公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

文字の大きさ
15 / 63

第15話 やっと買えたお砂糖

​「雑貨屋なら、ここが一番品揃えがいいよ。『ポポルのおみせ』。生活雑貨から、ちょっとした冒険者グッズまで、何でも揃ってる」

​ フィオナは一軒の店の前で足を止めると、肩に担いだマグロの頭で器用に看板を指し示した。
 それは、いかにも温かそうな、木の温もりを感じさせる店構えだった。店先には色とりどりのハーブの鉢植えが並んでいる。

​「ありがとうございます。本当に助かりました」

「いいってことよ。じゃ、私はギルドに行くから。また何か困ったことがあったら、いつでも声をかけておいで」

 ​そう言うと、フィオナは「じゃあな!」と片手を上げ、マグロと共に去っていった。
 その背中は、どこまでも颯爽としていて格好良かった。

『赤き疾風』。
 まさに、その二つ名にふさわしい人だ。

 ​私は彼女の背中が見えなくなるまで見送ると、改めて店の扉に向き直った。

 カランコロン、と軽やかなベルの音と共に店に入る。

 ​店内は、ハーブの良い香りと、なんだか懐かしいような生活の匂いで満ちていた。壁際には所狭しと商品が並べられている。
 鍋やフライパンなどの調理器具、色とりどりの布、様々な種類の薬草やスパイスの瓶。

 私が求めていたものが、全てここにあった。

​「あら、いらっしゃい」

 ​カウンターの奥から、ふくよかな体つきの優しそうなおかみさんが、にこやかに顔を上げた。多分、この方がポポルさんだ

​「……あの、お砂糖と、お塩を……」

「はいよ。お砂糖は黒いのと白いの、どっちがいいかね? 黒い方はコクがあって、煮込み料理に合うよ」

「あ、じゃあ、両方お願いします。あと香辛料もいくつか……」

​ 私はそこから夢中になった。

 15年間、森の恵みだけで味付けをしてきた私にとって、店に並ぶスパイスの数々は、まさに宝の山だった。シナモン、ナツメグ、クローブ、チリペッパー……。
 名前を聞くだけで、どんな料理が作れるだろうかと、想像が膨らんでいく。 

​「あらあら、お嬢ちゃん、料理が好きなんだねえ」

「はい! ……多分」

 ​森では、食べるために作っていただけだけど、これだけの材料があれば、料理はもっとずっと楽しくなるに違いない。

 ​結局、私は当初の目的だった砂糖と塩に加えて、両手で抱えきれないほどの香辛料と、ついでに新しいフライパンまで買ってしまった。
 代金は、バルタザールさんからもらった白金貨を一枚出すと、ポポルさんは目を丸くして、

「お釣りがないよ!」

 と嬉しい悲鳴を上げていた。
 結局、ほとんどおまけしてもらう形で、なんとか支払いを終える。

 ​店の外に出た時には、私の両手はたくさんの買い物袋でいっぱいだった。
 ずっしりとした重みが心地よい。

​「……さて、と」

 ​目的は全て達成した。
 あとは、一刻も早く、我が家へ帰るだけだ。
 報奨金目当ての冒険者に見つかる前に。面倒なことになる前に。

 ​私は、来た時と同じように、人目を避けながら街の門へと急いだ。幸い、誰にも絡まれることなく、門にたどり着くことができた。
 門番の兵士は、私を見るなり、なぜかサッと道を開けてくれる。
 『虫除けクローク』は、本当に優秀だ。

 ​街の壁を一歩、外に出る。
 途端に、喧騒が遠のき、静かな風の音が耳に届いた。
 たった半日ほどの滞在だったけど、なんだかひどく疲れた気がする。文明社会は、私にはまだ早すぎたのかもしれない。

​「……でも」

 ​私は買い物袋の中を覗き込んだ。
 そこには、今日の戦利品がぎっしりと詰まっている。

​「悪いことばかりでも、なかったかな」

 ​フィオナさんという親切な冒険者にも出会えた。

 バルタザールさんのような、面白い商人もいた。

 ポポルさんの店の、あの温かい雰囲気も悪くなかった。

 ​外の世界も、捨てたものじゃないのかもしれない。

​「よし、帰ろう! みんなが待ってるわ!」

 ​私は森へと続く道を、今度は来た時よりもずっと軽い足取りで歩き始めた。

 今日の夕飯は、オーク肉のハンバーグだ。新しいスパイスを使えば、きっと、とんでもなく美味しくなるに違いない。
 ​頭の中は、すでに夕飯のことでいっぱいだった。

 冒険の準備リストのことなんて、すっかり忘れて。こうして、私の記念すべき初のお使いミッションは、様々なハプニングに見舞われながらも、なんとか無事に幕を閉じた。

 これで、ようやく平穏なスローライフに戻れる。

 明日からは、心置きなく、冒険の準備を進められるはずだ。
感想 25

あなたにおすすめの小説

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

『なでなで』しかできないと追放されたテイマー少女、無自覚に神獣をワンコ化して無双する

葉山 乃愛
ファンタジー
「お前の『なでなで』なんてゴミスキル、戦闘じゃの役にも立たねえんだよ!」 冒険者パーティーを無情にクビにされたテイマーの少女・ミレーヌ。 彼女の持つスキルは、対象を優しく撫でるだけの、攻撃力ゼロ、射程距離ゼロのハズレ枠。 行く当てもなく、命の保証もない『迷いの森』へ迷い込んだ彼女が出会ったのは、一匹の「大きな黒いワンちゃん」だった。 「わあ、フワフワ! よしよし、寂しかったの?」 空腹で死にかけ、ただモフモフに癒やされたかったミレーヌは、持ち前のスキルでその巨体を撫で回す。 だが、彼女は知らなかった。 そのワンちゃんの正体が、かつて世界を終焉に導きかけた伝説の神獣『フェンリル』であることを。 そして、ミレーヌの「なでなで」は、ただの愛撫ではなかった。 どんな凶悪な魔物も一瞬で野生を失い、絶対の忠誠を誓う「神の愛撫」だったのだ! 「次は大きな赤いトカゲさん? 鱗がツヤツヤで綺麗だね!」 伝説の赤竜(レッドドラゴン)さえも「アカくん」と名付けてペットにし、ミレーヌは危険地帯のど真ん中に、世にも恐ろしい(本人は幸せな)モフモフ・スローライフを築き上げていく。 一方、彼女を捨てた元パーティーや、異常事態を察知した王国騎士団は、ミレーヌの背後に控える「終末の軍団(※ただのペット)」を見て、泡を吹いて絶望することになるのだが……。 「みんな、とってもいい子ですよ?」 本人はどこまでも無自覚。 最強の神獣たちを従えた、少女ののんびり無双劇が今、幕を開ける!

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。