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第22話 王宮の食卓は崩壊寸前? ざまぁの予感
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「うっ……臭い」
王宮のパーティー会場に足を踏み入れた瞬間、私はハンカチで鼻を覆った。
腐敗臭ではない。もっと悲しい匂いだ。
クタクタになるまで茹でられたキャベツ、焦げた小麦粉、そして血抜きの不十分な肉の臭み。
「なんだこの匂いは。調理場ではなく、拷問部屋の空気が流れてきているのか?」
隣を歩くジルベール様も、顔をしかめて氷のオーラを漂わせている。
「これが今の王宮の『美食』らしいですよ。……かわいそうに」
会場を見渡すと、着飾った貴族たちが並んでいるが皆一様に顔色が悪い。以前はふくよかだった大臣も、ゲッソリと頬がこけている。
まるで集団断食道場のようだ。
「――よく戻ったな、レティシア」
玉座の方から弱々しい声が響いた。
そこにいたのは私の元婚約者、カイル王太子殿下だった。
「……殿下? 失礼ですが少し老け……やつれましたか?」
思わず本音が漏れた。
かつてのキラキラ王子様オーラは消え失せ、目の下には濃いクマ。肌はカサカサで王冠が重そうにズレている。
「う、うるさい! 誰のせいだと思っている!」
カイル殿下がヒステリックに叫んだ。
「君がいなくなってから、王宮の食事が砂の味になったんだ! 料理長に『あの味を再現しろ』と言っても、『レシピがないから無理です』と逃げ出しおって……!」
「あら、自業自得ですね」
「なんだと!?」
殿下が立ち上がろうとするが、よろめいて椅子に座り込む。エネルギー切れだ。
「ふん、相変わらず生意気ね」
殿下の隣で派手な扇を仰いでいる少女が口を開いた。
男爵令嬢ミリア。私から殿下を奪った張本人だ。彼女も以前より痩せているが、性格のキツさは健在らしい。
「たかが料理番風情が公爵様に取り入って戻ってくるなんて。……どうせ、体を使って誘惑したんでしょう?」
ミリアが蔑むような目で私とジルベール様を見る。
「おかわいそうに、ジルベール公爵。そんな脂臭い女に騙されるなんて」
「……脂臭い、だと?」
ジルベール様がピクリと反応した。
ミリアは勝ち誇ったように続ける。
「ええ、そうよ! だって彼女、いつも厨房に入り浸っているのでしょう? ドレスを着ていても隠せませんわ、その……貧乏臭い庶民の匂いは!」
会場が静まり返る。
公爵夫人に喧嘩を売るとは、命知らずにも程がある。だが、ジルベール様は怒るどころか鼻で笑った。
「……哀れだな」
「え?」
「君にはわからんのか。彼女から漂うこの香りは、貧乏臭さなどではない」
ジルベール様は私の腰を抱き寄せ、私の髪に顔を埋めるようにして深呼吸した。
「これは……最高級の胡麻油で揚げた衣の香ばしさ。そして、長時間煮込んだ鶏ガラスープの芳醇なアロマだ」
「は、はぁ!?」
「つまり、世界で一番『食欲をそそる』香りだということだ」
ジルベール様は私のうなじに口づけを落とした。
会場から悲鳴が上がる。
ミリアの顔が真っ赤になった。
「なっ、なんなのよ見せつけて! 不潔よ!」
「不潔なのは君たちの食卓だ」
ジルベール様がテーブルの料理を指差した。
そこには乾いたパンと灰色のシチューのようなものが並んでいる。
「こんな残飯を食べているから、心まで貧相になるのだ。……見ろ、カイル殿下を。空腹で震えているではないか」
視線の先では、カイル殿下が私の髪から漂うパンケーキの匂いに釣られてフラフラと手を伸ばしていた。
「レティシア……頼む……。あのスープを……いや、オムライスでもいい……一口、恵んでくれ……」
ゾンビ映画のワンシーンのようだ。
「お断りします」
私はキッパリと拒絶した。
「私はジルベール様の妻です。貴方のために鍋を振る義理はありません」
「そこをなんとか! 王命だぞ! 金ならやる! 地位もやる!」
「いりません。……ですが」
私はニヤリと笑った。
ただ、断るだけではつまらない。
ここまでコケにされたのだ、料理人として徹底的に「格の違い」を見せつけてやらねば。
「もし、私たちの料理が王宮の料理人より優れていると認めるなら……一口くらいは恵んであげてもいいですよ?」
「ほ、本当か!?」
殿下の目が輝いた。
「ただし、条件があります。……この会場で『料理対決』を行い、私が勝ったら――」
私は殿下とミリアを指差した。
「お二人の前で、私たちが作った『至高の麺料理』を、お二人が一口も食べられないまま見せびらかして完食する……という刑罰を受けていただきます」
「なんだその地味な嫌がらせは!?」
「受けますか? 受けませんか?」
「受ける! 絶対に受ける!」
殿下は即答した。
空腹で判断力が死んでいる。
「カイル様!?」
ミリアが慌てるが、もう遅い。
「よし、商談成立だ」
ジルベール様が邪悪な笑みを浮かべた。
「では始めようか。……王宮の厨房を借りるぞ。レティシア、とびきり『匂いの強い』やつを頼む」
「お任せください。王宮中を飯テロの香りで包んでやりますよ!」
