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第6話 この子が新しいペット
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「モフ……」
私の咎めるような声にモフは、「くぅん」とまたまた悲しそうな鳴き声を漏らした。自慢のふわふわの尻尾はしょんぼりと垂れ下がり、大きな図体に似合わず、捨てられた子犬のような瞳で私を見上げてくる。
その足元には、まだピクピクと痙攣している銀色の巨大蛇。
アレクは、半ば放心状態になりつつあった。
「だから言ってるでしょ。拾い食いと、知らない子を勝手に連れてきちゃダメだって。この子、怪我してるじゃない。かわいそうに」
「ワン!」
私が言うと、モフは「この子弱ってたから助けてあげたんだよ!」とでも言いたげに、前足でバジリスクの体をツンツンとつついた。
「ま、待ってください、リリ殿!」
放心していたかと思ったアレクが、ハッと我に返って叫んだ。
「そいつに近づいては駄目だ! バジリスクの瞳を見た者は、石にされてしまう!」
「え? ああ、石化の魔眼のこと?」
私は特に気にもせず、バジリスクの巨大な頭の前にしゃがみ込むと、その銀色の鱗を優しく撫でた。閉じていた瞼がゆっくりと開き、中から爬虫類特有の、縦に裂けた瞳が覗く。
その瞳が、私をじっと見つめた。
「……ほら、大丈夫でしょ?」
「…………え?」
アレクは、石化するどころか、むしろ気持ちよさそうに目を細めるバジリスクと、平然としている私を交互に見て、完全に思考を停止させた。
「この子の魔眼、私がここに来たばっかりの頃に無効化しといたから。うちの近所でうっかり発動されても迷惑だし」
「無効化……した……? 伝説の魔物を……? どうやって……?」
「んー……気合?」
正確に言うと、魔眼を発動する魔力回路に直接干渉して、スイッチを切っただけなんだけど。説明するのも面倒くさい。
「それより、この子どうしようか。首筋に噛み傷があるわ。モフ、あなたじゃないでしょうね」
「クゥーン……」
「そう、違うならいいけど」
モフは私の大切な家族だ。普段はただの食いしん坊で甘えん坊な大きなわんこだけど、その正体は、神話にも語られる伝説の神獣フェンリル。まあ、本人にその自覚は全くないみたいだけど。
「仕方ないわね……。うちで手当てしてあげましょう。名前は……そうね、バッシーにしましょう」
「バッシー……」
アレクが、また一つ賢者の常識外れな行動を目撃して、遠い目をする。
「モフ、手伝って。裏の洞窟に運ぶから。あそこ、最近使ってないから客間にちょうどいいでしょ」
「ワフッ!」
モフは心得たとばかりに、バッシーの体を器用に咥えると、私と一緒に家の裏手へと運んでいく。その光景は、巨大な狼が巨大な蛇を運んでいるという現実離れしたもののはずなのに、なぜかひどく家庭的に見えた。
数分後、バッシーを洞窟に寝かせ、傷口に薬を塗ってあげてから戻ってくると、アレクが岩を抱えたまま、立ち尽くしていた。
「あ、ごめんごめん。お待たせ」
「い、いえ……」
「そうだ、帰り道だったわね。王都に帰るんでしょ?」
「は、はい! おかげさまで、任務を……」
「それなら、ちょうどいい道ができたわよ」
私は、さっき自分の『万能調理ナイフ』で切り開いてしまった、森の遥か彼方まで続く巨大な更地を指差した。
「あそこを真っ直ぐ行けば、森は抜けられると思う。多分」
「た、多分……」
アレクの顔に疲労の色が滲む。
そうだよね、普通は森の中に突然ハイウェイみたいな道はできないもんね。
「本当に……何から何まで、ありがとうございました。この御恩は、僕……いえ、我々王国騎士団、そして王国が決して忘れません」
アレクはそう言うと、岩を降ろし、騎士として最高の敬礼を私に見せた。その表情は、一連の出来事を経て、恐怖や混乱から、純粋な尊敬と感謝へと変わっているように見えた。
「じゃあ、気をつけてね」
私が手を振って、アレクが踵を返し、その新たな道を一歩、踏み出そうとした、まさにその時だった。
ウィィィィン……
私たちの目の前の空間に、突如として青白い光が集まり始めた。光は複雑な魔法陣の形を成し、まるで鏡のように、向こう側の景色を映し出す。
『――繋がったか!』
魔法陣の中から、切羽詰まったような、それでいて威厳のある男性の声が響き渡った。
映し出されているのは、豪華な装飾の部屋。そして、高そうなローブを身にまとった、白髭の老人だった。
「な……! これは、国家レベルの『遠話』……!? 宮廷魔術師長!」
アレクが驚きの声を上げる。
え、何これ。迷惑な訪問販売か何か?
