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第23話 開幕! 王宮を揺るがすラーメンの香り 王宮のメインキッチン
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そこは、お通夜のように静まり返っていた。
「さあ、これが我が王宮が誇る『至高の麺料理』だ!」
王宮料理長が自信満々に出したのは、金縁の皿に盛られた『コンソメパスタ』だった。
見た目は上品だ。
だが、茹で置きされた麺は水分を吸って膨張し、スープは透明すぎて旨味の色が見えない。
審査員席に座った国王陛下が震える手でフォークを回す。
「……うむ。味は……薄いな」
「素材の味を活かしておりますので!」
「麺が……歯茎で切れるほど柔らかいが?」
「消化に良くしておりますので!」
言い訳は見事だが、陛下の目は死んでいる。
会場の貴族たちも「ああ、いつもの味だ」と諦めの溜息をついている。
カイル殿下とミリアに至っては、空腹のあまりテーブルクロスを齧りそうになっていた。
「さて。次は私たちの番だな」
腕組みをしたジルベール様が、私に合図を送る。
「レティシア。あいつらに『本物の麺』というものを教えてやれ」
「はい。嗅覚から破壊してやりますよ!」
私はカマドの火力を全開にした。
◇
今回用意したのは、領地で開発した『鶏白湯ラーメン』だ。まずは寸胴鍋の蓋を開ける。
モワァァァッ……!
立ち上る真っ白な湯気。
中に入っているのは、鶏ガラと鶏の足、そして香味野菜を強火で十時間以上煮込み、骨の髄まで溶かし出した白濁スープだ。
トロトロに乳化したスープはコラーゲンの塊。
「まずは、香り付けの『魔術』から!」
私はフライパンに多めのラードと刻んだニンニク、そして焦がしネギを投入した。
ジュワァァァァァァッ!!
爆発的な音が響く。
次の瞬間、ニンニクの香ばしさとネギの甘く焦げた匂いが換気扇を無視して会場へと雪崩れ込んだ。
「な、なんだこの匂いは!?」
「ニンニク!? 王宮でニンニクだと!?」
「くっ……なんていい匂いなんだ……!」
ざわつく会場。
上品ぶっていた貴族たちの鼻がヒクヒクと動いている。この「焦がし油」の香りに抗える人類などいない。
「麺、行きます!」
大鍋でグラグラと沸騰したお湯に、特製の手打ち麺を投入。強力粉とかんすいを使った、黄色く縮れた中太麺だ。
「茹で時間は四十五秒! ここが勝負!」
菜箸で麺を泳がせる。
そして、ザルですくい上げると――。
「せぇいっ!!」
チャッ、チャッ、チャッ!
私は空高くザルを振り上げ、遠心力で徹底的にお湯を切った。
いわゆる『天空湯切り』だ。
舞い散るお湯がシャンデリアの光を受けてキラキラと輝く。
「な、なんだあの動きは……! 踊っているのか!?」
「麺があんなに空を飛んでいるぞ!?」
パフォーマンスに目を奪われている間に、私は丼にタレと熱々の白湯スープを注いだ。黄金色のスープに、茹でたての麺を滑り込ませる。
仕上げのトッピングだ。
醤油ダレでトロトロになるまで煮込んだ『豚バラチャーシュー』を三枚。
半熟の黄身がとろけ出す『味玉』。
シャキシャキの『メンマ』。
そして彩りの青ネギと、先ほどの『焦がしニンニク油』を回しかける。
「完成! 『特製・濃厚鶏白湯ラーメン~全部乗せ~』です!」
ドンッ!
審査員である国王陛下の前に湯気を立てる丼が置かれた。
その瞬間、会場の空気が変わった。
「……ゴクリ」
誰かが喉を鳴らした音が、はっきりと聞こえた。丼から立ち上るのは、暴力的なまでに濃厚な鶏の旨味と焦がし油の香ばしさ。
黄金色のスープの表面には、キラキラと脂の膜が張り、その下には黄色い麺が妖艶に揺らめいている。
「こ、これが……麺料理だと?」
国王陛下が信じられないものを見る目で丼を覗き込んだ。
「スープが……白い? いや、黄金色か? そしてこの匂い……余の空腹中枢を直接殴ってくるような……!」
「陛下、麺が伸びないうちにどうぞ。ズルズルッと音を立ててすするのがマナーです」
「お、音を立てて? ……ええい、ままよ!」
陛下は震える手で箸を持ち、麺を持ち上げた。
スープがよく絡んだ縮れ麺が照明を受けて輝く。そして勢いよく吸い込んだ。
ズルルッ! ズゾゾゾゾッ!!
