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第21話 凱旋する掃除屋
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王家からのSOSを受け取ってから数時間後。
私たちはダリウス家の精鋭騎士団を率いて、王都へと向かう馬車の中にいた。
「……本当によかったのか、フローラ」
向かいに座るレオンハルト様が何度目かの確認をしてくる。
「あの城は今、瘴気の壺が割れたような状態だ。いくらお前の力が規格外でも、危険がないとは言えん。それに、あんな仕打ちをした連中を助ける義理などないはずだ」
「義理はありません。でも、汚れを見ると落ち着かないんです」
私は窓の外を流れる景色を見ながら答えた。
それに、と付け加える。
「あの城には、私が新人時代に必死に磨いた手すりや、徹夜でシミを抜いた絨毯があります。それを無能な管理者に台無しにされたまま終わるなんて、掃除屋のプライドが許しません」
「……くくっ、相変わらずだな」
レオンハルト様は可笑しそうに笑い、それから真剣な眼差しで私の手を握った。
「分かった。お前の『大掃除』、とことん付き合おう。だが約束しろ。俺のそばを離れるな。泥一滴たりとも、お前には触れさせん」
「はい、頼りにしています。旦那様」
◇
国境を越え、王都の城壁が見えてきた頃。
私たちは言葉を失った。
「うわぁ……」
かつて「白亜の都」と謳われた王都は、見る影もなかった。空は紫色の雲に覆われ、街全体が薄暗いドームに閉じ込められているようだ。城壁からは黒い粘液が滝のように溢れ出し、外周の街道を侵食している。
風に乗って漂ってくるのは、生ゴミと下水が煮詰まったような強烈な腐敗臭。
「ひどい……。ここまで進行しているなんて」
「住民たちは避難しているようだが、逃げ遅れた者もいるな」
街道には家財道具を持って逃げ惑う人々の姿があった。
彼らは私たちの馬車――ダリウス公爵家の紋章が入った漆黒の馬車――を見ると、一瞬恐怖に顔を引きつらせた。
『穢れ公爵』が来た、殺される、と。
しかし。
「……おい、見ろよ。あの馬車、ピカピカだぞ?」
「周りの空気が、あそこだけ綺麗だ……」
私たちの馬車は、私の結界魔法によって塵一つ寄せ付けず、神々しいほどの輝きを放ちながら進んでいく。
泥にまみれた避難民たちにとって、それは皮肉にも、唯一の「救いの光」に見えたようだった。
◇
王城の正門前。
そこは地獄絵図だった。
城から溢れ出した黒いヘドロが不定形の魔物となり、門を守る近衛兵たちに襲いかかっている。
「ひぃぃ! 剣が通じない! 溶かされる!」
「退却だ! 城内にはもう入れない!」
近衛兵たちは泥だらけでプライドも装備もボロボロだ。
そこへ、一台の馬車が静かに滑り込んだ。
「下がっていろ、邪魔だ」
冷徹な声と共に、レオンハルト様が馬車から降り立つ。
彼が腰の剣を一閃させると、衝撃波が走り、群がっていたヘドロ魔物が弾け飛んだ。
呆然とする兵士たちの前に、私も降り立つ。
ラベンダー色のドレスの裾を翻し、私は目の前の惨状を見据えた。
(……うん、これはやりがいがあるわね)
私は懐から愛用の杖を取り出し、高らかに宣言した。
「これより、ダリウス公爵家による『特別清掃』を開始します! 皆さん、汚れますから下がっていてください!」
私は杖を掲げた。
イメージするのは、高圧洗浄機による一点突破。まずは道を作る。
『聖道開通』
私の杖から極太の光のレーザーが放たれた。
それは一直線に正門を突き抜け、中庭を横断し、本城の扉までを貫く。光が通った後には、蒸発したヘドロの代わりに新品同様に磨き上げられた真っ白な石畳が現れた。
「な……っ!?」
「一撃で、道ができた……?」
兵士たちが腰を抜かす中、私はレオンハルト様の方を振り返り、にっこりと笑った。
「道は開けました。行きましょう、レオンハルト様」
「ああ。最高のエスコートだ」
私たちは泥の海の中に一本だけ通った「光の道」を、まるでレッドカーペットを歩くように堂々と進んでいく。