白髭の老人は、魔法陣の向こうから必死の形相で語りかけてくる。
『おお、そこにいるのはアレク・ランバート騎士か! 無事であったか! そして、その御方こそが……!』
老人の視線が、私に向けられる。
『おお……! なんという、穏やかで、それでいて底知れぬ魔力の奔流……! あなた様が、噂に聞く『森の賢者』様に違いありませんな!』
「だから、その賢者ってのは誰なのよ……」
私がボソッと呟くと、老人は構わず話を続けた。
『賢者様! どうかお聞き入れください! 王都が……王都が、今、未曾有の危機に瀕しております! 正体不明の魔物の大群が、王都の目前まで迫っているのです!』
「へえ、大変ねえ」
『どうか、あなた様のお力をお貸しいただきたい! この通りでございます!』
老人は、魔法陣の向こうで深々と頭を下げた。
王都の危機。魔物の大群。
なんだか、さっきからスケールの大きな話ばかりだ。
冒険に出る準備をしたいだけなのに、オークキングが出てきて、怪我した騎士様(♀)を拾って、畑が襲撃されて、新しいナイフが届いて、ペットが邪竜を拾ってくる。
そして今度は、王都を救え?
――私、ただのんびりスローライフがしたい元・貴族令嬢なんだけど。
私は、目の前で輝く魔法陣をじっと見つめると、一つ、深いため息をついて、こう呟いた。
「すみませんけど、今、取り込み中なんで。また後でかけてもらっていいですか?」
迷惑電話は、即切りが基本である。
私の咎めるような声にモフは、「くぅん」とまたまた悲しそうな鳴き声を漏らした。自慢のふわふわの尻尾はしょんぼりと垂れ下がり、大きな図体に似合わず、捨てられた子犬のような瞳で私を見上げてくる。
その足元には、まだピクピクと痙攣している銀色の巨大蛇。
アレクは、半ば放心状態になりつつあった。
「だから言ってるでしょ。拾い食いと、知らない子を勝手に連れてきちゃダメだって。この子、怪我してるじゃない。かわいそうに」
「ワン!」
私が言うと、モフは「この子弱ってたから助けてあげたんだよ!」とでも言いたげに、前足でバジリスクの体をツンツンとつついた。
「ま、待ってください、リリ殿!」
放心していたかと思ったアレクが、ハッと我に返って叫んだ。
「そいつに近づいては駄目だ! バジリスクの瞳を見た者は、石にされてしまう!」
「え? ああ、石化の魔眼のこと?」
私は特に気にもせず、バジリスクの巨大な頭の前にしゃがみ込むと、その銀色の鱗を優しく撫でた。閉じていた瞼がゆっくりと開き、中から爬虫類特有の、縦に裂けた瞳が覗く。
その瞳が、私をじっと見つめた。
「……ほら、大丈夫でしょ?」
「…………え?」
アレクは、石化するどころか、むしろ気持ちよさそうに目を細めるバジリスクと、平然としている私を交互に見て、完全に思考を停止させた。
「この子の魔眼、私がここに来たばっかりの頃に無効化しといたから。うちの近所でうっかり発動されても迷惑だし」
「無効化……した……? 伝説の魔物を……? どうやって……?」
「んー……気合?」
正確に言うと、魔眼を発動する魔力回路に直接干渉して、スイッチを切っただけなんだけど。説明するのも面倒くさい。
「それより、この子どうしようか。首筋に噛み傷があるわ。モフ、あなたじゃないでしょうね」
「クゥーン……」
「そう、違うならいいけど」
モフは私の大切な家族だ。普段はただの食いしん坊で甘えん坊な大きなわんこだけど、その正体は、神話にも語られる伝説の神獣フェンリル。まあ、本人にその自覚は全くないみたいだけど。
「仕方ないわね……。うちで手当てしてあげましょう。名前は……そうね、バッシーにしましょう」
「バッシー……」
