く。
「ああ、全く問題はなさそうだな」
アリーシャの言葉を聞いたフィーネは、また勢いよく水を飲み出した。
当然、アリーシャももう一杯ほど口に運んでいく。
「……しかし、本当に美味しいな。砂漠での経験が故なのか、この水自体に何かしらの味がついているのか……」
相変わらず気になることがあれば、その興味を追求する姿勢のようだ。
しかし、水分も補給し終え、アリーシャの発言にあまり乗り気でないフィーネが急いで静止をかけた。
「それどころじゃないよアリー! ずっとマオが待ってるんだから、はやくいかないと!」
「おお、そうだったな。すまない、先を急ぐとしよう」
二人は水を汲み、溢れないように封をすると麻袋に戻す。
「その袋、私が持つよ」
「そうか? すまないな。私の体力では少々重くは感じていたんだ」
アリーシャは肩から麻袋を下ろすと、フィーネに手渡す。受け取ったフィーネはそのまま右手で抱え、歩き出した。
「さあ行こうアリー。こんなとこすぐにでも出たいから!」
「ああ。全くその通りだよ」
その後も丘の風景が続き、奥へ奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、空気が変わり、辺りが薄らとした暗闇に包まれた。
「……どうやら、メシアの街についたらしいな」
「本当に変な場所だね。いつも風景変わると、後ろも変わってる」
フィーネの言う通り、先ほどまで歩いてきたはずの空間でさえ、現在立つこの街並みへと変化している。
「まるで我々の記憶をなぞっているかのようだな」
二人はそのまま黒猫を追い始めた。
「ねぇアリー」
「……どうした助手くん」
「……さっきから、変な音……? というか声のようなものが聞こえるんだけど……」
フィーネの言う声というものが一体なんなのかは定かでないが、その表情は怯えているように見える。
「心配するな。私も先ほどから、この声の主を探しているところだ」
アリーシャにも聞こえているようだが、一体どの声だというのだろうか。
「ねぇアリー」
「……ああ」
私の前に、二人の姿が見えた。
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