『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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7章 夏休み

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 あの一件──柊木さん懇親のギャグ事件──があってから、クラスメイトから話しかけられることが増えた。

 音霧の皆さんも少しずつクラスメイトと話すように。福寿さんは相変わらず音霧メンバー以外とは一言も喋らずに本を読んでいるみたいだけど。




 無事テストも終わり数日が過ぎたこの日は、全部の教科のテストが返ってきた日でもある。

 いつも通り皆さんとご飯を食べ、ほっと一息ついていた時。いちごちゃんが走ってA組に来た。ちなみに板前さんと冴木さんも一緒に。

「全教科、赤点回避しました!!」

 いちごちゃんはテストの解答用紙を見せる。確かに全教科赤点回避出来たみたいだ。ギリギリだけど。

「藍ちゃんありがとう! 本当助かった!」
「私もお礼を言わせて! ありがとう!」
「あたしの勉強も見てくれてありがとう!」

 三人にお礼を言われる。……いや、拝まれてる?

「三人の力になれたみたいで良かったよ。」
「後でお礼するね!」

 グッと親指を立てて良い笑顔で言われる。

「気使わなくていいよ? 私がそうしたくてしたんだもの。」
「駄目だよう! お礼はきっちりとしないと! だから私達三人でお礼するね!」

 気にしなくても良いんだけどなあ。

「ほら、返事!」
「は、はいっ!」
「山吹さんと酸漿さんにもお礼をしますね。」

 山吹さんと藤さんの返答も聞かずにいちごちゃんはまた話を続ける。

「藍ちゃん、今日は上位十位までの人達のテスト結果が張り出されるって! 見に行こう!」

 ぐいぐいと私の腕を引っ張って張り出される掲示板に向かう。とても楽しそうだ。

「すごい人だかりだねえ。」
「俺は別にこんなもん見なくても良いけどな。」
「あはは……茜は自分が載ってないのが分かっているから見なくても良いなんて言うんでしょう?」
「うっせ。」

 山吹さん達は背が高くて見えるかもしれないけど、私達は掲示板の周りにいるたくさんの人で見えない。これじゃあしばらくしないと見れないかもな……と判断する。











 ようやく人が少なくなり、張り紙が見える位置に移動する。

「……あ。」

 一番上には山吹さんの名前が。流石だ。

「あれえ!? 藍ちゃん……」

 ギギギッと音が聞こえそうな振り向き方をするいちごちゃんに首をかしげる。

「学年二位!?」

 見ると山吹さんの下に私の名前が。まあ、山吹さんには勝てるとは思ってなかったから驚きはない。

「みたいだねー。いやー、惜しかったー。」
「棒読みすぎる!」
「あいさんすごい!」
「意外だな。」

 いちごちゃんと桃さんはきゃいきゃいはしゃいでいた。柊木さんは驚いている。……私、馬鹿に見えるのかな。

「あ、七位に藤さんも入ってますね。」
「あー、七位ねー。一人分順位下がったかあ。」
「音霧寮の秀才率の高さよ! あたし達すごい人に教えてもらってたんだね。」
「ねー。」

 敦子ちゃんと静香ちゃんもすごいすごいとはしゃいでいた。

 すると、つんつんと肩をつつかれる。誰だろうと振り返ると、福寿さんだった。どうしたんだろう。

「………………すごいな。」

 いつもより話し始めるまでの間が長いが、音霧以外の人がいる状況で話すのは初めてでは? と一人で勝手に感動していた。

「福寿さんが喋った!?」
「え、福寿 椿って喋るの!?」
「初めて見た!」

 いちごちゃん達三人はとても驚いている。あれ、でもいちごちゃんは体育祭の時に一度福寿さんが喋る姿を見ていなかったっけ? あの時は音霧の皆さんの気迫に圧されて気付いてなかったのかな?

「……。」

 福寿さんはいつも以上に眉間に皺を寄せていた。周りにいた生徒さん達も福寿さんが喋ったことに驚いているようで。

 それに気付いた福寿さんは『五月蝿い』と周りに訴えているような目をしている。

 まあ、こうなってしまったのも仕方がないような気もするけど。だって全く喋らない人が四文字も喋ったんだもの。

「ねー、そろそろ戻ろらない? 昼休み終わりそうだよ?」
「そうですね。戻りましょうか。」

 この状況から抜けるためか、藤さんがそう提案する。

 藤さんの一声で、皆さん教室に戻ることに。



「……本当なら私の上に……」

 そんな中、張り出されたテスト結果を見てぽつりと呟く山吹さん。表情は無かった。

 いつも笑っている山吹さんが無表情なんて……何があったんだろう。聞ける雰囲気ではなかったので、私は山吹さんをじっと見ているしかなかった。













 午後の授業も終わり、寮に戻ってきた。ここ最近は私含めて皆さん部屋に篭っていたので、ソファにぐでっと寝転ぶ柊木さんは久し振りに見た。しかしいつものようなリラックスした感じはしない。

「美味しいコーヒー……」

 コーヒー?

「柊木さん、どうされましたか?」
「……美味しいコーヒー……飲みたい……」
「あ、またあかねくんコーヒー不足でぐでっとしてるー。」
「コーヒー不足?」

 桃さんは『また』と言っていた。ということはよくあることなのかな?

「そうなんだよー。テストが終わった時とかは特にコーヒー不足になってぐでっとしてるんだよ。普段は寮で飲んでたりするからそこまでじゃないんだけどね、お店の本格的なコーヒーを定期的に飲まないとああなるの。」
「へー……」

 テスト期間であまり外に出歩けない故のコーヒー不足なのだろうか。

「週末になれば夏休みに入るし、勝手に喫茶店とかに行くみたいだから放っておいていいよ?」
「そうなんですね。週末まで……あと二日はありますね。」
「うん! だから放っておいていいよ! めんどくさいから!」
「めんどくさい……」
「最近は……暑くなってきたから……アイスコーヒー……」

 なんかぶつぶつ呟いてる。アイスコーヒーが飲みたいのね。確かに最近暑くなってきたからアイスの方が良いかもね。

「ああ、またあかねはコーヒー不足ですか。」

 リビングに入ってきた山吹さんは柊木さんの様子を見て納得している。

「あの時から……コーヒーを飲むようになったんでしたっけ。」
「あの時?」
「……いえ、なんでもないです。」

 少し寂しそうな目で柊木さんを見る。やっぱり山吹さんと柊木さんは昔からの知り合いなのだろう。あの時、というのがいつを指すかは分からないが、ここ数年ではなさそう。

「あ、ねーりんどうくん、お腹空いた!」
「ホットケーキでも作りますか?」
「ホットケーキ! 食べる!!」
「では作りますね。少し待っていてください。」

 いつもの日常が戻ってきた。
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