目指すは本城、玉座の間。
そこにいるはずの「元凶」たちに引導を渡すために。
私たちはダリウス家の精鋭騎士団を率いて、王都へと向かう馬車の中にいた。
「……本当によかったのか、フローラ」
向かいに座るレオンハルト様が何度目かの確認をしてくる。
「あの城は今、瘴気の壺が割れたような状態だ。いくらお前の力が規格外でも、危険がないとは言えん。それに、あんな仕打ちをした連中を助ける義理などないはずだ」
「義理はありません。でも、汚れを見ると落ち着かないんです」
私は窓の外を流れる景色を見ながら答えた。
それに、と付け加える。
「あの城には、私が新人時代に必死に磨いた手すりや、徹夜でシミを抜いた絨毯があります。それを無能な管理者に台無しにされたまま終わるなんて、掃除屋のプライドが許しません」
「……くくっ、相変わらずだな」
レオンハルト様は可笑しそうに笑い、それから真剣な眼差しで私の手を握った。
「分かった。お前の『大掃除』、とことん付き合おう。だが約束しろ。俺のそばを離れるな。泥一滴たりとも、お前には触れさせん」
「はい、頼りにしています。旦那様」
◇
国境を越え、王都の城壁が見えてきた頃。
私たちは言葉を失った。
「うわぁ……」
かつて「白亜の都」と謳われた王都は、見る影もなかった。空は紫色の雲に覆われ、街全体が薄暗いドームに閉じ込められているようだ。城壁からは黒い粘液が滝のように溢れ出し、外周の街道を侵食している。
風に乗って漂ってくるのは、生ゴミと下水が煮詰まったような強烈な腐敗臭。
「ひどい……。ここまで進行しているなんて」
「住民たちは避難しているようだが、逃げ遅れた者もいるな」
街道には家財道具を持って逃げ惑う人々の姿があった。
彼らは私たちの馬車――ダリウス公爵家の紋章が入った漆黒の馬車――を見ると、一瞬恐怖に顔を引きつらせた。
『穢れ公爵』が来た、殺される、と。
しかし。
「……おい、見ろよ。あの馬車、ピカピカだぞ?」
「周りの空気が、あそこだけ綺麗だ……」
私たちの馬車は、私の結界魔法によって塵一つ寄せ付けず、神々しいほどの輝きを放ちながら進んでいく。
泥にまみれた避難民たちにとって、それは皮肉にも、唯一の「救いの光」に見えたようだった。
◇
王城の正門前。
そこは地獄絵図だった。
城から溢れ出した黒いヘドロが不定形の魔物となり、門を守る近衛兵たちに襲いかかっている。
「ひぃぃ! 剣が通じない! 溶かされる!」
「退却だ! 城内にはもう入れない!」
近衛兵たちは泥だらけでプライドも装備もボロボロだ。
そこへ、一台の馬車が静かに滑り込んだ。
「下がっていろ、邪魔だ」
冷徹な声と共に、レオンハルト様が馬車から降り立つ。
彼が腰の剣を一閃させると、衝撃波が走り、群がっていたヘドロ魔物が弾け飛んだ。
呆然とする兵士たちの前に、私も降り立つ。
ラベンダー色のドレスの裾を翻し、私は目の前の惨状を見据えた。
(……うん、これはやりがいがあるわね)
私は懐から愛用の杖を取り出し、高らかに宣言した。
「これより、ダリウス公爵家による『特別清掃』を開始します! 皆さん、汚れますから下がっていてください!」
私は杖を掲げた。
イメージするのは、高圧洗浄機による一点突破。まずは道を作る。
『聖道開通』
私の杖から極太の光のレーザーが放たれた。
それは一直線に正門を突き抜け、中庭を横断し、本城の扉までを貫く。光が通った後には、蒸発したヘドロの代わりに新品同様に磨き上げられた真っ白な石畳が現れた。
「な……っ!?」
「一撃で、道ができた……?」
兵士たちが腰を抜かす中、私はレオンハルト様の方を振り返り、にっこりと笑った。
「道は開けました。行きましょう、レオンハルト様」
「ああ。最高のエスコートだ」
私たちは泥の海の中に一本だけ通った「光の道」を、まるでレッドカーペットを歩くように堂々と進んでいく。
目指すは本城、玉座の間。
そこにいるはずの「元凶」たちに引導を渡すために。
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