王宮にはあるまじき、下品で、そして最高に美味そうな音が響き渡った。会場の貴族全員が、その喉の動きに釘付けになった。
カイル殿下が「ああっ……」と悲痛な声を上げ、ミリアがよだれを拭うのも忘れて凝視している。
ズルッ、ズルルッ!
陛下の手が止まらない。
一口食べるごとに、その青白かった顔に血色が戻り、目には生気が宿っていく。
「……う、美味い!!」
ついに陛下が叫んだ。
「なんだこの濃厚さは! 鶏の全てが凝縮されている! なのに脂っこくない! このモチモチした麺が、スープを口の中まで運んでくるぞ!」
「チャーシューもいっちゃってください、陛下」
「おお、この肉か! ……んんッ!? と、溶けた! 肉が舌の上で溶けたぞ!?」
陛下は夢中で丼にかじりつき、最後は器を持ち上げてスープを一滴残らず飲み干した。
プハァッ……!
「余は……満足だ……。これぞ、王者の食卓……!」
カラン、と空の丼が置かれる音。
それが合図だったかのように、会場中からどよめきと、そして絶望的なまでの「飢餓感」が爆発した。
「陛下だけズルい!」
「その匂いだけでご飯が食べられます!」
「私にも! 金なら払うから一杯くれぇぇぇ!」
暴動寸前の貴族たち。
その中心で、私はニヤリと笑ってカイル殿下とミリアを振り返った。
「さて……勝負は私の勝ちということでよろしいですね?」
「う、うぅ……」
カイル殿下は涙目で頷いた。
「ああ、負けだ! 私の負けだ! だから……約束通り……」
殿下はプライドも何もかも捨てて懇願した。
「そのラーメンを……私にも一杯恵んでくれぇぇぇ!!」
「あら、残念」
私は空っぽになった寸胴鍋を叩いて見せた。
「材料、今のいっぱいで切れちゃいました」
「――――ッ!!」
殿下の絶望の絶叫が王宮の天井を突き抜けた。
これぞ、飯テロによる精神的拷問。
私の復讐は最高に美味しい形で果たされたのだった。
「さあ、これが我が王宮が誇る『至高の麺料理』だ!」
王宮料理長が自信満々に出したのは、金縁の皿に盛られた『コンソメパスタ』だった。
見た目は上品だ。
だが、茹で置きされた麺は水分を吸って膨張し、スープは透明すぎて旨味の色が見えない。
審査員席に座った国王陛下が震える手でフォークを回す。
「……うむ。味は……薄いな」
「素材の味を活かしておりますので!」
「麺が……歯茎で切れるほど柔らかいが?」
「消化に良くしておりますので!」
言い訳は見事だが、陛下の目は死んでいる。
会場の貴族たちも「ああ、いつもの味だ」と諦めの溜息をついている。
カイル殿下とミリアに至っては、空腹のあまりテーブルクロスを齧りそうになっていた。
「さて。次は私たちの番だな」
腕組みをしたジルベール様が、私に合図を送る。
「レティシア。あいつらに『本物の麺』というものを教えてやれ」
「はい。嗅覚から破壊してやりますよ!」
私はカマドの火力を全開にした。
◇
今回用意したのは、領地で開発した『鶏白湯ラーメン』だ。まずは寸胴鍋の蓋を開ける。
モワァァァッ……!
立ち上る真っ白な湯気。
中に入っているのは、鶏ガラと鶏の足、そして香味野菜を強火で十時間以上煮込み、骨の髄まで溶かし出した白濁スープだ。
トロトロに乳化したスープはコラーゲンの塊。
「まずは、香り付けの『魔術』から!」
私はフライパンに多めのラードと刻んだニンニク、そして焦がしネギを投入した。
ジュワァァァァァァッ!!
