公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

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第12話 15年ぶりの浦島太郎、街に着く

 ​森の外の道は歩きやすかった。
 昔はもっと獣道に近かったはずなのに、今は綺麗に踏み固められている。これも15年という歳月の力だろうか。

 ​道中、何度か魔物の気配がした。ガサガサと茂みを揺らす音、低い唸り声。
 でも不思議なことに、私が通りかかると、その気配は蜘蛛の子を散らすように消えていく。

​「……森の外の魔物は、人見知りなのかしら?」

 ​私の姿を見て恥ずかしがって隠れてしまったのだろう。そうに違いない。

 ​そんなことを考えながら超人的なペースで歩き続けること、約一時間。

 半日はかかると記憶していた道のりは、あっという間に終わりを告げた。
 目の前の丘を越えれば、そこにはリーフサイドの街が見えるはずだ。

​「懐かしいわねえ。昔はよく、お父様……じゃなくて、公爵に連れられて……」

 ​昔を懐かしみながら丘の頂上に立った私は、目の前に広がる光景に思わず言葉を失った。

​「…………え?」

 ​そこに広がっていたのは、私の記憶にある『リーフサイド村』ではなかった。
 のどかな田園風景に、小さな家々が寄り添うように建っていた、あの素朴な村はどこにもない。
 代わりに高く立派な石壁にぐるりと囲まれた、活気あふれる大きな『街』が鎮座していたのだ。

​「か、壁……。なんで壁なんて作ってるの? 流行り?」

 ​私の頭の中の地図が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
 どうやら15年という月日は、私が思っていた以上に世界を大きく変えてしまったらしい。

 ​呆然としながらも、私は街の入り口――大きな城門へと向かった。
 門の前では、いかめしい鎧を着た兵士が二人、槍を構えて立っている。昔は村の入り口に昼寝してるおじさんが一人いるだけだったのに。すごい出世だ。

​「止まれ! 何者だ!」

 ​私が門をくぐろうとすると、兵士の一人が鋭い声で制止した。フードで顔を隠している私が、いかにも怪しいということなのだろう。

​「こんにちは。ちょっと、お砂糖を買いに……」

「身分を証明する物を見せろ! 持っていなければ、入街税として銀貨二枚を支払え!」

「みぶん……? 」

 ​知らない単語が二つも出てきた。パニックだ。身分証なんて持ってないし、お金もこれから稼ぐところだ。

​「あの、お金は持ってなくて……。この葉っぱじゃ、ダメですか?」

​ 私は道端に落ちていた、綺麗な紅葉の葉っぱを差し出した。
 兵士の顔がみるみるうちに険しくなっていく。

​「……ふざけているのか、貴様!」

「ひっ! い、いえ、そんなつもりは……!」

 ​まずい。どうやら葉っぱは通貨として認められていないらしい。15年の間に貨幣経済がここまで進んでいたとは。
 ​兵士が、私を捕らえようと乱暴に腕を伸ばしてくる。

 面倒なことになった、と思った、その時。
 ​兵士の指が、私のクロークに触れるか触れないかのところで、ぴたり、と止まった。

​「……う、うっ……?」

 ​兵士は急に顔を真っ青にして、ガタガタと震え始めた。まるで目に見えない巨大な何かに睨まれたかのように。

​「ど、どうした、ゴードン!」

「わ、分からん……。急に、悪寒が……。こいつ……何か、ヤバい……」

​ 私の『虫除けクローク』が、その聖なる力で不埒な人間を自動的に威嚇してくれたらしい。 便利だ。

​「……ちっ。分かった、行け! だが、街で問題を起こすなよ!」

 ​兵士たちは、なぜか私から距離を取りながら道を開けてくれた。
 よく分からないけど、通してもらえるなら、それに越したことはない。

​「ありがとうございます」

​ 私はぺこりとお辞儀をして、ようやくリーフサイドの街に15年ぶりの一歩を踏み入れた。

​「うわぁ……」

 ​門をくぐった先は、まさに別世界だった。
 石畳の道、ずらりと並んだ煉瓦造りの建物、そして人の波。行き交う人々の喧騒、露店から漂う美味しそうな匂い、鍛冶屋から聞こえる槌の音。

 15年間、森の静寂に慣れきった私の耳には、その全てが、少しうるさくて、だけど、どこか心地よい音楽のように響いた。

 ​見たこともない魔道具が店先で光を放ち、ゴーレムが荷馬車の代わりに荷物を運んでいる。
 何もかもが、私の知らないものばかりだ。

​「すごい……。完全におのぼりさんだわ、私……」

 ​私は完全に浦島太郎状態だった。
 とりあえずの目的は、持ってきた『石』を売って、お金を手に入れること。それから雑貨屋で砂糖を買うことだ。

​「確か、村長の家の隣に、何でも屋のゴードンさんのお店が……」

 ​記憶を頼りに歩き出すが、すぐに自分がどこにいるのか分からなくなった。道も、建物も、何もかもが変わり果てて、私の知っている村の面影はどこにもない。

 ​完全に迷子だ。
 途方に暮れて、私は大きな建物の壁に寄りかかった。どうやら酒場か食堂のようだ。中から、陽気な男たちの声が聞こえてくる。

 ​どうしようか、誰かに道を尋ねるべきだろうか。
 そう悩んでいた私の耳に酒場の中から、ひときわ大きな声が飛び込んできた。

​「――聞いたか!? あの『呪われた森』の魔物共が一夜にして全滅したって話!」

「おうよ! なんでも東の空がピカッと光ったと思ったら、軍勢が木っ端微塵になってたらしいぜ!」

​――呪われた森?

 ああ、私の家のことだ。

​「王国が、その原因を突き止めた奴に、莫大な報奨金を出すってよ!」

「マジかよ! どんな化け物がやったんだか知らねえが……そいつを見つけりゃ、一生遊んで暮らせるってわけか!」

 ​男たちの下品な笑い声。

 私は、その場に凍りついた。
 ​魔物の軍勢を殲滅したのは、私だ。
 つまり、その『化け物』というのは、私のことだ。

​……まずい。非常に、まずいことになった。

 私、今、とんでもないお尋ね者になっているのでは?

 ​ただ、お砂糖を買いに来ただけなのに。
 どうしてこう、次から次へと面倒事が増えるのか。

 ​私はクロークのフードを、さらに深く深く被り直した。
 これは思った以上に、慎重に行動しないと、とんでもないことになりそうだ。
 私のお使いという名の初冒険は、開始早々、暗雲が立ち込めていた。
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