死神ちゃんと天使くん 【完結】

君影 ルナ

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第1部 相棒との出会い

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 アンジュが私の元に来て一ヶ月が経った。と言ってもこの世界では、の話。下界ではまた違った時間の流れらしい。詳しくは知らないけど。

 この一ヶ月、アンジュには主に書類仕事をお願いし、私は死神にしか出来ない魂を狩る仕事に専念していた。

 そのおかげでまあ寝不足寝不足。魂を狩る時に聞こえる残された者達の声が、寝る時に思い出されて眠れないのだ。まあ、寝なくても死なないらしいけどね、精神的に死にそう。

「アンジュー、疲れたー。」

 魂を番人に受け渡した後、執務室の机にだらりと頭をつけ、疲れたアピール。アンジュにも仕事を任せているから本当だったらこんなこと言っちゃいけないけど、そんな風に考えられないくらい精神的に参ってしまっている。

「そりゃあ一日に十軒くらいずつ受け持ってるからね、疲れるでしょ。どうしようかな……そうだ! クロ、台所貸して!」
「ん? いいけどどうしたの?」

 頭を上げてアンジュの方を向く。はいそこ見えてないくせにとかいうツッコミは無しだよー。

「美味しいもん食べれば元気になるかもしれないよ。だから俺が作るっ!」

 張り切っている様子が声から伺える。どんだけいい天使なのさ。自分だって疲れているだろうに私に料理振舞ってくれるなんて……!

 その心遣いに目の奥がつーんと熱くなる。










「じゃーん! 俺特製の~……」

 なんだろうね。なんたって見えないから分からない。でも匂いを嗅ぐと味噌汁のような……

「和食! やっぱり日本人だし、お味噌汁とご飯食べたくなるからね。」
「確かに。」

 死神や天使は何も食べなくても、一睡もしなくても死なないらしい。だから死神になってから何も食べていなかった。お茶は飲んでいたけど。

「食べることは大事だよ。栄養を摂るっていうのもそうだけど、美味しいって思えることが大事だと思うんだ、俺は。」
「そう考えたことはなかったな……」

 義務的に食べていたなあ、と過去を振り返る。

「うん、まあこれは俺の考えだからさ。さ、クロ、食べよう?」
「うん。いただきます。」

 味噌汁を一口飲む。出汁の効いたお味噌汁はとても優しい味がした。

「美味しい……」

 死ぬ間際は何を食べても美味しいと思えなかったのに、今はちゃんと美味しいと感じられる。さっきのアンジュの言ったことが分かった気がする。美味しいって思えるの、大事だね。

 そう思ったら目頭が熱くなる。

「……? クロ、どうしたの?」
「……ううん、なんでも、ない。」
「あれ、もしかして口に合わなかった? クロはどんな味が好き? 次作る時はクロの好みの味にするよ。」

「ううん、そういうことじゃなくて……美味しいって感じるの大事だなあって思ったら感極まっちゃって……」
「そっかそっかー。クロは感受性豊かなんだね。すごくいいと思うよ。」
「そう、なのかな……。すぐボロボロ泣いちゃう自分が嫌で仕方がなくなるけど……」

「泣くのってそんなに悪くないと思うけどなあ。泣きたい時に泣かないと、いつか泣けなくなる日がくるかもだし。」

 じわ、と包帯が涙で濡れる。そうか、我慢しなくてもいいのか。

「でもこれから泣く時は俺がいる所で泣いてね。慰めてあげられるから。」

 ポン、と頭に何かが乗った。よしよし、なんて聞こえたし、もしかしたらアンジュの手だろうか。フードを被っているから手の温度は感じないはずなのに、何故か暖かいと思った。











「作ってもらったから、お皿は私が洗うね。」

 涙も止まり、いつも通りの私が戻ってきた。もう疲れも取れた気がする。

「え、クロ大丈夫? 包帯で目、見えてないでしょ?」

 失敬な。日常生活を送れるくらいには頑張ったのだ。だから大丈夫。

「大丈夫大丈夫。お茶飲んだりした時に湯のみとか洗ってたし、皿洗いも出来るよ。」
「そっか。じゃあお願いするね。」
「はいよ。」
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