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第5話 巨大すぎるペットです
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「おうよ! 頼まれてた『アレ』、試作品ができたから持ってきたぜ!」
ドワーフのおっちゃん――ギム爺は、そう言うと背負っていた長大な包みを地面にドサリと置いた。鈍い金属の塊のような重い音がする。
「おお! 早いじゃない、ギム爺! ありがとう!」
「おうともよ! リリーの頼みとあっちゃあ、どんな注文だって最優先だ!」
ガハハ、と豪快に笑うギム爺。
彼はこの森の地下深くに住むドワーフ一族の長老で、凄腕の鍛冶師だ。
私が森に来たばかりの頃、巨大な地底ミミズに襲われているところを助けて以来の付き合いになる。
「それで、頼んでた『万能調理ナイフ』、どうなった?」
「ああ、こいつだ!」
ギム爺が布を剥ぎ取ると、中から現れたのは、黒曜石のように鈍く輝く巨大な刃だった。
全長は私の身長ほどもあり、刀身には禍々しい龍の紋様が刻まれ、柄頭には不気味な光を放つ魔石が埋め込まれている。
もはやナイフどころか、魔王が持つ最終兵と兵器でも言うべき代物だ
アレクはそれを見て、ひっと息を呑んだ。
「な……なんという邪気を放つ剣……。あれは……伝説の魔剣グラム……いや、それ以上か……!?」
「ん? 剣じゃないわよ。これは調理ナイフ」
「調理ナイフ!?」
アレクが驚愕の声を上げる。そりゃそうだ。
私も初めて自分のデザイン画を渡した時、ギム爺に「お前はこれで何を斬るつもりじゃ」と真顔で訊かれたもの。
「いやあ、苦労したぜ。リリーの要望通り、『どんな硬い食材もストレスなく切れて、ついでに薪割りもできて、切れ味が絶対に落ちない』ように作るのにはな。ドラゴンの鱗を溶かして、星の欠片を打ち込んで、仕上げに奈落の炎で焼き入れしてやったわい」
「そんな物騒な素材使ったの!? さすがギム爺! 仕事が丁寧!」
「褒めても何も出んぞ! ……で、嬢ちゃんよ」
ギム爺はニヤリと笑うと、アレクの方を向いた。
「こいつの試し斬りに、ちいと付き合っちゃくれんか?」
「へっ!? わ、私ですか!?」
「やめなさいよギム爺。アレクは客人なんだから」
「分かっとるわい、冗談だ。試し斬りの相手なら、そこにちょうどええのが転がっとるじゃねえか」
ギム爺が指差したのは、家の前に放置されたままのオークキングの半身だった。
「よしきた! それじゃあ早速……」
私はギム爺から『万能調理ナイフ』を受け取る。ズシリとした重みが手に馴染む。
うん、素晴らしいバランスだ。
「リ、リリ殿! そのような凶悪な武器を、素手で……!?」
「え? だってナイフだし」
私はアレクの心配をよそに、オークキングの巨体の前に立つと、新しいナイフを軽く振り上げた。
狙うは、夕飯用のロース肉。まずは薄切りにして、塩コショウで焼くのがいいかしら。
「ふんっ」
カマンベールチーズを切るくらいの軽い力で、刃を振り下ろす。
その瞬間、キィィィィィンッ! という甲高い音と共に、空間が歪んだような衝撃波が発生した。
オークキングの巨体は、まるでミキサーにでもかけられたかのように完璧なミンチ肉へと姿を変えた。
それだけではない。
衝撃波はそのまま森の奥へと突き進み、木々をなぎ倒し、大地をえぐり、視線の先にあったはずの小高い丘を、綺麗さっぱり消し飛ばしていた。
後には、どこまでも続く、巨大な更地が残るのみ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
私と、アレクと、ギム爺。三人の間に、気まずい沈黙が流れる。
やがて、一番最初に口を開いたのは、制作者であるギム爺だった。
「……アッハッハッハ! こいつは傑作だ! ちいと切れ味を良くしすぎたわい!」
「……うん。ちょっと切れすぎかな。これじゃあ、薄切りにするのが難しいわ」
