公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

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​第2章 たかがお使い、されどお使い。街の噂の中心にいるらしい

第17話 迷惑な客

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 ​風の精霊がもたらした報告に、私の穏やかな食後のティータイムは無残にも打ち砕かれた。
 手の中のカップが、カタカタと微かに震える。怒りで。

​「……はぁぁぁぁぁぁ」

 ​本日何度目か分からない、深いため息。
 黄金の魔女? 報奨金? なぜ、人は他人の庭で起きたことに、そこまで首を突っ込みたがるのか。私のプライバシー権は、どこにあるというのか。

​「……落ち着きなさい、私。まだ慌てるような時間じゃない」

 ​私は自分に言い聞かせると、ティーカップを静かにソーサーに戻した。
 パニックは、良い結果を生まない。まずは、現状分析からだ。

​「ねえ、もう少し詳しく教えてくれる? その冒険者たちは、今どこにいて、何をしてるの?」

 ​私の問いかけに、風の精霊は、ひゅるりと一度舞ってから再び耳元で囁いた。

​『森の東側の入り口……リリが作った、あの真っ直ぐな道の入り口のあたりに、十人くらいいる。でも、森の中には入れないみたい』

「入れない?」

『うん。見えない壁があるって大騒ぎしてる。剣で斬っても、魔法を撃っても、びくともしないって。何人かは、諦めて帰って行ったよ』

 ​なるほど。
 私が昨日設置した『防犯用の結界』が、しっかりと仕事をしてくれているらしい。うん、我ながら良い出来だ。

 ​これで一安心……と、思ったのだけど。
 ふと、ある可能性に思い至る。

​「……待って。その結界、誰でもかれでも弾いちゃうのかしら?」

『うん、そうだよ。鳥も、獣も、人も、魔物も、誰も通れない。リリが許可した子以外はね』

「……それ、まずくない?」

 ​もし、この森を通り抜けたいだけの、ただの旅人や商人がいたら? 病人や怪我人が薬草を求めて森に入ろうとしたら?
 そんな人たちまで、結界が阻んでしまうとしたら……。

​ それは、私の本意ではない。
 私の目的は、あくまで『悪意ある侵入者の排除』であって『森の完全封鎖』ではないのだ。
 それに、そんなことをしたら、余計に「この森には何かある」と、面倒な勘繰りをされてしまうかもしれない。

​「……ダメね、あの結界。設計思想が短絡的すぎたわ。セキュリティにアップデートが必要ね」

 ​私は重い腰を上げた。
 今日の夜は、ゆっくり読書でもしようと思っていたのに。予定がまた一つ狂ってしまった。

​「アーマーさん、ちょっと出てくるわ。結界のメンテナンスをしてくるから」

「かしこまりました、リリ様。夜は冷えます故、クロークをお忘れなく」

 ​アーマーさんの気遣いに頷き、私は再び森の境界線へと向かった。
 結界を張った時と同じように、手頃な木の枝を拾う。

​「えーっと……基本設計は、このままでいいとして……」

​ 私は昨日地面に描いた巨大な円の中心に、新たな魔法陣を描き加えていく。
 それは古代の文献で読んだ、『意思選別型・認識阻害魔法陣』を、私なりにアレンジしたものだ。

​「悪意や敵意、過度な欲望を持つ者は、森に入ろうとすると、無意識のうちに別の方向に誘導される……と。森の存在そのものを認識できなくするのね」

 そう、独り言を呟きながら、

「逆に、純粋な目的――例えば、道に迷ったとか、薬草を探してるとか――を持つ者は、普通に森に入れる。ただし、私の家には近づけないように、緩やかな迷いの効果を付与して……」

 ​ぶつぶつとずっと独り言を呟きながら、木の枝で地面に複雑な幾何学模様を刻んでいく。
 最後に、その中心に、再び魔力をそっと流し込んだ。

​「仕上げに『不法侵入者には、急にお母さんに会いたくなる呪い』も追加して……よし、完成!」

 ​地面の魔法陣が、淡い光を放って、すっと土の中に消えていく。
 見た目は何も変わらない。でも、これで結界の機能は格段に向上したはずだ。

​「どうかしら?」

​ 私が一緒に来ていた風の精霊に尋ねる。
 精霊は、すぐに森の入り口の様子を偵察しに行って、すぐに戻ってきた。

​『すごいよ、リリ! 森の入り口にいた冒険者たち、急に「あれ? 俺、なんでこんな所にいるんだ?」「なんだか、故郷の母さんのパイが食べたくなってきた……」とか言い出して、みんな帰って行っちゃった!』

「よし、成功ね」

 ​これで当面の安全は確保された。
 我ながら完璧な仕事だ。平和的かつ、人道的な解決方法。これぞ、スローライフの極意。
​ 満足感に浸りながら、私は家に帰ろうと、踵を返した。

 その、瞬間だった

​ピコン

 ​私の頭の中に、小さなはっきりとした通知音が響いた。
 それは新しくアップデートした結界が、正常に機能していることを示す音。
​――『来客(悪意なし)』を、一人、森の内側へ通した、という通知だった。

​「……え?」

 ​結界は、私がアップデートする『前』から森の近くにいた人物をどう処理するか、一瞬迷ったらしい。そして厳密な判定の結果、その人物には「悪意がない」と判断し、侵入を許可したようだ。

​「誰……?」

 ​私が意識を集中させると、結界が感知した侵入者のぼんやりとした情報が流れ込んでくる。

​性別:女。
状態:やや混乱。
所持品:剣、軽鎧、買い物カゴ、巨大な魚類。
敵意レベル:皆無。
危険度:概ね無害、かつ、マグロの匂いを振りまいている。

​「…………」

 ​その、あまりにも特徴的すぎるプロフィールに、私は本日何度目か分からない、深いため息をつかずにはいられなかった。

​「……フィオナさん、なんでこんな所にいるのよ……」

 ​どうやら私の庭には、また一人、招かれざる客が、迷い込んでしまったらしい。
 私の平穏な夜は、まだ戻ってきそうになかった。
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