アレクが、また一つ賢者の常識外れな行動を目撃して、遠い目をする。
「モフ、手伝って。裏の洞窟に運ぶから。あそこ、最近使ってないから客間にちょうどいいでしょ」
「ワフッ!」
モフは心得たとばかりに、バッシーの体を器用に咥えると、私と一緒に家の裏手へと運んでいく。その光景は、巨大な狼が巨大な蛇を運んでいるという現実離れしたもののはずなのに、なぜかひどく家庭的に見えた。
数分後、バッシーを洞窟に寝かせ、傷口に薬を塗ってあげてから戻ってくると、アレクが岩を抱えたまま、立ち尽くしていた。
「あ、ごめんごめん。お待たせ」
「い、いえ……」
「そうだ、帰り道だったわね。王都に帰るんでしょ?」
「は、はい! おかげさまで、任務を……」
「それなら、ちょうどいい道ができたわよ」
私は、さっき自分の『万能調理ナイフ』で切り開いてしまった、森の遥か彼方まで続く巨大な更地を指差した。
「あそこを真っ直ぐ行けば、森は抜けられると思う。多分」
「た、多分……」
アレクの顔に疲労の色が滲む。
そうだよね、普通は森の中に突然ハイウェイみたいな道はできないもんね。
「本当に……何から何まで、ありがとうございました。この御恩は、僕……いえ、我々王国騎士団、そして王国が決して忘れません」
アレクはそう言うと、岩を降ろし、騎士として最高の敬礼を私に見せた。その表情は、一連の出来事を経て、恐怖や混乱から、純粋な尊敬と感謝へと変わっているように見えた。
「じゃあ、気をつけてね」
私が手を振って、アレクが踵を返し、その新たな道を一歩、踏み出そうとした、まさにその時だった。
ウィィィィン……
私たちの目の前の空間に、突如として青白い光が集まり始めた。光は複雑な魔法陣の形を成し、まるで鏡のように、向こう側の景色を映し出す。
『――繋がったか!』
魔法陣の中から、切羽詰まったような、それでいて威厳のある男性の声が響き渡った。
映し出されているのは、豪華な装飾の部屋。そして、高そうなローブを身にまとった、白髭の老人だった。
「な……! これは、国家レベルの『遠話』……!? 宮廷魔術師長!」
アレクが驚きの声を上げる。
え、何これ。迷惑な訪問販売か何か?
白髭の老人は、魔法陣の向こうから必死の形相で語りかけてくる。
『おお、そこにいるのはアレク・ランバート騎士か! 無事であったか! そして、その御方こそが……!』
老人の視線が、私に向けられる。
『おお……! なんという、穏やかで、それでいて底知れぬ魔力の奔流……! あなた様が、噂に聞く『森の賢者』様に違いありませんな!』
「だから、その賢者ってのは誰なのよ……」
私がボソッと呟くと、老人は構わず話を続けた。
『賢者様! どうかお聞き入れください! 王都が……王都が、今、未曾有の危機に瀕しております! 正体不明の魔物の大群が、王都の目前まで迫っているのです!』
「へえ、大変ねえ」
『どうか、あなた様のお力をお貸しいただきたい! この通りでございます!』
老人は、魔法陣の向こうで深々と頭を下げた。
王都の危機。魔物の大群。
なんだか、さっきからスケールの大きな話ばかりだ。
冒険に出る準備をしたいだけなのに、オークキングが出てきて、怪我した騎士様(♀)を拾って、畑が襲撃されて、新しいナイフが届いて、ペットが邪竜を拾ってくる。
そして今度は、王都を救え?
――私、ただのんびりスローライフがしたい元・貴族令嬢なんだけど。
私は、目の前で輝く魔法陣をじっと見つめると、一つ、深いため息をついて、こう呟いた。
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