私とギム爺が呑気に反省会を始めていると、背後で「……かみさま……」という、か細い声が聞こえた。
振り返ると、アレクが両膝から崩れ落ち、虚空を見上げてうわ言のようにつぶやいている。白目を剥いて、泡を吹いていないだけマシだろうか。
「あ、アレク!? 大丈夫!?」
「……僕が今まで信じてきた『常識』とか『物理法則』とか、全部ただの幻想だったんですね……」
「しっかりして!」
どうやら、彼のメンタルは限界を迎えつつあるようだ。
これはまずい。早く月光苔を渡して、王都に帰してあげないと、この子の正気が危ない。
「分かった、分かったから! 月光苔ね! 今すぐあげるから!」
私はアレクをなんとか立ち上がらせると、家の壁際に生えている月光苔を、手頃な岩ごとゴッソリと剥がした。
「ほら、これだけあれば王女様一人くらい、余裕で治るでしょ。なんなら蘇生もできると思う」
「……岩ごと……。ありがとうございます……。この御恩は、生涯忘れません……」
もはや何の感情も読み取れない声で礼を言うアレク。その手に岩を渡した、その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ……。
森の奥から、何か巨大な生き物が近づいてくる足音が聞こえた。
さっき私が更地にしてしまった方角からだ。
やがて、木々の間から姿を現したのは、家よりも大きな、純白の毛並みを持つ巨大な狼だった。その口には、獲物らしきものをぶら下げている。
「ワン!」
巨大な狼は、嬉しそうに一声鳴くと、私の方へとしっぽを振りながら駆け寄ってきた。
そして、私の足元に、口にくわえていた『お土産』をコトンと置く。
それは、銀色に輝く鱗に覆われた、全長20メートルはあろうかという巨大な蛇だった。
まだピクピクと動いている。
「…………」
私は天を仰いだ。
その横でアレクが小さな声で呟く。
「……バジリスク……? なぜ森に、伝説の邪竜が……」
「モフ……」
私は愛犬の名前を呼んだ。
「お散歩から帰ってくるのはいいけど……いつも言ってるでしょ。拾い食いと、知らない子を勝手に連れてきちゃダメだって」
私の言葉に、巨大な狼――モフは、「くぅん」と悲しそうな鳴き声を漏らして、大きな耳をしゅんとさせた。
ああ、もう!
ドワーフのおっちゃん――ギム爺は、そう言うと背負っていた長大な包みを地面にドサリと置いた。鈍い金属の塊のような重い音がする。
「おお! 早いじゃない、ギム爺! ありがとう!」
「おうともよ! リリーの頼みとあっちゃあ、どんな注文だって最優先だ!」
ガハハ、と豪快に笑うギム爺。
彼はこの森の地下深くに住むドワーフ一族の長老で、凄腕の鍛冶師だ。
私が森に来たばかりの頃、巨大な地底ミミズに襲われているところを助けて以来の付き合いになる。
「それで、頼んでた『万能調理ナイフ』、どうなった?」
「ああ、こいつだ!」
ギム爺が布を剥ぎ取ると、中から現れたのは、黒曜石のように鈍く輝く巨大な刃だった。
全長は私の身長ほどもあり、刀身には禍々しい龍の紋様が刻まれ、柄頭には不気味な光を放つ魔石が埋め込まれている。
もはやナイフどころか、魔王が持つ最終兵と兵器でも言うべき代物だ
アレクはそれを見て、ひっと息を呑んだ。
「な……なんという邪気を放つ剣……。あれは……伝説の魔剣グラム……いや、それ以上か……!?」
「ん? 剣じゃないわよ。これは調理ナイフ」
「調理ナイフ!?」
アレクが驚愕の声を上げる。そりゃそうだ。
私も初めて自分のデザイン画を渡した時、ギム爺に「お前はこれで何を斬るつもりじゃ」と真顔で訊かれたもの。
「いやあ、苦労したぜ。リリーの要望通り、『どんな硬い食材もストレスなく切れて、ついでに薪割りもできて、切れ味が絶対に落ちない』ように作るのにはな。ドラゴンの鱗を溶かして、星の欠片を打ち込んで、仕上げに奈落の炎で焼き入れしてやったわい」
「そんな物騒な素材使ったの!? さすがギム爺! 仕事が丁寧!」
「褒めても何も出んぞ! ……で、嬢ちゃんよ」
ギム爺はニヤリと笑うと、アレクの方を向いた。
