死神ちゃんと天使くん 【完結】

第1部 相棒との出会い

6 死神注意

「ええと、今度のターゲットは……」

　魂を狩る前に書類でターゲットの情報を得る。トントンと紙を指で叩くと、紙に書いてある文章が音声として聞こえてくる。

『桜井 鉄郎　享年四十六　過労死』
「と、こっちも時間が近いか。一気に行こうかな。」

　もう一人分資料があったので一気に行ってしまおう。トントンと指で叩く。

『笹田 祥子　享年百四　老衰』
「……よし、行くか。」
「行ってらっしゃーい。」

　アンジュに見送られながら死神用の鎌を持って仕事場所に向かう。












「──ああ、そうしてくれ。……ああ、ああ。分かった。じゃあまた。」

　仕事が忙しいのだろう、せかせかと道を歩く鉄郎さん。そしてその後をついて行く私。生きている人に私は見えないので堂々と後をつける。

「ったく、仕事が終わらねぇな。今日も残業か。」

　お疲れ様です。

　もし死神の仕事に残業なんてあったら、と考えてサッと顔を青ざめさせる。そうなったら心身共に疲れ果てて大変なことになるのが私でも分かった。

　ああ、この人はそうやって疲れ果てて亡くなるのか……。きゅっと胸が苦しくなる。

　……ああ、そろそろかな。私にとっても辛い時間の始まり。

「ぐっ……」

　ドサ、と倒れ込むような音が。鉄郎さんが倒れたのだろう。

「……誰か、誰か……」

　この人はここで亡くなると分かりきっているが、それでも万が一、億が一助かったらいいのに、と考えてしまう。

　このまま放っておくことが出来なかった。だからといって何かアクションを起こすことは出来ないんだけど。この世界のものに触れることすら叶わないのだから。

「誰か気付いて……そして病院に……！」
「大丈夫ですか！？　私の声が聞こえますか！？」

　誰か来てくれた。早く、早く……病院に……！

「救急車！」












　やっぱり私にはどうすることも出来ない。そのことにまた胸が苦しくなる。病院に運ばれた鉄郎さんは結局私が……

「それ、では……鉄郎さんの命は……頂いていきます……ね……」

　じわりと包帯が涙で濡れる。しかし仕事はこなさなければ。鎌を振り下ろして……

　ピーッ

　亡くなったことを告げる無機質な機械音が鳴り響く。













　魂を確認したので、もうここにいる必要はない。

「ぐすっ、次は……」

　それにモタモタしていられない。もう一件あるのだから。ふわりと空を飛び、目的地まで移動する。

「ぐすっ、祥子さんは……」

　病院に着いた私は祥子さんの気配を探す。こっちだな。

　すっとドアをすり抜けると、声が聞こえてきた。

「おばあ、起きて！　ねえ、ねえ！」

　残された者の悲痛な声。それを聞いてまた胸が苦しくなる。ごめん、ごめん……

「置いてかないでよ！　私を置いてかないで！　おばあがいなくなったら私、どうすればいいの！？」

　その言葉を聞いて、ふと私の両親の顔が頭に浮かんできた。その表情は泣いていた。両親の泣いている姿など見たことがないのに。

「それで、は……祥子さんの、命は……頂いていき、ます……」

　また鎌を振り下ろして……

　ピーッ

　亡くなったことを告げる無機質な機械音が鳴り響いた。


　その音を聞きながら自分の館に戻るのだった。