悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと

文字の大きさ
20 / 45

​第20話 愛情サイズの巨大おにぎり

しおりを挟む
​「レティシア! 天気は快晴! 風は微風! 絶好のピクニック日和だ!」

 ​翌朝。
 ベッドから跳ね起きたジルベール様は、昨日の瀕死状態が嘘のように輝いていた。
 肌艶はピカピカ、魔力も満タン。
 お粥パワー恐るべしである。

​「さあ、行こう! 私の領地で一番景色のいい丘へ!」

「ちょ、ちょっと待ってください。お弁当の準備がまだです!」

 ​病み上がりのテンションに引きずられるようにして、私たちは馬車に乗り込んだ。

​   ◇

 ​到着したのは、領都を一望できる美しい丘だった。一面に広がる緑の芝生。
 遠くに見える雪山と青い空。

 まさに絵本の世界だ。

 ​私たちは木陰にシートを広げ、腰を下ろした。

​「ふぅ……いい風だ。君とこうして外で過ごすのは初めてだな」

 ジルベール様が眩しそうに目を細める。

​「そうですね。いつも厨房か執務室でしたから」

「……ロマンチックのかけらもないな。だが、今日こそは恋人らしいことをしよう」

 ​彼は期待に満ちた目で、私が抱えている巨大なバスケットを見た。

​「さあ、レティシア特製のお弁当を見せてくれ。サンドウィッチか? それともキッシュか?」

​「いいえ。青空の下で食べるなら、これ一択です」

 ​私はバスケットの蓋をオープンした。

 そこに入っていたのは――。

​「……なんだ、この黒い砲丸は?」

 ​公爵が固まった。
 バスケットの中にゴロゴロと積み上げられていたのは、大人の拳二つ分はある巨大な黒い球体たち。そう、日本人の魂『爆弾おにぎり』だ。

​「『おにぎり』です。携帯食料の王様ですよ」

「おにぎり……? これが料理なのか? 黒い石にしか見えんが」

​「ふふ。食べてみればわかります。はい、どうぞ」

 ​私は一つを彼に手渡した。
 ずっしりと重い。
 公爵は恐る恐る、その黒い塊を両手で持ち、ガブリとかぶりついた。

​パリッ。

 ​湿気ていない、上質な海苔が弾ける音。
 その直後、ふっくらと炊き上げられた白米の甘みと、表面にまぶされた塩気が口いっぱいに広がる。

​「……っ! 米か!?」

​「はい。でも、ただの米じゃありませんよ。そこからが本番です」

 ​彼がさらに噛み進めると、おにぎりの中心部に到達した。

​ジュワッ。

​「……ん!? 肉だ!」

 ​中から現れたのは、マヨネーズをたっぷりと絡めた『鶏の唐揚げ』だ。
 ご飯の熱で温められたマヨネーズが溶け出し、唐揚げの醤油味と混ざり合って、凶悪なまでの旨味ソースとなっている。それが白米に染み込み、逃げ場のない美味しさを生み出している。

​「なんだこれは……! 米と海苔というシンプルな外見の中に、こんな暴力的な旨味が隠されているとは……!」

​「『唐揚げマヨ』は正義ですからね。こっちのは『焼き鮭』、あっちのは酸っぱい『梅干し』が入ってますよ」

​「鮭だと……?」

 ​公爵は二個目に手を伸ばした。
 今度は炭火で香ばしく焼いた鮭のほぐし身だ。
 程よい塩気が甘いお米を際立たせる。

​「美味い。サンドウィッチもいいが、この『米を握っただけ』の料理……不思議と力が湧いてくる気がする」

​「でしょう? 手で直接食べるから、温かみがあるんです」

 ​ジルベール様は、私の顔と同じくらいの大きさのおにぎりをリスのように頬張っている。
 口の端に米粒がついているのが可愛い。

​「……レティシア」

 ​三個目を完食した彼が満足げに息をつき、私の膝の上にコテンと頭を乗せた。

​「えっ、あの……閣下?」

​「膝枕だ。……恋人らしいことその2だ」

 ​彼は芝生に寝転がり、私を見上げていた。

 逆光でキラキラと輝く銀髪。
 そして穏やかで幸せそうな微笑み。

​「……君の料理は、いつも私を驚かせる。そして、幸せにしてくれる」

​ 彼の手が伸びてきて、私の頬を優しく撫でた。

​「私はもう、君のいない食卓なんて考えられない。……ずっと、私のそばにいてくれないか?」

 ​それは契約や胃袋の話ではなく。
 一人の男性としての心からの言葉に聞こえた。

 ​ドキリ、と胸が鳴る。

 料理ばかりしていた私の心臓が初めて『恋愛』というスパイスに反応した瞬間だった。

​「……はい。お腹が空いたときは、いつでも言ってくださいね」

 ​私が照れ隠しにそう言うと、彼は「ふっ、雰囲気のないやつだ」と笑い、そのまま気持ちよさそうに昼寝を始めてしまった。

 ​平和な午後。
 美味しいおにぎり。
 そして隣には世界一美形の旦那様。

​(……悪くないかも、こういうのも)

 ​私は彼の髪をそっと撫でながら、この幸せがずっと続けばいいと思った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

処理中です...