「こいつの試し斬りに、ちいと付き合っちゃくれんか?」
「へっ!? わ、私ですか!?」
「やめなさいよギム爺。アレクは客人なんだから」
「分かっとるわい、冗談だ。試し斬りの相手なら、そこにちょうどええのが転がっとるじゃねえか」
ギム爺が指差したのは、家の前に放置されたままのオークキングの半身だった。
「よしきた! それじゃあ早速……」
私はギム爺から『万能調理ナイフ』を受け取る。ズシリとした重みが手に馴染む。
うん、素晴らしいバランスだ。
「リ、リリ殿! そのような凶悪な武器を、素手で……!?」
「え? だってナイフだし」
私はアレクの心配をよそに、オークキングの巨体の前に立つと、新しいナイフを軽く振り上げた。
狙うは、夕飯用のロース肉。まずは薄切りにして、塩コショウで焼くのがいいかしら。
「ふんっ」
カマンベールチーズを切るくらいの軽い力で、刃を振り下ろす。
その瞬間、キィィィィィンッ! という甲高い音と共に、空間が歪んだような衝撃波が発生した。
オークキングの巨体は、まるでミキサーにでもかけられたかのように完璧なミンチ肉へと姿を変えた。
それだけではない。
衝撃波はそのまま森の奥へと突き進み、木々をなぎ倒し、大地をえぐり、視線の先にあったはずの小高い丘を、綺麗さっぱり消し飛ばしていた。
後には、どこまでも続く、巨大な更地が残るのみ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
私と、アレクと、ギム爺。三人の間に、気まずい沈黙が流れる。
やがて、一番最初に口を開いたのは、制作者であるギム爺だった。
「……アッハッハッハ! こいつは傑作だ! ちいと切れ味を良くしすぎたわい!」
「……うん。ちょっと切れすぎかな。これじゃあ、薄切りにするのが難しいわ」
私とギム爺が呑気に反省会を始めていると、背後で「……かみさま……」という、か細い声が聞こえた。
振り返ると、アレクが両膝から崩れ落ち、虚空を見上げてうわ言のようにつぶやいている。白目を剥いて、泡を吹いていないだけマシだろうか。
「あ、アレク!? 大丈夫!?」
「……僕が今まで信じてきた『常識』とか『物理法則』とか、全部ただの幻想だったんですね……」
「しっかりして!」
どうやら、彼のメンタルは限界を迎えつつあるようだ。
これはまずい。早く月光苔を渡して、王都に帰してあげないと、この子の正気が危ない。
「分かった、分かったから! 月光苔ね! 今すぐあげるから!」
私はアレクをなんとか立ち上がらせると、家の壁際に生えている月光苔を、手頃な岩ごとゴッソリと剥がした。
「ほら、これだけあれば王女様一人くらい、余裕で治るでしょ。なんなら蘇生もできると思う」
「……岩ごと……。ありがとうございます……。この御恩は、生涯忘れません……」
もはや何の感情も読み取れない声で礼を言うアレク。その手に岩を渡した、その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ……。
森の奥から、何か巨大な生き物が近づいてくる足音が聞こえた。
さっき私が更地にしてしまった方角からだ。
やがて、木々の間から姿を現したのは、家よりも大きな、純白の毛並みを持つ巨大な狼だった。その口には、獲物らしきものをぶら下げている。
「ワン!」
巨大な狼は、嬉しそうに一声鳴くと、私の方へとしっぽを振りながら駆け寄ってきた。
そして、私の足元に、口にくわえていた『お土産』をコトンと置く。
それは、銀色に輝く鱗に覆われた、全長20メートルはあろうかという巨大な蛇だった。
まだピクピクと動いている。
「…………」
私は天を仰いだ。
その横でアレクが小さな声で呟く。
「……バジリスク……? なぜ森に、伝説の邪竜が……」
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私は愛犬の名前を呼んだ。
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