こうして王宮の料理人vs私の仁義なき麺バトルが幕を開けることになった。
王宮のパーティー会場に足を踏み入れた瞬間、私はハンカチで鼻を覆った。
腐敗臭ではない。もっと悲しい匂いだ。
クタクタになるまで茹でられたキャベツ、焦げた小麦粉、そして血抜きの不十分な肉の臭み。
「なんだこの匂いは。調理場ではなく、拷問部屋の空気が流れてきているのか?」
隣を歩くジルベール様も、顔をしかめて氷のオーラを漂わせている。
「これが今の王宮の『美食』らしいですよ。……かわいそうに」
会場を見渡すと、着飾った貴族たちが並んでいるが皆一様に顔色が悪い。以前はふくよかだった大臣も、ゲッソリと頬がこけている。
まるで集団断食道場のようだ。
「――よく戻ったな、レティシア」
玉座の方から弱々しい声が響いた。
そこにいたのは私の元婚約者、カイル王太子殿下だった。
「……殿下? 失礼ですが少し老け……やつれましたか?」
思わず本音が漏れた。
かつてのキラキラ王子様オーラは消え失せ、目の下には濃いクマ。肌はカサカサで王冠が重そうにズレている。
「う、うるさい! 誰のせいだと思っている!」
カイル殿下がヒステリックに叫んだ。
「君がいなくなってから、王宮の食事が砂の味になったんだ! 料理長に『あの味を再現しろ』と言っても、『レシピがないから無理です』と逃げ出しおって……!」
「あら、自業自得ですね」
「なんだと!?」
殿下が立ち上がろうとするが、よろめいて椅子に座り込む。エネルギー切れだ。
「ふん、相変わらず生意気ね」
殿下の隣で派手な扇を仰いでいる少女が口を開いた。
男爵令嬢ミリア。私から殿下を奪った張本人だ。彼女も以前より痩せているが、性格のキツさは健在らしい。
「たかが料理番風情が公爵様に取り入って戻ってくるなんて。……どうせ、体を使って誘惑したんでしょう?」
ミリアが蔑むような目で私とジルベール様を見る。
「おかわいそうに、ジルベール公爵。そんな脂臭い女に騙されるなんて」
「……脂臭い、だと?」
ジルベール様がピクリと反応した。
ミリアは勝ち誇ったように続ける。
「ええ、そうよ! だって彼女、いつも厨房に入り浸っているのでしょう? ドレスを着ていても隠せませんわ、その……貧乏臭い庶民の匂いは!」
会場が静まり返る。
公爵夫人に喧嘩を売るとは、命知らずにも程がある。だが、ジルベール様は怒るどころか鼻で笑った。
「……哀れだな」
「え?」
「君にはわからんのか。彼女から漂うこの香りは、貧乏臭さなどではない」
ジルベール様は私の腰を抱き寄せ、私の髪に顔を埋めるようにして深呼吸した。
「これは……最高級の胡麻油で揚げた衣の香ばしさ。そして、長時間煮込んだ鶏ガラスープの芳醇なアロマだ」
「は、はぁ!?」
「つまり、世界で一番『食欲をそそる』香りだということだ」
ジルベール様は私のうなじに口づけを落とした。
会場から悲鳴が上がる。
ミリアの顔が真っ赤になった。
「なっ、なんなのよ見せつけて! 不潔よ!」
「不潔なのは君たちの食卓だ」
ジルベール様がテーブルの料理を指差した。
そこには乾いたパンと灰色のシチューのようなものが並んでいる。
「こんな残飯を食べているから、心まで貧相になるのだ。……見ろ、カイル殿下を。空腹で震えているではないか」
視線の先では、カイル殿下が私の髪から漂うパンケーキの匂いに釣られてフラフラと手を伸ばしていた。
「レティシア……頼む……。あのスープを……いや、オムライスでもいい……一口、恵んでくれ……」
ゾンビ映画のワンシーンのようだ。
「お断りします」
私はキッパリと拒絶した。
「私はジルベール様の妻です。貴方のために鍋を振る義理はありません」
「そこをなんとか! 王命だぞ! 金ならやる! 地位もやる!」
「いりません。……ですが」
私はニヤリと笑った。
ただ、断るだけではつまらない。
ここまでコケにされたのだ、料理人として徹底的に「格の違い」を見せつけてやらねば。
「もし、私たちの料理が王宮の料理人より優れていると認めるなら……一口くらいは恵んであげてもいいですよ?」
「ほ、本当か!?」
殿下の目が輝いた。
「ただし、条件があります。……この会場で『料理対決』を行い、私が勝ったら――」
私は殿下とミリアを指差した。
「お二人の前で、私たちが作った『至高の麺料理』を、お二人が一口も食べられないまま見せびらかして完食する……という刑罰を受けていただきます」
「なんだその地味な嫌がらせは!?」
「受けますか? 受けませんか?」
「受ける! 絶対に受ける!」
殿下は即答した。
空腹で判断力が死んでいる。
「カイル様!?」
ミリアが慌てるが、もう遅い。
「よし、商談成立だ」
ジルベール様が邪悪な笑みを浮かべた。
「では始めようか。……王宮の厨房を借りるぞ。レティシア、とびきり『匂いの強い』やつを頼む」
「お任せください。王宮中を飯テロの香りで包んでやりますよ!」
こうして王宮の料理人vs私の仁義なき麺バトルが幕を開けることになった。
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