公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

文字の大きさ
17 / 63
​第2章 たかがお使い、されどお使い。街の噂の中心にいるらしい

第16話 ただいま我が家

しおりを挟む
​ 街の喧騒を背に、私は慣れ親しんだ森の小道を歩いていた。
 外の世界は、刺激的で、面白いものもたくさんあったけれど、やっぱり私には、この静かな森が一番落ち着く。土の匂い、木々の囁き、澄んだ空気。そのすべてが「おかえり」と言ってくれているようだった。

​「ただいまー!」

 ​自分で張った結界を通り抜けると、我が家が見えてくる。その前では、私の帰りを今か今かと待っていた家族たちが勢ぞろいしていた。

​「ワフーン!」

 ​一番に駆け寄ってきたのは、もちろんモフだ。巨大な体をすり寄せ、私の顔をぺろぺろと舐め回す。買い物袋から漂う、街の様々な匂いに興味津々らしい。

​「リリ様、お帰りなさいませ。ご無事で何よりです」

「ご主人様! お帰りなさいませ! 畑のトマト、元気ですよ!」

 ​執事のアーマーさんと、すっかり庭師が板についたお兄ちゃんも、安堵の表情で出迎えてくれる。天井裏からは、エンシェントさんの「おお、帰ってきたか」という、地鳴りのようなくぐもった声も聞こえた。
​ うん。やっぱり、我が家が一番だ。

​「みんな、ただいま! 見てみて、すごいもの買ってきたのよ!」

 ​私は英雄が凱旋したかのような気分で、抱えていた買い物袋をテーブルの上に広げた。

​「じゃーん! お砂糖! しかも、黒いのと白いの二種類!」

「おお……!」

「こっちが香辛料! これだけあれば、どんな料理でも作れるわ! それから新しいフライパンも買っちゃった!」

 ​私の戦利品の数々に、家族たちから歓声が上がる。
 特にモフは、スパイスの入った小瓶の匂いを一つ一つ嗅いでは、「クンクン、ワフン!」と興奮した様子だ。

​「今夜は、約束通りオーク肉のハンバーグね。このスパイスを使えば、きっと、今まで食べたことのないくらい美味しくなるわよ!」

 ​私の宣言に、みんなの期待は最高潮に達した。今日の夕飯は、ちょっとしたパーティーになりそうだ。

​「ああ、そうだ。お金も、ちゃんともらってきたわよ」

 ​私は最後に残ったずっしりと重い革袋を、テーブルの上に置いた。
 バルタザールさんがくれた白金貨の袋だ。

​「葉っぱじゃダメだって言うから、これをもらってきたの。重たいけど、これで当分は買い物に困らないでしょ」

 ​私がそう言うと、なぜか、それまで賑やかだった部屋が、しん、と静まり返った。

 一番最初に反応したのは、アーマーさんだった。彼は、おそるおそる革袋の一つを手に取ると、口を開けて、中を覗き込んだ。
 ​カチャリ、と硬質な音がして、白く輝く硬貨が数枚、彼の金属の指からこぼれ落ちる。

​「…………」

 ​アーマーさんが固まった。
 まるで、魔力を抜かれたみたいに微動だにしない。

​「どうしたの、アーマーさん。ただのコインでしょ? モフ、これで遊ぶ?」

「グルルル……」 

「リ、リリ様……」

 ​ようやく再起動したらしいアーマーさんが、震える声で私に尋ねた。

​「……これを……どのようにして、手に入れられたので……?」

「え? 漬物石にしていた石を売ったら、これだけくれたわよ」

「漬物石……で……」

 ​アーマーさんは天を仰いだ。……というか、兜を仰いだ。

「リリ様……これは白金貨ですぞ……。この一枚で一般家庭が一年は暮らせると言われる、最高額面の硬貨……。それが、ここに、三百枚……」

「へえ、そんなに凄いの? じゃあ、お砂糖だけじゃなくて、お城も買えちゃうくらい?」

「お城どころか、小国が買えます」

​……それは、ちょっと、もらいすぎたかもしれない。
 ​まあ、いいか。よく分からないお金の話は、また今度考えよう。今は、待ちに待った夕食の時間なのだ。

 ​その日の夕食は、最高に盛り上がった。
 新しく買った香辛料をふんだんに使ったハンバーグは、肉汁がたっぷりで、今まで食べたどんなご馳走よりも美味しかった。
 家族みんな、おかわりを繰り返し、巨大なオークキングのミンチ肉は、あっという間になくなってしまった。

 ​食事が終わり、みんなが満足感に包まれてまどろむ中、私は一人、お茶を飲みながら今日の出来事を振り返っていた。
 大変だったけど、なんだかんだで、楽しい一日だったかもしれない。​そんな穏やかな時間が、いつまでも続けばいいのに。

 そう思った、矢先のことだった。
 ​ひゅるる、と小さな風が窓から吹き込み、私の目の前で渦を巻いた。風は、やがて小さな人の形をとる。風の精霊だ。

​『リリ……! 大変だよ……!』

 ​精霊は、ひどく慌てた様子で、私の耳元で囁いた。

​『街の人間たちが、大騒ぎしてる……! 黄金の魔女だって……! 商人の店に、フードを被った魔女が現れて、山のような金貨を置いていったって……!』

「黄金の魔女……?」

 ​なんて悪趣味な二つ名だろう。
 私の服は、森の色なのに。

​『冒険者たちが、その魔女を探してる……! 報奨金目当てに、森に来るって言ってるよ……! もう何人か、森の入り口をうろついてる……!』

 ​風の精霊の報告に、私は淹れたてのお茶を盛大に吹き出しそうになった。

​「……はぁぁぁぁぁぁ……」

 ​今日一番の、深くて、長いため息が静かな夜の部屋に響き渡った。
 やっと静かになったと思ったのに。
 どうやら私のスローライフは、私が思うよりもずっと、世間から注目されてしまっているらしい。

 ​冒険の準備、また一歩遠のいてしまった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

獣舎の全魔獣を管理していた私を、無能呼ばわりで解雇ですか?じゃあ好き勝手に旅をします。困っても知りません。

藤 ゆみ子
ファンタジー
光属性の魔力を持つフィーナは聖女の一人として王宮に就職するが、一向に治癒魔法を使うことができなかった。聖女として働けないと解雇されるが、帰る家なんてない。  そんな時、日々の癒しのためにこっそり行っていた獣舎の魔獣たちが騎士団長グランディに頼み、獣舎の掃除婦として働くことに。  実はフィーナの持つ魔力は人ではなく、魔獣や魔物に使えるものだった。  無自覚に使い魔たちを癒していたフィーナだったが、グランディに気に入られていることに不満を持つ王女に解雇されてしまう。  フィーナは王女の命令なら仕方ないと王宮を出る。  今だ見たこともない魔獣と出会うため、かつての親友だった魔獣のキュウと再会するために旅に出ることにするが、思わぬ事件や問題に巻き込まれていく。  一方でグランディや魔獣たちはフィーナを取り戻すため奮闘する。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...