追放された地味聖女が幸せになった理由〜「君の掃除スキルなど不要だ」と婚約破棄され、拾われた先は“穢れ”に覆われた呪いの公爵家でした〜

咲月ねむと

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​第22話 勘違いの極み

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 私が作った『光の道』を歩き、私たちは城内へと足を踏み入れた。

 かつて私が毎日雑巾がけをしていた大回廊は、見るも無惨な姿になっていた。壁紙は腐り落ち、天井からは黒い粘液が鍾乳石のように垂れ下がっている。

​「ひぃっ、来るな! あっちへ行け!」

「誰か助けて……!」

​ 逃げ遅れた侍女や文官たちが部屋の隅で魔物に怯えて震えていた。
 見覚えのある顔もある。私に雑用を押し付けてきた先輩侍女だ。彼女は今、全身泥まみれになり、かつての高慢さは見る影もない。

​「……あ、あれは……フローラ?」

「フローラだ! フローラが帰ってきた!」

​ 私に気づいた彼らが、縋るような目を向けてくる。
 私は立ち止まり、事務的に杖を振った。

​『周辺除菌・洗浄クリーン・サークル

​ パァン!と光の輪が広がり、彼らに群がっていた小さいヘドロ魔物を消滅させた。ついでに、彼らの服についた汚れも落としておく。

​「あ……助かった……」

「ありがとう、フローラ……!」

「礼には及びません。業務の一環ですので」

​ 私は淡々と告げ、足を止めずに先へ進んだ。
 感動の再会や、恨み言を言う時間すらもったいない。今の私にとって、彼らは「掃除の邪魔になる障害物」でしかないのだ。
 そのドライな対応に、レオンハルト様が苦笑する。

​「相変わらず容赦がないな。少しは優越感に浸ってもいいだろうに」

「汚れが落ちればそれで満足です。さあ、本丸はあそこですね」

​ 私たちは最奥にある「玉座の間」の大扉の前に立った。
 扉は内側から何重にもバリケードが築かれているようだが、隙間からドス黒い瘴気が漏れ出している。

​「開けるぞ」

​ レオンハルト様が剣の柄で扉を軽く小突いた。

 ドォォォン!!

 ただそれだけで、重厚な扉とバリケードの家具が木っ端微塵に吹き飛んだ。

​ ◇

​ 玉座の間の中は、外部よりもさらに酷い有様だった。
 床一面が黒い沼となり、その中央にある玉座だけが、かろうじて孤島のように残っている。
 そこに、二人の男女がしがみついていた。

​「来るな……来るなあああ!」

「いやぁっ! 私のドレスが! 靴が!」

​ アシュリー王太子とミリアだ。
 二人は這い上がってくる泥の魔物を蹴り落とそうと必死だったが、すでに足元まで侵食され、飲み込まれるのは時間の問題だった。

​「――そこまでです」

​ 私の声が響くと、二人はビクリと動きを止めた。
 土煙の中から、塵一つないドレスを纏った私と、漆黒の騎士のようなレオンハルト様が現れる。
 その姿は、この地獄のような光景の中で、あまりにも異質で神々しかった。

​「フ、フローラ……!?」

​ アシュリー王太子が目を見開いた。
 そして次の瞬間、彼の顔にパッと希望の色が差した。

​「おお! 来たか! やはり来てくれたか!」

​ 彼は泥に足を取られながらも、半泣きで叫んだ。

​「待っていたぞ! 私が間違っていた! やはりお前が必要だ! さあ、早くこの汚い泥をなんとかしろ! そして私を助け出せ!」

「…………」

「愛しているんだ、フローラ! お前もまだ私を愛しているのだろう!? だから危険を顧みずに助けに来てくれたのだろう!?」

​ ……すごい。
 ここまでくると、そのポジティブ思考には感心すら覚える。

 レオンハルト様が眉間に青筋を立てて一歩踏み出そうとしたが、私はそれを手で制した。

​「勘違いなさらないでください、アシュリー様」

​ 私は冷ややかな声で告げた。

​「私は貴方を助けに来たのではありません。国からの要請で、『汚染除去』の仕事に来ただけです」

「な、なに……?」

「そして、ここにある最大の汚れは、魔物ではありません」

​ 私は杖をまっすぐに彼らに向けた。

​「自分たちの無能さを認めず、他人のせいにして現実から逃げ続ける、その腐りきった性根こそが、この城を腐敗させた一番の原因です」

​ 私の言葉に王太子はパクパクと口を開閉させた。
 隣で震えていたミリアが、ヒステリックに叫んだ。

​「何よ! 偉そうに! あんたなんかただの掃除係じゃない! 私が本物の聖女なのよ! この光魔法を見なさい!」

​ 彼女は錯乱したように杖を振り回し、デタラメな光弾を放った。しかし、それは私の展開していた『対汚染結界』に当たって、パシュッと情けない音を立てて消えた。

​「――お掃除の時間です」

​ 私はミリアの攻撃など意に介さず、杖を床に突き立てた。
 これから見せるのは、辺境で磨きをかけた私の本気。
 王城丸ごと洗濯機に放り込むレベルの大洗浄だ。
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