Sランクアイドルと作る絶品ダンジョン飯~社畜Fランク探索者の俺が、グルメスキルで成り上がるのはどう考えてもおかしい件!!~

咲月ねむと

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第5話 これが彼女の実力

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土曜日の朝10時。

俺はオークの森の入り口ゲート前に立っていた。周囲には、いかにも歴戦の猛者といった感じの、ゴツい装備に身を固めた探索者たちがちらほらいる。
その中に混じる、普段着に安物のショートソードという出で立ちの俺は、明らかに場違いだ。めちゃくちゃ居心地が悪い。

(本当に、レイナさん来るのかな……ドタキャンされたりして……)

不安になっていると、「佐藤さーん!」と明るい声が聞こえた。振り返ると、昨日と同じく、大きなパーカーにキャップを深くかぶったレイナさんが、手を振りながら駆け寄ってきた。

「おはようございます! お待たせしました!」

「おはようございます。いえ、俺も今来たとこです」

「よかった! じゃあ、早速行きましょう! オーク肉、オーク肉♪」

レイナさんは、まるでピクニックにでも行くかのようにウキウキしている。
その手には、前回と同じ、洗練されたデザインの短剣が握られている。それ以外は小さなリュックを背負っているだけで、防具らしいものは何も身に着けていない。

(本当に大丈夫か、この子……いや、俺が心配すべきは自分自身か)

探索者証をゲートにかざし、いよいよオークの森へと足を踏み入れる。

ゴブリンの巣とは違い、空気は澄んでいて、木々の緑が目に眩しい。一見、普通の森と変わらないが、漂ってくる微かな獣臭と時折聞こえる遠吠えのような音。
ここがダンジョンであることを実感する。

「わぁ、空気が美味しいですね! やっぱり、都会よりダンジョンの方が落ち着きます!」

「は、はぁ……」

(俺は全然落ち着かないんだけど!)

レイナさんは深呼吸して、気持ちよさそうにしている。

俺はというと、周囲をキョロキョロと警戒しっぱなしだ。こう見えてビビリだから仕方ない。

「佐藤さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。オークなんて、怖くないですから」

「いや、怖いですって! Fランクの俺にとっては、遭遇=死、ですよ!」

「ふふ、大げさだなぁ。あ、そうだ。これ、どうぞ」

レイナさんはリュックから小さな袋を取り出し、俺に手渡した。中には、色とりどりの綺麗な飴が入っていた。

「これ、有名なパティシエさんに特注で作ってもらった『リラックス効果のある飴』なんです。舐めてると、落ち着きますよ」

「はぁ……ありがとうございます……」

(何かすごいもん出てきたんだけど!)

とりあえず一つ口に放り込んだ。
ベリー系の爽やかな甘さが口の中に広がり、確かに少しだけ、緊張が和らぐような気がした。


しばらく森の中を進んだ。

レイナさんは、時々立ち止まっては、地面に残された足跡を観察したり、木の幹についた傷跡を指でなぞったりしている。

「この足跡、新しいですね。たぶん、30分以内にここを通ったオークのものです。こっちの木の傷は……爪痕? いや、牙かな。ふむふむ」

まるで、熟練のハンターのようだ。

俺にはただの土や木にしか見えないのに、彼女には様々な情報が読み取れるらしい。

これが高ランク探索者の力なのか……?

感心していると、突然レイナさんが「!」という顔をして、俺の腕を掴んだ。

「佐藤さん、伏せて!」

「へ?」

言われるがままに地面に伏せると、ほぼ同時に、頭上を何かが猛スピードで通り過ぎていった。ブォン!という風切り音。
見上げると、巨大な岩が、俺たちがさっきまで立っていた場所に突き刺さっていた。

「……え? な、なに今の!?」

「オークの投石です。危なかったですねー」

レイナさんは、けろりとした顔で立ち上がる。

俺は腰が抜けて、しばらく立ち上がれなかった。

(死ぬかと思った……! ガチで死ぬかと思った!)

「あ、いましたよ、オーク」

レイナさんが指差す方向を見ると、ここから100メートルほど先の茂みから、緑色の肌をした巨躯のモンスター……オークが、こちらを睨みつけながら姿を現した。
棍棒を手に持ち、よだれを垂らしている。しかも、それが一匹じゃない。三匹もいるのだ。

「ひぃぃぃっ!」

俺は情けない悲鳴を上げた。
もうダメだ。終わった。人生最後の晩餐は、レイナさんにもらった飴だった……。

しかし、レイナさんは落ち着いていた。

「大丈夫ですよ、佐藤さん。ちょっと待っててくださいね」

そう言うと、彼女は短剣を構え、風のように駆け出した。

「え? ちょ、レイナさん!?」

俺の制止の声も届かない。

レイナさんは、あっという間にオークとの距離を詰める。オークたちが棍棒を振り上げるが、彼女の動きはそれを遥かに凌駕していた。

ひらり、ひらりとオークの攻撃を紙一重でかわし、懐に潜り込む。そして閃光が一閃。
次の瞬間には、一体目のオークが、膝から崩れ落ち、バラバラとなって消滅していた。

「「グルォォォ!?」」

残りの二匹が驚きと怒りの声を上げるが、もう遅い。レイナさんは止まらない。流れるような動きで二匹目のオークの首筋を切り裂き、返す刀で三匹目の心臓を一突き。
わずか数十秒。三匹のオークは、なすすべもなく地に伏し、素材へと変わったのだ。

「…………」

俺は、開いた口が塞がらなかった。

(なんだ、今の……? )

まるでアクション映画のワンシーンを見ているかのようだ。Fランクの俺には、何が起こったのかすら、よく理解できなかった。

「ふぅ、終わりましたよ、佐藤さん。ほら、新鮮なオーク肉、ゲットです!」

レイナさんは、にっこり笑って、オークの素材――主に肉塊だが指差した。
その笑顔は、なんだか楽しそうだ。

(……この子、本当に何者なんだ……?)

俺は、レイナさんの強さに改めて戦慄すると同時に、目の前にある、見るからに上質そうなオーク肉にごくりと喉を鳴らすのだった。
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