公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

文字の大きさ
12 / 63

第12話 15年ぶりの浦島太郎、街に着く

しおりを挟む
 ​森の外の道は歩きやすかった。
 昔はもっと獣道に近かったはずなのに、今は綺麗に踏み固められている。これも15年という歳月の力だろうか。

 ​道中、何度か魔物の気配がした。ガサガサと茂みを揺らす音、低い唸り声。
 でも不思議なことに、私が通りかかると、その気配は蜘蛛の子を散らすように消えていく。

​「……森の外の魔物は、人見知りなのかしら?」

 ​私の姿を見て恥ずかしがって隠れてしまったのだろう。そうに違いない。

 ​そんなことを考えながら超人的なペースで歩き続けること、約一時間。

 半日はかかると記憶していた道のりは、あっという間に終わりを告げた。
 目の前の丘を越えれば、そこにはリーフサイドの街が見えるはずだ。

​「懐かしいわねえ。昔はよく、お父様……じゃなくて、公爵に連れられて……」

 ​昔を懐かしみながら丘の頂上に立った私は、目の前に広がる光景に思わず言葉を失った。

​「…………え?」

 ​そこに広がっていたのは、私の記憶にある『リーフサイド村』ではなかった。
 のどかな田園風景に、小さな家々が寄り添うように建っていた、あの素朴な村はどこにもない。
 代わりに高く立派な石壁にぐるりと囲まれた、活気あふれる大きな『街』が鎮座していたのだ。

​「か、壁……。なんで壁なんて作ってるの? 流行り?」

 ​私の頭の中の地図が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
 どうやら15年という月日は、私が思っていた以上に世界を大きく変えてしまったらしい。

 ​呆然としながらも、私は街の入り口――大きな城門へと向かった。
 門の前では、いかめしい鎧を着た兵士が二人、槍を構えて立っている。昔は村の入り口に昼寝してるおじさんが一人いるだけだったのに。すごい出世だ。

​「止まれ! 何者だ!」

 ​私が門をくぐろうとすると、兵士の一人が鋭い声で制止した。フードで顔を隠している私が、いかにも怪しいということなのだろう。

​「こんにちは。ちょっと、お砂糖を買いに……」

「身分を証明する物を見せろ! 持っていなければ、入街税として銀貨二枚を支払え!」

「みぶん……? 」

 ​知らない単語が二つも出てきた。パニックだ。身分証なんて持ってないし、お金もこれから稼ぐところだ。

​「あの、お金は持ってなくて……。この葉っぱじゃ、ダメですか?」

​ 私は道端に落ちていた、綺麗な紅葉の葉っぱを差し出した。
 兵士の顔がみるみるうちに険しくなっていく。

​「……ふざけているのか、貴様!」

「ひっ! い、いえ、そんなつもりは……!」

 ​まずい。どうやら葉っぱは通貨として認められていないらしい。15年の間に貨幣経済がここまで進んでいたとは。
 ​兵士が、私を捕らえようと乱暴に腕を伸ばしてくる。

 面倒なことになった、と思った、その時。
 ​兵士の指が、私のクロークに触れるか触れないかのところで、ぴたり、と止まった。

​「……う、うっ……?」

 ​兵士は急に顔を真っ青にして、ガタガタと震え始めた。まるで目に見えない巨大な何かに睨まれたかのように。

​「ど、どうした、ゴードン!」

「わ、分からん……。急に、悪寒が……。こいつ……何か、ヤバい……」

​ 私の『虫除けクローク』が、その聖なる力で不埒な人間を自動的に威嚇してくれたらしい。 便利だ。

​「……ちっ。分かった、行け! だが、街で問題を起こすなよ!」

 ​兵士たちは、なぜか私から距離を取りながら道を開けてくれた。
 よく分からないけど、通してもらえるなら、それに越したことはない。

​「ありがとうございます」

​ 私はぺこりとお辞儀をして、ようやくリーフサイドの街に15年ぶりの一歩を踏み入れた。

​「うわぁ……」

 ​門をくぐった先は、まさに別世界だった。
 石畳の道、ずらりと並んだ煉瓦造りの建物、そして人の波。行き交う人々の喧騒、露店から漂う美味しそうな匂い、鍛冶屋から聞こえる槌の音。

 15年間、森の静寂に慣れきった私の耳には、その全てが、少しうるさくて、だけど、どこか心地よい音楽のように響いた。

 ​見たこともない魔道具が店先で光を放ち、ゴーレムが荷馬車の代わりに荷物を運んでいる。
 何もかもが、私の知らないものばかりだ。

​「すごい……。完全におのぼりさんだわ、私……」

 ​私は完全に浦島太郎状態だった。
 とりあえずの目的は、持ってきた『石』を売って、お金を手に入れること。それから雑貨屋で砂糖を買うことだ。

​「確か、村長の家の隣に、何でも屋のゴードンさんのお店が……」

 ​記憶を頼りに歩き出すが、すぐに自分がどこにいるのか分からなくなった。道も、建物も、何もかもが変わり果てて、私の知っている村の面影はどこにもない。

 ​完全に迷子だ。
 途方に暮れて、私は大きな建物の壁に寄りかかった。どうやら酒場か食堂のようだ。中から、陽気な男たちの声が聞こえてくる。

 ​どうしようか、誰かに道を尋ねるべきだろうか。
 そう悩んでいた私の耳に酒場の中から、ひときわ大きな声が飛び込んできた。

​「――聞いたか!? あの『呪われた森』の魔物共が一夜にして全滅したって話!」

「おうよ! なんでも東の空がピカッと光ったと思ったら、軍勢が木っ端微塵になってたらしいぜ!」

​――呪われた森?

 ああ、私の家のことだ。

​「王国が、その原因を突き止めた奴に、莫大な報奨金を出すってよ!」

「マジかよ! どんな化け物がやったんだか知らねえが……そいつを見つけりゃ、一生遊んで暮らせるってわけか!」

 ​男たちの下品な笑い声。

 私は、その場に凍りついた。
 ​魔物の軍勢を殲滅したのは、私だ。
 つまり、その『化け物』というのは、私のことだ。

​……まずい。非常に、まずいことになった。

 私、今、とんでもないお尋ね者になっているのでは?

 ​ただ、お砂糖を買いに来ただけなのに。
 どうしてこう、次から次へと面倒事が増えるのか。

 ​私はクロークのフードを、さらに深く深く被り直した。
 これは思った以上に、慎重に行動しないと、とんでもないことになりそうだ。
 私のお使いという名の初冒険は、開始早々、暗雲が立ち込めていた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

獣舎の全魔獣を管理していた私を、無能呼ばわりで解雇ですか?じゃあ好き勝手に旅をします。困っても知りません。

藤 ゆみ子
ファンタジー
光属性の魔力を持つフィーナは聖女の一人として王宮に就職するが、一向に治癒魔法を使うことができなかった。聖女として働けないと解雇されるが、帰る家なんてない。  そんな時、日々の癒しのためにこっそり行っていた獣舎の魔獣たちが騎士団長グランディに頼み、獣舎の掃除婦として働くことに。  実はフィーナの持つ魔力は人ではなく、魔獣や魔物に使えるものだった。  無自覚に使い魔たちを癒していたフィーナだったが、グランディに気に入られていることに不満を持つ王女に解雇されてしまう。  フィーナは王女の命令なら仕方ないと王宮を出る。  今だ見たこともない魔獣と出会うため、かつての親友だった魔獣のキュウと再会するために旅に出ることにするが、思わぬ事件や問題に巻き込まれていく。  一方でグランディや魔獣たちはフィーナを取り戻すため奮闘する。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...