公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

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第15話 やっと買えたお砂糖

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​「雑貨屋なら、ここが一番品揃えがいいよ。『ポポルのおみせ』。生活雑貨から、ちょっとした冒険者グッズまで、何でも揃ってる」

​ フィオナは一軒の店の前で足を止めると、肩に担いだマグロの頭で器用に看板を指し示した。
 それは、いかにも温かそうな、木の温もりを感じさせる店構えだった。店先には色とりどりのハーブの鉢植えが並んでいる。

​「ありがとうございます。本当に助かりました」

「いいってことよ。じゃ、私はギルドに行くから。また何か困ったことがあったら、いつでも声をかけておいで」

 ​そう言うと、フィオナは「じゃあな!」と片手を上げ、マグロと共に去っていった。
 その背中は、どこまでも颯爽としていて格好良かった。

『赤き疾風』。
 まさに、その二つ名にふさわしい人だ。

 ​私は彼女の背中が見えなくなるまで見送ると、改めて店の扉に向き直った。

 カランコロン、と軽やかなベルの音と共に店に入る。

 ​店内は、ハーブの良い香りと、なんだか懐かしいような生活の匂いで満ちていた。壁際には所狭しと商品が並べられている。
 鍋やフライパンなどの調理器具、色とりどりの布、様々な種類の薬草やスパイスの瓶。

 私が求めていたものが、全てここにあった。

​「あら、いらっしゃい」

 ​カウンターの奥から、ふくよかな体つきの優しそうなおかみさんが、にこやかに顔を上げた。多分、この方がポポルさんだ

​「……あの、お砂糖と、お塩を……」

「はいよ。お砂糖は黒いのと白いの、どっちがいいかね? 黒い方はコクがあって、煮込み料理に合うよ」

「あ、じゃあ、両方お願いします。あと香辛料もいくつか……」

​ 私はそこから夢中になった。

 15年間、森の恵みだけで味付けをしてきた私にとって、店に並ぶスパイスの数々は、まさに宝の山だった。シナモン、ナツメグ、クローブ、チリペッパー……。
 名前を聞くだけで、どんな料理が作れるだろうかと、想像が膨らんでいく。 

​「あらあら、お嬢ちゃん、料理が好きなんだねえ」

「はい! ……多分」

 ​森では、食べるために作っていただけだけど、これだけの材料があれば、料理はもっとずっと楽しくなるに違いない。

 ​結局、私は当初の目的だった砂糖と塩に加えて、両手で抱えきれないほどの香辛料と、ついでに新しいフライパンまで買ってしまった。
 代金は、バルタザールさんからもらった白金貨を一枚出すと、ポポルさんは目を丸くして、

「お釣りがないよ!」

 と嬉しい悲鳴を上げていた。
 結局、ほとんどおまけしてもらう形で、なんとか支払いを終える。

 ​店の外に出た時には、私の両手はたくさんの買い物袋でいっぱいだった。
 ずっしりとした重みが心地よい。

​「……さて、と」

 ​目的は全て達成した。
 あとは、一刻も早く、我が家へ帰るだけだ。
 報奨金目当ての冒険者に見つかる前に。面倒なことになる前に。

 ​私は、来た時と同じように、人目を避けながら街の門へと急いだ。幸い、誰にも絡まれることなく、門にたどり着くことができた。
 門番の兵士は、私を見るなり、なぜかサッと道を開けてくれる。
 『虫除けクローク』は、本当に優秀だ。

 ​街の壁を一歩、外に出る。
 途端に、喧騒が遠のき、静かな風の音が耳に届いた。
 たった半日ほどの滞在だったけど、なんだかひどく疲れた気がする。文明社会は、私にはまだ早すぎたのかもしれない。

​「……でも」

 ​私は買い物袋の中を覗き込んだ。
 そこには、今日の戦利品がぎっしりと詰まっている。

​「悪いことばかりでも、なかったかな」

 ​フィオナさんという親切な冒険者にも出会えた。

 バルタザールさんのような、面白い商人もいた。

 ポポルさんの店の、あの温かい雰囲気も悪くなかった。

 ​外の世界も、捨てたものじゃないのかもしれない。

​「よし、帰ろう! みんなが待ってるわ!」

 ​私は森へと続く道を、今度は来た時よりもずっと軽い足取りで歩き始めた。

 今日の夕飯は、オーク肉のハンバーグだ。新しいスパイスを使えば、きっと、とんでもなく美味しくなるに違いない。
 ​頭の中は、すでに夕飯のことでいっぱいだった。

 冒険の準備リストのことなんて、すっかり忘れて。こうして、私の記念すべき初のお使いミッションは、様々なハプニングに見舞われながらも、なんとか無事に幕を閉じた。

 これで、ようやく平穏なスローライフに戻れる。

 明日からは、心置きなく、冒険の準備を進められるはずだ。
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