爆発的な音が響く。
次の瞬間、ニンニクの香ばしさとネギの甘く焦げた匂いが換気扇を無視して会場へと雪崩れ込んだ。
「な、なんだこの匂いは!?」
「ニンニク!? 王宮でニンニクだと!?」
「くっ……なんていい匂いなんだ……!」
ざわつく会場。
上品ぶっていた貴族たちの鼻がヒクヒクと動いている。この「焦がし油」の香りに抗える人類などいない。
「麺、行きます!」
大鍋でグラグラと沸騰したお湯に、特製の手打ち麺を投入。強力粉とかんすいを使った、黄色く縮れた中太麺だ。
「茹で時間は四十五秒! ここが勝負!」
菜箸で麺を泳がせる。
そして、ザルですくい上げると――。
「せぇいっ!!」
チャッ、チャッ、チャッ!
私は空高くザルを振り上げ、遠心力で徹底的にお湯を切った。
いわゆる『天空湯切り』だ。
舞い散るお湯がシャンデリアの光を受けてキラキラと輝く。
「な、なんだあの動きは……! 踊っているのか!?」
「麺があんなに空を飛んでいるぞ!?」
パフォーマンスに目を奪われている間に、私は丼にタレと熱々の白湯スープを注いだ。黄金色のスープに、茹でたての麺を滑り込ませる。
仕上げのトッピングだ。
醤油ダレでトロトロになるまで煮込んだ『豚バラチャーシュー』を三枚。
半熟の黄身がとろけ出す『味玉』。
シャキシャキの『メンマ』。
そして彩りの青ネギと、先ほどの『焦がしニンニク油』を回しかける。
「完成! 『特製・濃厚鶏白湯ラーメン~全部乗せ~』です!」
ドンッ!
審査員である国王陛下の前に湯気を立てる丼が置かれた。
その瞬間、会場の空気が変わった。
「……ゴクリ」
誰かが喉を鳴らした音が、はっきりと聞こえた。丼から立ち上るのは、暴力的なまでに濃厚な鶏の旨味と焦がし油の香ばしさ。
黄金色のスープの表面には、キラキラと脂の膜が張り、その下には黄色い麺が妖艶に揺らめいている。
「こ、これが……麺料理だと?」
国王陛下が信じられないものを見る目で丼を覗き込んだ。
「スープが……白い? いや、黄金色か? そしてこの匂い……余の空腹中枢を直接殴ってくるような……!」
「陛下、麺が伸びないうちにどうぞ。ズルズルッと音を立ててすするのがマナーです」
「お、音を立てて? ……ええい、ままよ!」
陛下は震える手で箸を持ち、麺を持ち上げた。
スープがよく絡んだ縮れ麺が照明を受けて輝く。そして勢いよく吸い込んだ。
ズルルッ! ズゾゾゾゾッ!!
王宮にはあるまじき、下品で、そして最高に美味そうな音が響き渡った。会場の貴族全員が、その喉の動きに釘付けになった。
カイル殿下が「ああっ……」と悲痛な声を上げ、ミリアがよだれを拭うのも忘れて凝視している。
ズルッ、ズルルッ!
陛下の手が止まらない。
一口食べるごとに、その青白かった顔に血色が戻り、目には生気が宿っていく。
「……う、美味い!!」
ついに陛下が叫んだ。
「なんだこの濃厚さは! 鶏の全てが凝縮されている! なのに脂っこくない! このモチモチした麺が、スープを口の中まで運んでくるぞ!」
「チャーシューもいっちゃってください、陛下」
「おお、この肉か! ……んんッ!? と、溶けた! 肉が舌の上で溶けたぞ!?」
陛下は夢中で丼にかじりつき、最後は器を持ち上げてスープを一滴残らず飲み干した。
プハァッ……!
「余は……満足だ……。これぞ、王者の食卓……!」
カラン、と空の丼が置かれる音。
それが合図だったかのように、会場中からどよめきと、そして絶望的なまでの「飢餓感」が爆発した。
「陛下だけズルい!」
「その匂いだけでご飯が食べられます!」
「私にも! 金なら払うから一杯くれぇぇぇ!」
暴動寸前の貴族たち。
その中心で、私はニヤリと笑ってカイル殿下とミリアを振り返った。
「さて……勝負は私の勝ちということでよろしいですね?」
「う、うぅ……」
カイル殿下は涙目で頷いた。
「ああ、負けだ! 私の負けだ! だから……約束通り……」
殿下はプライドも何もかも捨てて懇願した。
「そのラーメンを……私にも一杯恵んでくれぇぇぇ!!」
「あら、残念」
私は空っぽになった寸胴鍋を叩いて見せた。
「材料、今のいっぱいで切れちゃいました」
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